序~鬼の音~
「す…素武多様がやられた!?」
「こいつ…化け物だ…!」
自分たちの主があっさり倒されてしまい、部下の兵士たちは皆取り乱してしまいました。
刀の男は、その隙を見逃す筈もなく、次々と残党たちを斬り伏せていきました。
「うがああああ‼」
「ひぃぃぃ!!!」
「た…助け……ぐはっ」
ほんの十数秒で、皆殺しでした。
「さて…終わったぞ……」
振り向いて、黒鬼へと近づく刀の男。その姿は、鬼よりも鬼らしく見えました。
「あ…あなたは一体……」
動けないまま、黒鬼は尋ねました。
「俺は…」
と、刀の男が答えようとしたところで、
「ぶひぃ~っ、ぶひぃ~っ……」
豚…ではなく、素武多が立ち上がりました。
「何だ、まだ生きていたか」
お腹の脂肪が幸いしたのか、血を流し続けながらもまだ、素武多はまだ息がありました。
「ぶはぁっ!……き、貴様、何者……」
素武多は吐血しながら、刀の男に問いました。
「俺は……只の人間だ」
素武多の方ではなく、黒鬼に向けて、刀の男は答えました。
「う…嘘を吐くなっ!わざわざ鬼一匹を助けるのに、これだけの事をするなど……貴様も鬼だろう!!」
素武多は息も絶え絶えに、刀の男に言いました。しかし……
「黙れ」
「ぶがっ」
黒鬼が瞬きする間に、素武多の首が宙を舞いました。
ごとり、と生首が落ち、素武多の体は倒れ、今度こそ絶命しました。
(は…早い…。全く見えなかった……)
すると刀の男は、素武多の首を拾い上げ、黒鬼の前へと投げつけました。
「な…何をするんです?」
転がった素武多の首は、まさに豚の生首そのもので、黒鬼は思わず後退りしました。
「何って…食べないのか」
「えっ」
「腹…減っているんだろう。それとも、腕の方が良かったか?」
(食べる…?何を言っているんだ、この人は)
刀の男の言うことが何一つ理解できず、黒鬼は男に聞きました。
「あの……、そろそろ教えてくれませんか?あなたが何者なのか、そして僕が何者なのかを」
その問いに、少しの間沈黙した後、刀の男は答えました。
「俺は…桃太郎という。さっきも言ったが人間だ。そして君は……黒鬼。"黒"と呼ばれている……鬼だ」
鬼。
(そういえば、この豚も、鬼がどうとか言っていたような…)
黒鬼の黒は、何故か急に素武多が美味しそうに見えました。
「やはり、自分が鬼という事も忘れていたか…」
桃太郎が言うと、今度は素武多の切り落とされた右腕を拾い、黒に差し出しました。
「ちなみにこいつは、豚の姿をした妖怪に見えるが人間だ……旨そうだろう」
黒は、ついに空腹に耐えかね、差し出された腕に喰らいつきました。
そして、人間の肉を味わったとき、思い出しました。
(そうだ…僕は、鬼だった…。人間を食べる、鬼だったんだ……)




