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剣技を放て!  作者: 源平氏
剣の街ソルドン編
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第1話 剣士になりたい少年

新作です。とりあえず最初の見せ場の4話まで書いたので投稿。

今度はジャンルを変えて熱血バトルもの、のはず。

お楽しみいただければ幸いです。

 鬱蒼と茂った森を分かつように伸びた一本道を、一台の馬車が進んでいた。土が剥き出しになったその道の両側からは木の根が侵食してきており、馬車の車輪がその根を踏むごとに荷台がゴトゴトと振動する。その荷台には荷物に挟まれるように少年が座っていた。十五歳ほどの、僅かに外にはねた黒髪の少年である。


 少年は尻の痛みに耐えかねて、気を紛らわせるために御者席に向かって声をかけた。


「なあ、商人のおっちゃん。あとどれくらいでソルドンに着くんだ?」

「そうだなぁ、あと二時間くらいだな。日が沈む前にはソルドンに着くだろうぜ」


 かれこれ半日は座りっぱなしである。少年にとっては残りの二時間ですらうんざりするほど先に感じた。タダで相乗りさせてもらえているだけ徒歩よりはマシだが、荷物と一緒に揺られる事に少年は辟易していた。


「そう言えばボウズの目的を聞いてなかったな。ソルドンに何の用だ? やっぱあれか? ボウズも剣士になりたいのか?」


 少年の気を紛らわせたいという思いを察したのだろう。御者台の男が少年にそう尋ねた。


「ああ。この辺で一番剣が盛んなのはソルドンだからな。剣一本でやっていくならあそこが一番良いって聞いた」


 少年は抱えていた剣の鞘を撫でた。長年鍛錬で使ってきたその剣の柄は、巻かれた布がボロボロになっていた。街についたらメンテナンスしないとと少年は内心思う。


「勇ましいねぇ。でも気を付けな。ボウズみたいにソルドンで一旗上げようってやつは多い。でもそのほとんどが剣士になれずに故郷に帰っていくんだ。なんでか分かるか?」

「……分かんね。なんでだ?」

「剣士ってのはどいつもこいつもとんでもねえ強さだからだ。腕っぷしに自信がある奴らの大半が挫折し去っていく。そんな世界なのさ」

「へえ、俄然楽しみになってきたわ」

「はっはっは。強気だなボウズ! ……んん?」


 商人の男がおもむろに手綱を引いた。馬が止まり馬車の揺れも無くなる。少年は何事かと荷台から頭を出した。


「運が悪かったなボウズ。どうやら賊みてえだ」


 商人の男が前方を見据える。少年がつられてその方向を見ると、道を塞ぐように一人の男が立っていた。手には剣が握られており鈍く光を反射している。


「この道じゃ馬車を反転させるにも時間がかかる。逃げるだけの時間は……与えちゃくれねえだろうな」

「任せなおっちゃん。俺が時間を稼ぐよ。ここまで乗せてくれたお礼だ」

「馬鹿! 相手は剣を持ってるぞ! もしもあれが剣士だったら勝ち目はねえ!」


 馬車を降りようとした少年の腕を掴み商人の男が叱咤する。真剣な表情の男に向かって少年はニカッと笑って見せた。


「俺はこれから剣士になるんだ。こんな所で負けるつもりも死ぬつもりもないよ。大丈夫、鍛錬はしっかり積んできたからさ」


 少年が半ば強引に腕を振り払い地面に降りた。剣を抜き馬車と賊の間に立つ。


「ああもう! 死ぬんじゃねぇぞ!」


 少年とは昨日今日出会っただけの関係だ。自分の安全とどちらが優先されるかは言うに及ばない。商人の男は仕方なしに手綱を操り馬車の向きを変え始めた。それを見た賊が一気に距離を詰めて来る。その賊に向かって少年は声を張り上げた。


「お前! 見た所剣士のようだな! 何者だ! 名を名乗……のわっ!?」


 少年の呼びかけは賊が斬りかかる事で中断された。振り下ろされた剣を少年はとっさに受け止める。しかし勢いを止めきれずよろめいた所に賊の二撃目が迫った。それを下から掬い上げるように弾いた少年は後ろに跳び距離を取った。


「おい! 名乗れよ! 剣士は決闘の前に名乗るのが礼儀だろ! そんな事も知らないのか?」


 少年の言葉に対する賊の返答は斬撃だった。間合いから完全に外れた距離で放たれた斬撃が少年の頬に傷をつけながら通り過ぎる。ズシン、と後方で音が鳴り響き、商人の男の悲鳴が聞こえた。少年がつられて後ろを向くと、馬車の前に大木が倒れ道を塞いでいた。


「斬撃が……飛んだ!? どうやったんだそれ!?」


 賊が再び斬撃を飛ばす。少年はそれを避けた上で剣で弾いてみた。金属音と共に手に衝撃が伝わってくる。間違いない、今の攻撃で木を斬り倒したのだと少年は確信した。


「それが剣技ってやつか? すげえ! 初めて見た!」


 少年が突進し斬りかかる。互いに剣を振るい、防ぎ、また振るう。目を輝かせながら剣を振るう少年に、賊は僅かにうろたえた。強引に距離を取り斬撃を連続で飛ばす。近寄りたくないと言わんばかりにやたらめったら放たれた斬撃はしかし、少年には避けきれないほどの猛攻だった。


「うわっ、ちょ! やべっ!」


 襲い来る斬撃の中を少年が躍る。避けきれないものは剣で受け、何とか命を繋いでいた。このままでは一方的にやられてしまうと少年は打開策を探す。遠距離から賊を攻撃できないかと思った時、足元を薙ぐように斬撃が飛んできた。大きく跳んで躱した少年は空中で自らの失敗に気づく。空中では避けられない。


 賊がにやりと笑った。剣を振りかぶり止めを刺そうと振りかぶる。後は斬撃を飛ばせば少年の体は斬り裂かれるだろう。


 その直後、賊の予想だにしなかったことが起こった。


「おらあ!」


 少年が賊に向かって剣を投げていた。予想外のその行動に賊は反応が遅れる。剣は回転しながら賊の胸に吸い込まれていき、その体を貫いた。


「あっぶねー、当たってよかったー」


 着地した少年は賊に近づき死んだことを確認すると剣を引き抜いた。血濡れの刀身を見てうへぇと声をだす。


「おーい、ボウズ! 助かった!」


 そこに商人の男が駆け寄ってきた。逃げられないからと少年の戦いを見守っていたようだ。


「ああ、おっちゃんも無事で良かったよ。剣士と戦うのは初めてだったけど何とかなったよ」

「馬鹿言っちゃいけねえボウズ。こいつが剣士だったら二人とも死んでるぜ。こいつはせいぜい剣士見習いってとこだな。弱すぎる」

「そうなのか!? なんか剣技みたいなの使ってたぞ?」

「剣技って、ヒュンヒュン飛ばしてた攻撃の事か? 遠距離攻撃なんて全然珍しくないぞ? ソルドンじゃよくある光景だ」


 商人の男の言葉に少年の期待が高まる。ソルドンの剣士がどれだけ強いのか、少年はすぐにでも知りたくてたまらなくなった。


「そう言えばこいつ、結局名乗らなかったな。……あ、そっか。人に名前を聞くときはまず自分からって言うもんな」


 少年は全ての謎が解けたと言わんばかりの顔で賊の死体を見下ろし名乗った。


「俺の名前はザン。剣神を目指している男だ。ごめんな、殺しちゃって」


 ザンと名乗った少年は恐らく、どこかが致命的にズレていた。


次回、第2話:剣士になれない!?

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