序~鬼の色~
黒が素武多の腕を食べ終えると、なんとか普通に歩けるようになりました。
「思い出しました…全部ではないですが、自分が鬼だということは、はっきりと…」
「そうか…ならばその角も、早く隠した方が良い」
「角…?」
すると桃太郎は、刀に付いた血を拭き取り、鏡のように黒の姿を映しました。
そこに映っていたのは、少し長く、所々つんつん跳ねた黒髪。まだあどけない、少年のような顔立ちの男でした。
しかし普通の少年と違い、頭の両側には、上の方へと反り曲がった、禍々しい角がありました。
「う…うわぁっ!!」
黒は自分自身の奇妙な姿に、思わず声を上げました。
「どうした。角の隠し方も思い出せぬか。腹が満たされたなら、簡単だろう」
「いえ…隠し方以前に、自分に角があったことも忘れていたので…」
「そのまま外へ出たら目立つ。角を消したいと念じるだけでいい、早くしろ」
桃太郎に言われて、黒は力一杯念じましたが、どうしても角は消えてくれませんでした。
「駄目です…」
「そうか…ならば、切り落とす」
「へっ?」
すると桃太郎は、一瞬で両方の角を切ってしまいました。
「あ…あれ?」
やはり黒には、桃太郎の動きが全く見えませんでした。
「服もぼろぼろだな…仕方ない、これでも着てろ」
桃太郎は、自身が羽織っていた毛皮の外套を黒に被せました。
「あ…どうも…」
「さあ行くぞ…と、その前に後始末が残っているな…」
桃太郎は、周りに転がった死体の山を見て言いました。
「後始末って…?」
黒は嫌な予感がして、聞き返しました。
そして桃太郎の持っていた刀を見てみると、なんと突然、刀が燃え上がったのです。
「ちょ…ちょっと待っ……!?」
嫌な予感は、的中しました。
「神業・火叢之輪太刀!!!」
刀が振り下ろされると、爆発と共に、辺りを炎の壁が囲みました。
「ひょえぇぇぇ‼」
黒が悲鳴を上げますが、桃太郎は刀を仕舞うと、すたすたと出口へ歩いていきました。
「置いていくぞ」
「ま…待ってくださ~い!!」
黒は熱さに耐えながら、炎の向こう側へ消えてしまった桃太郎を追いかけました。
「ぜえ…ぜえ……、も…桃太郎さん…?」
「桃太郎でいい。何だ、黒」
外へ出ると、黒が息を切らしながら、桃太郎に言いました。
「や…やり過ぎですって!これ、どうするんですか!?」
黒が指差した先では、小ぶりの城のような建物が、めらめらと燃えていました。
「あぁ、少し激しいな……」
無表情で燃えさかる城を見つめる桃太郎でした。
それを見て黒は、「て…天然だ…」と呟きました。
「誰が天然だ……すぐに消す」
桃太郎にはしっかり聞こえていました。
そして桃太郎の刀が、今度は水を纏っていきました。
「神業・細雨降!!」
桃太郎が刀を振り上げると、空が光りました。
すると雨が、…凄まじい雨が、突如として降り注ぎました。
「うぎょあぁぁぁ!!目が、目がぁ~っ!」
黒は、目も開けられない程の雨に、のたうち回りましたが、桃太郎は平然としていました。
何秒かして雨は止み、城は焼け跡となりました。そして…
「ごば、ごばばばば……」
「どうした、黒」
目を回して倒れている黒に、不思議そうに問う桃太郎。
(やっぱり天然だ……)
と、黒は心の声で突っ込むのでした。