5 入城
侍女アニタとリューナン姉妹を伴い無事城へ入城する。
アルシノエ達はワーリンガ家の納めるピューカ州の州都ホワムからきた。
もちろん、公立資料館もホワムにある。
なぜこの地に公立資料館があるのかはわかっていない。
何代か前の王様の勅命で出来たのではないかとアルシノエは推察する。
とはいえ王宮までの距離はかなりあり馬車で半日ほどかかりそうなほど木々が鬱そうと生え、そこを抜けると綺麗な芝生が広がる広大な庭が見えてくる。
そこをさらに進むとようやく王宮が姿を見せる。
遠くから見た姿からは想像できないほど大きな建物にアルシノエは魅入られたような感嘆の声が自然と漏れた。
王宮内にはいると姦しい声が建物に共鳴するようにうなるような音が耳に飛び込んでくる。
既に数多くのご令嬢方が到着しているようで、混雑していた。
先に長老会に挨拶に行き部屋割りを確認してもらい自分の部屋を教えられる。
「君たちが最後さ。」
長老会のメンバーに肩をたたかれながら聞いていた。
すれ違う度に王妃選びのご令嬢方々とその取り巻きのような十数人の侍女達からくすくすと笑う声が聞こえる。
「早くお帰りになられた方が宜しくってよ。」
「来るだけ無駄よ、無駄。」
数人の取り巻きたちとそれをいくつもいくつも超えた先に指定された部屋が見えてきた。
「感じが悪いですね。」
「どこでもそういうものだと聞いたわ。」
二の句が継げないほど嫌みや妬み、嫉みなことを言われついてすぐに帰りたい衝動に駆られそうになりながら指定された部屋へと着いた。
そこには既に3人の男女がいた。
「おぉ、やっと来たか。」
「あの・・」
一斉にアルシノエ達に向き直る。
「まあまあだ。うむ。」
「あら。かわいらしいわね。」
若い女性がアルシノエに近づいて笑いかけてきた。
「話では二人でしたよね?」
長老会の老人達の説明では2人の守役がつくと聞いていた。
つまり1人は守役から外れる事になりそうだ。
「いえ、わたくしが。」
「おまえはまだ経験不足だ。」
「あなたこそ、この中で最年少でしょうが。同性同士ご相談ごとにも乗れますよ。」
「やめておけっ!上には話を付けてくればいいだろう。」
早くも仲間割れの様相を呈してきて、アルシノエは彼らがしっかりと守ってくれるのか不安に感じる。
結局、部屋にいた3人全員でがお世話係をすると言うことで決着が付いた。
アルシノエの長兄とさほど年が変わらないフェノロサ、若い少年風のマイギー、唯一の女性でアニタと同い年くらいのナーリィスの3人である。
荷物を片付けていると周りの様子がおかしいことに気がついた。
今まで騒がしかった様子が嘘のように静かになった。
あらあらとナーリィスがきょろきょろしているアニタに声をかけた。
「大広間へ急ぐべきね。今から大事なお話があるわ。」
ナーリィスの案内で大広間へ行くとたくさんのご令嬢と侍女達が集まっていたところに滑り込んだアルシノエとアニタ。
一人の老人が紙を見ながら進行している姿が小さな点のように見えている。
「これより、えぇ、えええっとあら、これかな??」
懐に丸めた紙がいくつも入っているためかそんな声を出しながら
「えー、今日より10日までに課題を提出してくださいますように。」
”レースのハンカチ一枚と詩を一編、レースは大きさが縦横20センチ以上の正方形で詩は長さは問わない”が課題が決まっていた。
「詩につきましては、この国を称える詩を。まぁ、それだけです。後は長さもお好きなように。紙に書いて提出してください。」
それからはひたすら規則についてだらだらと話すだけで退屈であった。
説明を聞き終え部屋まで帰ってきた。
ここまでたどり着くのに疲れてしまった。
「聞いた?」
「はい。」
優秀な侍女は無駄口をしないものだと言う。
アニタはリューナン姉妹に先ほど聞いた課題の条件について伝えている。
「10日以内にですか。」
リューナン姉妹は片付けの手を止めアルシノエを見た。
「お嬢様は詩を作るのは余り得意ではありませんので先にそちらを優先させるべきでは?」
「いいえ、先にレースを仕上げるわ。」
アニタに大きな紙を一枚とペンを持ってくるように告げた。