第13話 試合観戦
大会三日目、試合は二回戦に突入である。ルドルフの棄権により不戦勝が確定しているザンはテルスと共に試合を観戦していた。ザン達が居る観客席は人々で埋め尽くされており、その熱狂ぶりにザンもつい気分が高揚していた。
「今の二刀流の剣士かサーベル使いのどちらかが、ザンが決勝で当たる可能性の高い相手だ」
昨日の時点で有力選手を調べていたテルスがそう言った。ザンはそれに頷く。
「どっちかといえば二刀流の方が決勝に来そうだな」
「俺もそう思う。二本の剣にそれぞれ別の剣技を発動させるのは厄介すぎるな。サーベル使いがあれに勝てるとすれば、あの独特な立ち回りでうまく隙を突けるかどうかにかかってるだろう」
テルスの解説にザンはサーベル使いの試合を思い出した。半身に構えて小刻みにピョンピョン跳ねる姿には観客たちも笑っていた。しかしそのステップで敵のリズムを崩し翻弄するあの剣技は見た目以上に恐ろしそうだ。サーベル使いの対戦相手は体内時計の周期を極限まで延ばされたことで時間停止に近い状態に陥っていた、らしい。ザンはどうやって対策すればいいのか思いつかなかった。
「次の試合が始まるぞ。ここで勝った選手がザンの三回戦の相手だ」
テルスがそう言う。闘技場では二人の選手が既に向かい合っていた。片方は異様に背が高い男だ。恐らく二メートル半はあるだろう。そしてその身長で背負っても先が地面すれすれまで届くほどの長剣。直立しているのに手が膝まで届いている。なんというか、とにかく長い。
もう一方は対称的に小柄だった。だがそれ以上に目立つ個性をその選手は持っていた。剣を持っていないのである。そして少女だった。少女の色の抜けた赤い髪にザンは見覚えがあった。
「あの娘、予選で見た女の子だ!」
「ああ、知ってるのか。今大会の最注目株だ。年齢、性別、戦闘スタイル、どれを取っても異色と言っていい。それに大会のために他所から来た剣士らしくて誰も知らなくてな。謎の多さも相まって街ではあの子の話題で持ち切りだ」
テルスが話しているうちに試合が始まった。男剣士はそのリーチを最大限に生かして一方的に攻撃を仕掛けている。少女はなんとか接近しようと男の剣を避けて踏み込む。しかし男も後ろに下がる事で間合いを維持していた。
「あの娘は予選で相手を殴ってたけど、それがあの娘の戦闘スタイルなのか?」
「いや、前の試合を見たんだが、相手の剣士を手刀で斬っていた。恐らくだが手に切れ味を付与しているんだろう。だがそれ以上に厄介なことがある」
「厄介?」
「試合をよく見てみろ。剣を腕で受け止めているだろ?」
確かに男の剣を少女は腕で防御している。だが怪我はないようだ。受け止めた時に観客の声援に隠れて金属音が聞こえてきた。
「恐らくだが刃が立たない程に肉体を硬化しているはずだ。剣技と見て間違いないだろう。今まであの子は無傷で試合に勝っている。あの子に勝つにはあの防御を突破しないといけないんだ」
「それは確かに厄介だな。斬っても斬れないんじゃ勝ちようがない」
ザンは頭を悩ませた。恐らく次の試合に勝ちあがってくるのはあの少女だろう。それまでになにかできる対策は無いだろうか。
「テルスならどう戦う?」
「俺なら試合前にフルチャージしておいて街の外まで吹っ飛ばすな。そしたら場外負けで勝てる」
「うーん、俺にはできないな」
「俺を倒したあの剣技ならいけるんじゃないか? そうじゃなくてもさすがにあのレベルの威力ならダメージあると思うぞ?」
「それが、あれから何回やってもあの剣技を発動できないんだ。というかどうやって発動したらいいのかもわかんねえ」
一回戦でザンが使った、剣に不可視のエネルギーを纏わせる剣技。しかしザンが何度再現を試みても全く発動しなかった。
「あの時はザンは極限状態だったからな。偶然発動できたのか、もしかしたら追い込まれる事で発動できるタイプの剣技なのかかもしれないな」
「そんな剣技もあるのか」
「ああ。死んだときに発動する剣技なんて与太話もある。さすがにそれは嘘だろうけどな」
その時試合の流れが変わった。少女が男の剣を潜り抜け、手が届く距離にもぐりこんだのだ。
「あの子の間合いに入られたな。素手の戦いは超接近戦だ。リーチが長い側からすればやりにくくて仕方ないだろう。距離をリセットできなければそのまま男が負けるだろうな」
その後長身男は少女から離れることが出来ず、その試合は少女の勝ちで終わった。ザンの次の対戦相手が決まったのである。
次の試合は短剣使いと曲刀使いの戦いだった。短剣使いは刀身の長さを見た目以上に長くする剣技、曲刀使いは斬撃をブーメランのように飛ばす剣技を使った。最終的には短剣のリーチを伸ばしながらの突き技により短剣使いが勝利した。
「今の試合と次の試合のどちらかがザンの四回戦の相手だ。まあ、おそらくというかほぼ確実に、次の試合の選手が勝ち上がってくるだろうけどな」
「なんでだ?」
「次の試合はお前の知り合いが出るからな」
「知り合い?」
「ああ。ほら、登場したぞ。見てみろ」
ザンが闘技場を見る。片方は筋骨隆々の偉丈夫、そしてもう一方は腹が突き出した中年である。その中年にザンは見覚えがあった。
「あ、ガルンだ! あいつも予選勝ち上がったのか!」
「なんだ、両方ともザンの知り合いか。というかそっちじゃない。マッチョの方だ。お前の知り合いだぞ。誰か分かるかな?」
ザンは筋骨隆々の男をみて首を傾げた。二十台後半くらいに見える金髪の男だ。ザンの身長位の大剣を軽々と持っている。だが記憶をいくら掘り返しても見覚えが無い。
「あいつこそがソルドン最強だ。大会八連覇中で、ソルドンで唯一剣王の称号を持つ男。俺が目標にしていた奴でもある。奴が大会で優勝し続けるせいで剣聖の実力があるのに剣聖になれない奴も居るくらいだ」
「結局誰なんだあいつ? 全然見おぼえがないぞ?」
ザンがこれから驚くのを予想しテルスはにやりと笑った。
「あれはシラフだ」
「……え?」
ザンは、いつも酔っぱらって絡んできた冴えないオヤジを思い出し困惑した。
次回、第14話:運命の出会い




