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黒い鬼の詩  作者: ちゃぺ&しろ
5/10

序~鬼の貌(かたち)~

 「桃太郎さん」


 「桃太郎でいいと言っただろう。何だ黒よ」


 雨で濡れた衣服も乾かないまま、二人は歩きながら話しておりました。


 「あ…じゃあ、桃太郎。あの…僕、行くところが無いんです。このまま、桃太郎について行ってもいいですか?」


 「始めからそのつもりだ…。君をここから連れ出す、と言ったはずだ」


 そこで黒は、ずっと疑問に思っていたことを、桃太郎に聞きました。

 

 「はい…それと、僕を知っている。とも言いましたよね。僕たちは、知り合いだったんですか?」


 桃太郎は少し考えた後、言いました。


 「知り合い……ではない。ある人の命令で君を連れてこい、と言われたので、君の事を少し調べさせてもらった」


 "ある人"が気になりましたが、黒は話を聞いていました。


 「そこで、鬼の牢獄に囚われていると知り、助けに来た…というわけだ。…殺される前で良かった」


 鬼の牢獄と聞いて、黒はまた疑問が出来ました。


 「やっぱり、鬼と人間は敵対しているんですよね。僕も鬼だからという理由で、あんな所に…?」

 「その通りだ。それと記憶がないのは、おそらく羅刹(らせつ)と化したせいだろう」


 羅刹。


 黒には聞き覚えがない言葉でしたが、何故かその言葉で、黒の鼓動が少し早まりました。


 「羅刹…って、何ですか」


 「鬼は極度の空腹が続いたり、極限まで追い詰められたりすると、自我を失い暴走状態になることがある…これを羅刹化という」


 黒は何かを思い出しそうになりました。


 「羅刹化した場合は、ほぼ確実に殺処分される。運よく元に戻れた場合でも、記憶に異常をきたすことが多い…らしい」


 「記憶に…異常……」


 「だが何も思い出せない、というのは予想外だった…。あの豚まん…だったか?あれに余程酷い目に遭わされたのかも知れぬ」


 「素武多…ですよ。でも、羅刹化したのは素武多に捕まる前です…多分」


 ある日、自分は羅刹となり暴走し、殺されることはなかったが、記憶を無くし、鬼の牢獄へと送られた。


 黒が思い出せたのは、そこまででした。


 「そうか…しかし黒よ、君はこの世界を知らな過ぎる」


 歩きながら話していた桃太郎が突然立ち止まり、言いました。


 「このままでは、君はすぐ死ぬ。教えてやろう、生きていく術を…」


 すると、桃太郎は刀を抜き、黒の方へ切っ先を向けました。


 「な…何を……?」


 そして、刀が閃いたと同時に、黒は斬られた

…ように見えました。


 「うわぁあっ!!」


 黒は思わず目をつむり、叫びを上げました。

 しかし、自分が斬られたのではないと気付いた黒は、振り返りました。


 「な…何だこいつは!?」


 桃太郎が斬ったのは、いつのまにか黒の背後にいた、奇妙な生物でした。

 それは黒の半分程の背に、猿のような外見ですが、体毛はなく、緑色の皮膚。布切れを纏い、頭から小さな角が一本生えていました。


 「こいつは、天邪鬼(あまのじゃく)…鬼という字がついてはいるが、妖怪だ」


 「妖怪…?小鬼…とかではなく?」


 どこか鬼に見えなくもない外見に、黒は少し動揺しました。


 「ああ……正確には、小妖怪だが。」


 「小妖怪…ということは、中妖怪とか、大妖怪もいるんですか?」


 「そういう事だ…。そして、鬼と人間は敵対しているが、妖怪は中立……敵と味方、そのどちらでもない」


 「どちらでもない…。それって、殺しても良かったんですか?」


 桃太郎に斬られた天邪鬼は、血溜まりの上で絶命していました。


 「生き残りたくば、殺すしかない…。この世界とは、そう出来ているのだ……」


 殺すしかない。その言葉に黒は、ごくりと生唾を飲みました。


 「中妖怪以上は、ほとんどが人の姿に変化出来る…。しかし、小妖怪は獣と変わらん。油断していると、喰われるぞ」


 桃太郎はそう言うと、持っていた刀を今度は脇道の茂みへ向けました。

 すると茂みが、がさがさと音を立てると、そこから新たな天邪鬼が現れました。


 「げっ、もしかしてこいつの仲間か!?」


 しかも一匹ではなく、三匹。おまけに、木の棒や骨らしきものなど、それぞれが武器を持っていました。


 「も…桃太郎?」


 黒が焦っていると、桃太郎は自身の刀を、黒の目の前に突き刺しました。


 「貸してやる。刀を取れ」


 「は…?」


 「君が戦え、黒」


 「な…なん、だって……?」


 「こいつらを殺せ、と言っている!!」


 「えええええっ!?」

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