7 隣の令嬢
茶会当日。
根を詰めてレース作りをして疲れた顔で茶会の会場へと赴く。
朝起きたとき、ナーリィスが伝え損ねたと朝早くやって来た。
「1つ目の課題が終われば人数が減る、つまりホスト役を務める帰還がその分早まると言うこと。それだけは忘れないでくださいませ。」
朝食後、暫くはレース編みに精を出し、日が高く登った頃茶会への支度を始めた。
昼頃に茶会があるので、支度を大急ぎで進める。
リューナン姉妹の姉、マイアがアルシノエの髪をとかしているとアルシノエがはぁとため息を漏らした。
「あぁ、頭が痛いわ。」
「今の内に各ご令嬢方のお好みでも調べましょうか。」
支度を整え歩き出す。
着飾ったアルシノエはぎこちなく歩いていく。
慣れない靴、場所に体も頭も付いていかない。
「少々早いかと、茶会をこなしていけば。今回のホストは王様です。どうぞ気楽に。」
マイギーがたぶんと前置きして茶会の会場までの案内の最中そっと大事な事を教えてくれた。
会場には、すでにご令嬢と侍女達が集まっていた。
来た順に座る形式のようで次々と座っていく。
たまたま右隣に座ったご令嬢に早速声をかけられてしまった。
「聞きましたわよ。お父様が残されたもの。あの中庭のオベリスクですわよね?」
自分より幼い彼女にもその話を知っていることに
「もうお耳に入っていましたか。」
しかし、感心したのも一瞬に
「でも、そんな方がいらっしゃるなんて。」
完全に馬鹿にされたとアルシノエは思った。
「いいえ、ものは試しと来ただけですわ。」
にこやかに笑うも心情は悪い。
アニタやリューナン姉妹は離れて見ていた。
他のご令嬢の侍女達と一緒に一列に並び不測の事態に備えている。
総勢50人あまりの王侯貴族の娘達。
その荘厳な様子に姉妹は素敵ですねと言う。
アニタは黙って見ているだけ。
今回のホスト、国王は皆を見渡せるテーブルの中心にいる。
茶会は和やかに始まった。
初めて会う候補者達。
始まってすぐには皆ぎこちなく硬かったが次第に打ち解けていく。
暫くしてあるご令嬢が声をあげた。
「まっ。」
「え・・・!!」
左隣のご令嬢と話が面白くついつい、右隣のご令嬢とは最初に話したきりであった。
バッシーン、ガッシャーンという茶器が壊れる音が。
アルシノエが音のする方を見ると、自分のドレスが濡れていた。
「この茶器はどなたの・・・??」
とたんに、騒ついた。
「国のものだ。君に弁済してもらう。」
アルシノエと右隣のご令嬢は後ろからの声に驚いて振り向いた。
その様子を離れたところからみていた侍女達がひそひそと、相談し始めている。
「・・・とんでもない金額をふっかけられそうね。」
アニタがリューナン姉妹に耳打ちをする。
さすがに、これ以上の借金は増やせない。
アルシノエは自分のドレスよりも弁償する金額に頭がいっている。
「た・・・高そう。どうしましょう。」
「そうね。アルシノエ様。」
「でも、貴女ではないわ。」
向かいに座っている口元を扇子で隠しているご令嬢がそっと近づいていてどきりとした。
いつの間に?と思っていると色香漂うご令嬢は面白そうに笑う。
「え・・・」
「私、見たの。わざと貴女に当たるように落としたの。王様も見ていらっしゃった。」
「・・・あ。」
怒る国王の前に嬉しそうな小さなご令嬢。
これを目当てにわざと落としたのだと。
それに気を取られているうちに向かいに座っていたご令嬢がさらに進みでる。
「お気を付けて。あのご令嬢ただ者ではありませんわ。」
そっと耳打ちをしてすっとアルシノエのドレスに目を落とした。
「あら、大変。」
ドレスがお茶で濡れ、冷んやりとしてきていた。