8 茶会の惨事
まずい、このままこのドレスを着続けるわけにはいかない。
どうしようかと目をつむる。
恥を掻かされて引き下がるとなると悪い印象を与えかねないが、そのままにしておけばシミが出来てしまう。
身動きをしないアルシノエに心配そうな顔で優しく頭を撫でる。
温かな手のぬくもりがアルシノエの心を少しいやしてくれる。
「あら。大丈夫よ。」
「へ?」
「落ち着いて。私、隣の部屋ですの。リュコス家の娘、ニーナ・リュコス。どうぞお見知りおきを。」
こちらに視線が来たことを知るとちらりと侍女達の方を見るニーナ。
ニーナと目があったアルシノエの侍女達が駆け寄ってくる。
「あの。私の名前。」
ご存じでしたか?と聞くとコロコロと笑う。
「知っているわ。守役から聞いたの。」
侍女が来るとすっと立ち上がり晴れやかな声で笑う。
「お着替えになって。すぐに戻れば大丈夫ですわ。」
侍女に促されるままアルシノエは濡れたドレスを着替え茶会の会場に戻ってきた。
アルシノエが着替えから戻ってくると新しい茶器に交換されていた。
暖かなお茶がなみなみと注がれている。
「まぁ、腐るほど茶器なんてあるところなので。」
守役のマイギーがフフフと笑う。
その笑いに国の財力を見せつけられたような気がした。
「あのご令嬢はこの茶会には戻りません。ご安心を。」
アルシノエは笑えない。
彼女は排除されてしまったのではないかと気をもむ。
「それでは、場をを和ませてくださいな。」
ニーナに笑いかけられ少しとまどいながらアルシノエはほほえむ。
「はい。」
程なく、茶会の終わりが告げられた。
去り際にニーナがつかつかとやってきた。
「くれぐれもあのお方には気をつけてくださいませ。」
それではとニーナと侍女達は会場を後にした。
無事に茶会が終わり部屋へと帰って来た。
ニーナが忠告した右隣のご令嬢について気になった。
それをマイアに伝えた。
茶会が終わるとマイア・リューナンが調べてくると部屋を出て行った。
軽装に着替え、机に頭を付け気を落としているアルシノエに報告する。
「わかりました。アウラ・コーミラ様御年12。かなり王様に心酔されてますね。3姉妹そろっての御参加で、妹君が最年少の参加者の一人ですね。父上はかなりの有力者でおそらく一番上のお嬢様、御年16になられます。その方が王様の王妃様か側室に内定のご様子です。」
それを聞いていたナーリィスが補足を加えた。
「あ。守役仲間も噂していましたの。結構きつい方ですわ。噂では城に着くなり隣のご令嬢方に嫌がらせをして辞退させ、帰宅させたとか。恐ろしいですわね。」
あまりの評判にアルシノエ、絶句。
ふと考えてみる。そんなご令嬢に目を付けられたらただごとではない。何かやらかしたのかと思い出してみるがそれは一つしかなかった。
「えー。私、茶器を割られて・・・それだけよ?」
アルシノエには意味がわからない。
「鈍いですわね。」
「そうですわ。アルシノエ様。」
「恋の恨みは激しいですわよ。」
「そんなわけ・・・???」
「本当?」
「はい、ちらちら王様がアルシノエ様を気遣うように見ていらっしゃいました。」
リューナン姉妹の妹アルキュオネが頬を赤く染めながら主、アルシノエを見ている。
居心地の悪くなったアルシノエは話題を変えた。
「これは、ただの顔合わせでしょうか?課題について誰も触れませんでしたけれど。」
ナーリィスは真剣に聞いてくれた。
アルシノエはナーリィスの返答を待つ。
しばしの静寂の後、真剣な顔をしたまま答えた。
「誰も言いませんよ。この場にいるご令嬢全員がライバルなのですから。これからが大変なのですわ。」
ナーリィスがしとやかに笑う。