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009,尾羽根



 結界魔法。

 指定した場所に、Lvに応じた強度の結界を張る防御魔法。

 Lvに応じて様々な結界を張れるようになるが、Lv1から使える自在結界には魔力を意図的に注ぎ込むことで強度を上げることができる裏技がある。

 ただし、注ぎ込める魔力には限界が当然あり、無制限に強度をあげることはできない。


 だが、限界まで魔力を注ぎ込んだ自在結界を複数枚並べた場合はどうなるか。

 その結果は――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まだ生きてるのか……信じられないな」


 直上から降ってきた巨大な鳥は、限界まで魔力を注ぎ込み、普段張っているものとは強度が十倍以上違う結界の束を半分以上ぶち抜いた。

 直上から降ってきたのだから、そのまま何もしなければ自身も地面に激突し、ミンチになっていただろう。

 だが、この鳥はしっかりと対策を施していたようで、風魔法をいくつか纏っていた。

 そのうちのひとつが緩衝材となり、結界に激突した衝撃を和らげたのかもしれない。

 しかし、纏っていた風魔法はおそらく本来は地面に激突する前にコースを無理やり変えるものだったのだろう。

 突撃でオレへ当たるはずだったダメージは完全に自分に跳ね返ってしまっていた。


 その結果、完全に鳥は虫の息だ。

 いや、あれで死んでいないのには驚きしかないが。


 太さが成人男性の太ももほどもある首は押しつぶしたようになっており、一抱えほどもあるくちばしには亀裂が走り先の部分は行方不明だ。

 羽も無残にへし折れ、腕のように太い足も両方とも折れている。

 もはや生きているのがやっとという状態のはずだが、鳥の周囲には風刃がいくつか浮いている。


 動けもしないくせにまだ戦う気とは……。

 だが、先輩方が口を酸っぱくして言っていたっけ。


『手負いの獣ほど怖いものはない。確実に止めをさせ。死んだはずなどと侮るな』


 先輩方の教えのおかげで、不用意に近づくことも、油断することもなかった。

 風刃をすべて土弾で相殺し、それ以上の数で息の根を確実に止めた。

 さらに近づく際には、鳥を隙間なく結界で囲って安全を確保することも忘れない。

 完全に死んでいることを確かめてやっと安堵の息を吐くことができた。


 異世界二日目でなぜこんな強敵と戦わなければいけないのか。

 まじで勘弁してほしい。


 巣穴とは違う穴が大量にできた荒れ地に座り込み、やっと一息つくことができた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 死闘を繰り広げた鳥は、よく観察してみると研修で学んだ魔物の特徴を持っていた。

 大部分は違っていたので、こうしてじっくり見れるようになるまではわからなかったのだ。


 おそらくではあるが、この鳥はヘルコンドルと呼ばれる怪鳥の一種だ。

 風魔法を巧みに操り、反撃しづらい空から一方的に攻撃するこの世界の人たちにとっては天敵に近い最悪の魔物。

 さらに、あのとんでもない威力の突撃は破城槌の異名を持ち、空飛ぶ災厄とさえ呼ばれている。


 魔物は生物である以上、すべて同じ姿形をしているわけではない。

 ときにはまったく違う姿をしているものもいるくらいだ。

 今回は部分的にヘルコンドルの特徴を有していたし、何より討伐証明部位や素材として活用できる部分がヘルコンドルのままだった。


 死骸も持って帰ればいいのだろうが、残念ながら巨体すぎてひとりでは無理そうだ。

 剥ぎ取れる部分はすべて剥ぎ取ったが、このままここに残していった場合、強力な魔物だけに何が寄ってくるかわからない。

 特に、魔法が使える強力な魔物の死骸の場合は、ほかの動物が食べると突然変異を引き起こす確率が高くなる。

 あのプレーリードッグモドキのような野生動物ですら、このヘルコンドルを食べさせたらどんな影響があるかわからないのだ。


 魔法を使えない魔物ならそれなりに強い魔物でも大した問題はない。

 まあ、まったくないわけではないが、魔法が使える魔物を食した場合とは雲泥の差がある。

 シンドール大草原にいた魔物なんて食べたところで腹が満たせるだけだろう。


 だが、このヘルコンドルは一流の魔法使いといえるほどに、魔法に熟達していたので放置はできない。

 疲れてはいたが、土魔法の土操作で大きな穴を掘り、油をかけて燃やすことにした。

 油は、生活魔法が使えなかったときに灯りなどに使用するために所持品の中に入っていたものだ。

 生活魔法が使えるので、まったく必要使っていなかったがこんなところで使うことになるとは。

 ただ火をつけただけでは、燃やし尽くすまでいつまでかかるかわからないからね。


 ちなみに、ヘルコンドルは食用には適さない。

 臭みが酷いらしく、美味しくないそうだ。

 巨体だから食いでがあっただけに残念だ。

 焼ける匂いはそれなりに美味しそうなんだけどなぁ。


 まあ、ちょうどいいので屋台で買った謎肉を挟んだ黒パンを食べるとしよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 謎肉はまずかった。

 黒パンも堅いし、踏んだり蹴ったりである。

 せめてスープがあれば違ったのかもしれないけど。

 生活魔法の水じゃ味気なさすぎだったよ。


 油をかけたおかげで、ヘルコンドルの焼却はそれほど時間はかからなかった。

 自在結界で空気孔と煙突を作ったのもよかったのかもしれない。


 あとは燃え残った骨などを集めて、土操作でコンクリート並に硬くした土箱に集めて蓋をして、さらに深く穴を掘って周囲を固めて埋めた。

 これだけやれば十分だろう。

 近くにプレーリードッグモドキの巣穴があるのが若干不安だが、あれだけヘルコンドルが大暴れしたんだから棲家を移すかもしれない。


 それに……。


「あーあ……尻尾……」


 ヘルコンドルとの戦闘で、集めたプレーリードッグモドキの尻尾は袋ごとずたずたになってしまったいた。

 風刃の威力はそれなりだったから、三十本の尻尾は証明部位としては成り立たないくらい酷い有様だ。当然、袋も。


 今から狩りをし直すのもつらい。

 何よりあいつら巣穴からでてこないし。

 期限はまだ数日あるから、明日またくればいいのかもしれないが、引っ越ししてたら無駄骨だしなぁ。


 なんだか考えるのも面倒になってきたので、今日のところは一旦帰ることにした。

 何より疲れてるからね。


 行きと違って、足取り重く戻ってきたオレは、冒険者ギルドに報告にいく気力が沸かなかったので、鐘の音亭に向かうことにした。

 ヘルコンドルから剥ぎ取った素材は、でかいものでは尾羽根が一メートル以上もあり、袋を失った以上肩掛け鞄が唯一の入れ物だ。

 その肩掛け鞄には他の素材が限界まで入っているので、目立つ尾羽根はタオルや布などに包んで持ち帰ってきた。


「おや、いらっしゃい。今日も泊まっていくかい?」

「あ、お兄さん! おかえりなさい!」

「ただいまです。泊まりでお願いします。とりあえず五泊で」

「あいよ。マル鍵持ってきておくれ」

「はーい!」


 明日またプレーリードッグモドキ狩りをやり直すつもりだし、今日は結局乱れた魔については手付かずになってしまった。

 どうせ日帰りで行動するつもりなので、部屋が取れなくなったりしたら嫌なので五泊分確保しておくことにする。


「それよりなんだい、それ?」

「ああ、これですか? 今日の戦利品ですね」

「そうかい。お疲れさんだよ」

「ええ、疲れました。はい、銀貨二枚です」

「あいよ、確かに」


 マルが鍵を持ってくるまで、暇そうなおばちゃんと世間話というほどでもない会話を交わし、支払いを済ませる。

 社交辞令とはいえ、本当に疲れたので労りの言葉はありがたい。


「お兄さん鍵持ってきたよ! 戦利品ってどんなの? マル見てみたい!」

「こら、マル! わがまま言うんじゃないよ!」

「えー」

「構いませんよ、ほら」


 今日も元気いっぱいの少女に苦笑するが、布を取って見せるくらいなら大した手間でもない。


「わぁ! すごく綺麗! これなんなの、お兄さん!」

「鳥の尾羽根だね。確か魔道具の材料になるんだったかな?」

「そうなんだぁ! すごーい。きれぇ……」


 ヘルコンドルの尾羽根は、小さな少女が目を輝かせるくらいには色鮮やかだ。

 確かに綺麗だが、死闘を繰り広げた相手の部位なので純粋に美しさだけをみることはできないな。

 もっと楽で安全な戦い方があったんじゃないか、とか思ってしまうのだ。


「おや、ソラさん。おかえり! ……って、なんだいそれ!?」

「なんだなんだ。なんだそれ!?」

「すげぇ。こんな羽根みたことないぞ!」

「ちょ、ちょっとみせてくれ!」


 マルに尾羽根をみせていると、ぞろぞろとニルノさんたち行商人組が食堂に入ってきた。

 さすがは商人。食いつき方が半端じゃない。



これで、このお話は一時的にストップになります。

割烹で記載した通り、次の投稿は別の新作になります。

三番目の新作のストック分の投稿が終わった段階で、一番ptの高かったものの続きを書きますので、よろしくお願いします。

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