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剣技を放て!  作者: 源平氏
剣の街ソルドン編
22/57

第22話 刺客

「その首貰った!」

「おりゃああ!」


 襲い掛かる剣士とそれを迎え撃つザン。シラフを倒し決勝進出を決めたザンは試合後、すでに三度目となる襲撃を受けていた。敵の剣士が剣を振る。オイルを塗る事で滑りを良くした刃は空気抵抗を極限まで減らし超スピードでザンへと迫った。


 ガキーンと音が響き炎が上がった。剣が打ち合わされ発生した火花がオイルに引火したのである。


「うわっちっち!」


 燃えた服を手の平でたたき鎮火するザン。相手の剣士は尻に火が付いた事でパニックとなり叫びながら走り去っていった。襲撃者の撃退に成功したと言ってもよいのか良く分からない結末であった。


 幸い服は焦げ目がつくだけで済んだ。ザンは額をぬぐう。


「やっぱ決勝進出ともなると、腕試しの標的にされやすいのか?」


 次々現れる襲撃者に対しザンはそんなのんきな感想を述べた。自分に降りかかる異常事態に気づいていない。ザンは他人から向けられる悪意に鈍感であった。



「おおザン。こんな所にいたのか。今こっちから尻ジェット噴射して剣士が走って来たんだが、何か知ってるか?」


 そこにテルスがやってきた。どうやら先ほどの襲撃者を目撃したらしい。野次馬精神を発揮しているようである。ザンは先ほど襲われたことをテルスに話した。


「それはおかしいぞ!? 確かに大会で目立ったら腕試しに挑まれやすくはなるとはいえ、決勝直前に立て続けに襲われるのは妙だ。さすがに試合前は遠慮するはずだからな」


 テルスは驚きながらそう言った。今の襲撃は妙だったのかなどと内心で思うザン。


「じゃあなんで俺襲われてるんだ?」

「……何者かが裏で糸を引ている可能性があるな」

「何者かって、何者なんだ?」

「ザンの優勝を阻止したい誰かだろう」


 ザンは首を傾げた。そして予選でのことを思い出す。


「そういえば、……名前は忘れたけど、予選の時に剣士連盟の職員が俺を大会に出場させないとか言って襲ってきたな」

「連盟がだと!? ……まずいな。もし黒幕が連盟だったら、恐らく今後も剣士が襲ってくるはずだ」

「何か理由を付けて失格にしてくるんじゃなくてか?」

「さすがに決勝戦が不戦勝だと観客からブーイングが続出するだろう。それは連盟にとっても面倒なはずだ。とすれば、決勝には出場させるがその時には疲労困憊になっているようにするのが連盟にとっては最も良い」

「なるほど!」


 誤解である。黒幕は連盟ではない。決勝の相手であるホーメンである。ちなみに予選でザンを襲撃した職員のオーサンはその行いが上司にバレて懲戒処分となっている。オーサンを連盟に突き出した本人であるザンはしかしその結末を知らなかった。


「連盟のやつら、許せないな。いい加減な組織だとは思っていたが、まさかこれ程とは!」

「俺はこんな卑怯な企みには負けねえ!」


 反骨精神と正義感のコラボにより二人の気持ちに熱が入っていく。だが誤解なのである。黒幕はホーメンなのである。



 その時突如二人を鎌鼬が襲った。次の刺客が放った遠距離斬撃である。巻き上がった砂ぼこりが晴れると無傷の二人が姿を現した。テルスが剣を抜き刺客の前に立つ。


「テルス、相手の狙いは俺だぞ?」

「かまわないから俺にやらせろ。お前は決勝に備えて休め」

「お、助かる。じゃあ任せるわ」


 テルスを再び鎌鼬が襲った。テルスが剣を振るうと、弾き返された鎌鼬が刺客へと向かった。まさか跳ね返ってくるとは思っていなかった刺客は慌ててそれを避ける。


「新戦術を試させてもらおうか」


 テルスが刺客に斬りかかった。刺客はそれをとっさに避ける。


「まずわざと敵に攻撃を避けさせる」


 テルスの剣に攻撃一回分の威力がチャージされた。テルスが剣を返す。


「そして体勢が崩れた所に本命の一撃を加える!」


 テルスは剣の側面で刺客の側頭部を打った。チャージにより見た目以上の衝撃が刺客を襲う。刺客は一回転して顔から地面に着地したのであった。



「よし、こいつ尋問するぞ」


 テルスが倒れた刺客を足で小突く。反応が鈍いので何度か蹴ると刺客はグエっと声を出しながら意識を覚醒した。そして自分を見下ろすテルスとザンを見て身を縮こまらせる。


「一体誰の差し金でこんなことをした。言え」


 テルスが剣を突きつける。刺客は黙ったままだ。テルスは剣の側面でビンタをした。


「もう一度聞く。誰に依頼された?」

「……さあな」


 ズガンと音がして地面にひびが入った。落ちていた刺客の剣にテルスが剣を振り下ろしたのである。刺客の剣は根元から折れて散らばった。


「ぎゃああああ! 俺の剣がああああ!」


 剣士にとって命に相当する剣を破壊された事で臓器不全を起こし刺客がのたうち回った。内臓を一つ潰されたようなものなのだから当然である。剣から感じる激痛に、刺客の額に脂汗が浮かぶ。


「何か言う気になったか?」


 そう言って改めて刺客に問い質すテルス。刺客は剣を折られた痛みに耐えかねてあっさりと白状した。


「ホ、ホーメンだ! ホーメンに雇われたんだ!」

「嘘をつくな!」


 テルスの剣ビンタが再び刺客を襲う。なぜという顔で恐怖する刺客にテルスが言い放った。


「剣士がそんな簡単に雇主の情報を吐くはずがない。お前は嘘をついている!」

「えええええええええ!?」


 本当の事なのにと動揺する刺客。だがテルスに尋問の経験など皆無だった。そのため既に刺客の心が折れていることに気づいていなかった。


「お前が本当の事を言うまで、お前の剣を折り続ける。辛くなったらいつでも本当のことを白状していいぞ」


 テルスが折れた刺客の剣に再び剣を振り下ろす。剣の破片がさらに細かくなった。刺客が痛みに絶叫する。


「ほ、本当なんだ! ホーメンに雇われたんだあああ!」

「まだ白を切るか!」


 破片がさらに砕かれる。もはやそれは剣の原形を保っていなかった。刺客が過呼吸になる。激痛でしゃべることもできなくなっていた。そしてそのまま気絶したのだった。


「気を失ったか。結局黒幕が誰なのか分からなかったな」

「いやテルス、ホーメンが犯人じゃね?」


 ザンがそう指摘する。疑う事になれていないザンの方が、今この場においては正解なのであった。



「なあテルス、次襲われたらやっぱ俺が相手するわ」


 気絶した刺客を連盟に突き出したものの、ホーメンの指示という証拠がないと対応できないと言われてしまった二人。ザンはテルスにそう言った。


「なぜだ? 体力は温存したほうがいいだろう」

「いや、せっかく敵がいるんだから剣技の練習がしたい。いつでも使いたい時に発動できるようにならないとな」


 死ぬ寸前まで追い込まれないと発動できないのでは不安が残る。そうザンは思っていた。他の剣士のように、いつでも使えるようになりたいとザンは思ったのである。


「なるほど、じゃあ次の刺客が来るまでは俺が練習に付き合うぞ」

「お、サンキュー!」



 明日はいよいよ決勝戦。泣いても笑っても最後の試合てある。


次回、第23話 決勝:ホーメン

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