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001,不思議な求人

新作一号、見切り発車しまーす。

 10年ほど勤めた会社が昨日倒産した。

 幸いなことに未払いの給与はなく、貯蓄もほどほどにしていたので困ったことにはならなかったが。

 とはいえ、今日から無職だ。

 できる限り早く次の職を探すべきだろうと、ハローワークに赴いている。


 前職が特に面白みもないものだったし、まだ余裕もあるのでのんびりと表示される求人を眺めていたのだが、その中でひとつ面白そうなものを発見した。


 "別の世界で頑張りませんか? やればやるほどボーナスが増えます"


 職種は学術研究、専門・技術サービス業とあるが、無資格者でも歓迎らしい。

 今までやってきた仕事とはまったく異なるだろうことは確定だ。

 キャッチコピーの別の世界で、というのも気に入った。

 懐に余裕があるというのも手伝い、試しにエントリーしてみることにする。

 冒険できるのも今のうちだろうしね。


 そうしてやってきた面接の日。

 レンタルオフィスの一角でオレはどうにも混乱していた。

 説明された仕事の内容がとんでもないものだったのもあるが、証拠として強制的に連行された場所が主な原因だろう。


 そう、そこは地球ではなかったのだ。


 別の世界。

 どうやらあのキャッチコピーは嘘偽りない、本物だったようだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「準備は済みましたか?」

「はい、社長。問題ありません」


 結局のところ、オレは採用され、この会社で働くことになった。

 とはいっても、仕事の内容が内容だけに素質のあるものにしかあの求人は認識できないものなのだそうだ。

 その上、素質があっても実際に働けるかというとそうでもない。

 まずは社長が面接し、別の世界の話をしても問題ないかを見極める。

 オレは見事に合格をもらい、実際に別の世界を見る資格を得たわけだ。

 ここまで到達した者はまだ数人だけらしいが、その先輩方は元気に働いている。地球とは違う別の世界で。

 オレが派遣される世界は、そんな先輩方が送られた世界とはまた異なるそうだが、研修では問題ない成績をあげていたので大丈夫だろう。


「それでは研修で学んだ通り、無理をせず頑張ってください」

「はい、それでは行ってきます」

「ええ、期待していますよ」


 微笑みをいつでも絶やさない社長に見送られ、オレは地球と異世界を結ぶゲートをくぐる。

 いつでも戻ってくることはできないが、一定以上の仕事をこなせば地球に戻ってくることは可能だ。

 ちょっと変わった海外への出張とでも思えばいい。

 それに、オレが送られる世界はいわゆる剣と魔法のファンタジーの世界。

 仕事とはいえ、心躍らないといえば嘘だ。


 さあ、冒険の始まりだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゲートを抜けた先に広がるのはどこまでも続く大草原。

 背後を振り返ってみれば鬱蒼と生い茂った森。

 空気が非常に美味しい。

 高層ビルが並び、車が行き交い、排ガスで汚れた空気とはまるで違う。


 ああ、本当に異世界にきたんだな。


 研修は地球で行われたので、異世界にきたのは面接のとき以来となる。

 空を見上げれば太陽の隣に小さな太陽があるが、ふたつ太陽があっても気温は春頃のようだ。

 頬を撫でる爽やかな風が気持ちいい。

 地球ではなかなか味わえない気持ちに、草の上に寝転がってのんびりしたい気分に駆られる。


 だが、そういうわけにもいかない。

 なぜなら、ここは地球ではなく、異世界。

 危険と隣り合わせの世界なのだ。


 研修で嫌というほどそのことは学んだ。

 平和ボケした日本では考えられないほどこの世界は殺伐としている。

 そのことをすぐに思い出し、周囲に目を配るが今のところは危険はなさそうだ。


 研修ではほかにも様々なことを学んでいる。

 例えばこの場所は、ラーツ大陸南部のミリール王国シンドール大森林の手前のシンドール大草原、のはずだ。

 周辺には多くの生物が生息し、地球にもいるような普通のものから、ゲームやアニメなどのサブカルチャーによく登場するようなバケモノ――魔物まで広く分布している。


 危険の大半はこの魔物と呼ばれる非常に好戦的な存在のせいだ。

 特に人間を見ると躊躇なく襲い掛かってくるので、この世界での旅など自殺行為に等しい。

 まあ、オレの仕事はそんな旅をしながら行うのでかなり危ないんだけど。


 一先ずは周囲が安全なうちに所持品や能力の確認をしておくべきだろう。

 研修でも行なったからやり方はばっちりだ。


 危険な世界なので、ただの布の服で外をうろつくのはバカのやることだ。

 なので、現在の格好は分厚いマントの下に革鎧などの防具を纏っている。

 特に急所となる部分は薄い鉄板を仕込んである。


 最初は、フルプレートアーマーくらい着込まないとやばいんじゃないかと思っていたが、そんなものを装備して動き回れるわけがなかった。

 研修で実際に体験したからわかる。

 ただ、この世界には魔法が存在し、重量を大幅に軽減すれば着たまま動けないこともないみたいだ。

 まあ、そんな装備は当然の如く貴重だ。所持しているだけで目立つ。

 この世界で危険なのは何も魔物だけではない。

 人間も当然いるので、地球同様欲望というものはときに恐ろしい結果を招く。


 結果として、オレのような新入社員に支給されるのは目立たない一般的な革鎧などの装備。

 ……なのだが、そんなものでは異世界初心者はすぐに命を落としかねないので、弱いが保護系統の魔法がかかっている。

 もちろん、ばれないように工夫されているみたいだけど。


 当然、武器も所持している。

 研修では戦闘訓練も行っているが、オレは武器戦闘の評価は並だった。

 なので、基本的には護身用でしかない。

 戦闘はほかの部分で行うのだ。


 そう、魔法だ。

 魔法のある世界なので、当然研修でも習っている。

 むしろ、研修の大半は魔法の特訓だったといえる。


 ただ問題がある。

 研修は地球の特殊な空間で行われたのだが、実際にオレが使える魔法はこちらの世界にきてみないとわからないということだった。

 だからこそ、最初に行うのが能力の確認なのだ。


「どれどれ……」


 研修で習ったとおり、所持品を一通り確認し、小さなカードを取り出す。

 これは身分証も兼ねた特殊なカードで、自身が持つ能力を一覧表として表示する機能を持っている。


 ===

 ソラ/旅人

 能力:調魔魔法Lv- 結界魔法Lv1 生活魔法Lv- 護身/短剣Lv1

 賞罰:なし

 ===


 非常にシンプルだが、これくらいのほうがわかりやすいだろう。

 ソラはオレのこの世界での名前だ。

 ぶっちゃけ地球での本名でもある。名字はこの世界では貴族以上の身分しかもたないみたいなのでなし。

 名前の横の旅人は身分を表している。

 一番下が奴隷で、次が国によって表記はわかるがこの辺の者なら王国民となる。

 その上は貴族階級などが表示されるそうだ。

 旅人は王国民と同等程度の身分だが、王国民などと比べて税金などを別途払わないといけない。

 まあ日本と違って複雑な税金制度はないので、街に入るときに払う入街税とかその程度だ。


 次がもっとも重要な能力欄。

 どうやらこれがオレの能力らしい。

 研修で習ったので、それぞれどんな魔法や能力なのかはわかっている。

 この中では調魔魔法が仕事でも使う大事なもので、これがないと話にならない。

 結界魔法はそのまま、様々な結界を作り出すことができる魔法だ。

 生活魔法は生活に根ざした様々な便利魔法の詰め合わせだ。

 護身/短剣は初期装備にもある短剣を使った護身術。


 ……攻撃手段がないのはどういうことだろう?

 護身/短剣は護身術なので、攻撃というよりは防御よりの能力のはずだ。


 確かに研修では自身の特性にあった能力や魔法が発現すると言われていた。

 攻撃的な性格ではないから納得といえば納得だが、これでは魔物と出遭ったら戦えないだろう。

 せっかく研修で戦闘訓練を受けたのに……。


 まあだが、結界魔法があるし、護身/短剣もある。

 身を守るには十分な能力ではある。

 それに、オレの仕事は魔物を倒すことではない。

 戦闘訓練をがっつり受けてきたので、敵を倒す手段を最初に考えてしまったが、別に逃げてもいいのだ。


 戦闘はなるべく回避する方向で行こう。

 結界魔法があれば逃げるのは容易そうだしな。


「さて……確認も済んだし、さっそく仕事といきますか」


 背後を振り返ると、鬱蒼と生い茂る森に目に入ってくる。

 調魔魔法のひとつ乱魔探知を唱えると、森に入ったすぐの場所に反応があることがわかる。

 初仕事なので、なるべく簡単な場所を選んでくれたのだろう。

 まずは肩慣らしというわけだ。


 ではさっそく行くとしよう。



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