48 或る青年の願い
国王の挙式は半年後と決まった。
それを宮廷魔法使いとディノスに伝えにやってきた。
「おつきあいさせてしまいまして。初めまして、アニタと申します。」
アニタは宮廷魔法使いと弟子に挨拶をした。
アニタも結婚までの間はアルシノエの侍女として仕事をすることが決まった。
体調も戻りいつものように侍女業をしている。
やっとフェノロサとも再会できて一安心だ。
ただ、謹慎の影響で彼は1階級下がったらしいが彼本来の力をもってすれば1階級上げることは時間もかからないだろうと思われる。
「兄たちも報告が終わればワーリンガ家に戻ると。その前に国王陛下とアーノルドおじさまにご挨拶をされるそうで、こちらによるそうです。」
アルシノエたちの祖先も一緒にワーリンガ家へと向かうとディノスに伝えた。
自室へと戻ると、マイアに出してもらったお茶を飲みながらディオミディスが待っていた。
ニーナがアルシノエが戻ってきて身だしなみを整えている間にやってきた。
これから城内は結婚式の準備で忙しくなるだろう。
ニーナとアルシノエもお茶を飲んで落ち着いてから近況を話し始めた。
「アニタ、結婚するそうです。」
「武装解除後、急遽家族会議になったそうですし。」
「家族会議などをするのだろうと思っていたが。」
「一人娘ですし、いろいろとおじさまも思うところがあったのでしょうね。」
「まぁ、うらやましいわ!」
ニーナはそう言いつつもおめでとうとアニタの結婚を祝った。
それは、今からさかのぼること2日前。
元婚約者(アルシノエの先祖の護衛としてやってきていた)、アニタ父、アニタ、フェノロサとがひざを突き合わせて今後について話し合ったのだという。
「我が承認となろう。アニタ、フェノロサの結婚を。」
その場には4人しかいなかったはずなのにもう一人彼らとは違う別の声が聞こえて声のするほうを見た。
「「「王!」」」
護衛付きのオレスティスであった。
フェノロサとアニタを引き合わせたユーペ公爵夫人が手を回したのであろう。とアニタは推測した。
「原因を作りしは王である。王がその責任を取る代わりに丸く収めようと申しておるのだ。」
堂々と宣言する。
「そして私の師よ。久しいな。」
アニタの父の肩をそっとたたく。
感涙したアニタの父は崩れるように泣いた。
「ひと月程度でございましたが、私を師匠と呼んでくださるとは!」
「息災であったか?武術のほうは普段から教えを守り、鍛錬を積んでいる。」
習った型をオレスティスはその場でやって見せた。
「お見事です。新しい型などを伝授する必要がありますね。」
それから話し合いをして国王のために武人としての筋のいい息子の一人を新たなる師・役職を設け城内にて修行をすること、アニタの元婚約者はもう一度修行をやり直すことになった。
その話をアニタからアルシノエはのろけ話とともに聞いた。
ニーナが目を輝かせて聞いた。
「でも・・・身分違いなのでは?」
只の武人であるならば平民だ。フェノロサは近衛であったので貴族か騎士の上位クラスの身分だ。
そうであったならアニタとフェノロサの身分差はかなりあることになる。
「王を弟子にしている以上ある程度の身分を与えられているはずだが?知らなかったとはいえ。」
「そうですね。聞いた話ですと騎士と土地なし男爵ぐらいの身分が与えられたとか。その通知が来た時に大変な騒ぎだったと。」
「それならば大丈夫だろう。誰からもいちゃもんをふっかけられることもない。」
アルシノエは話しながら昔の出来事を思い出していた。
「だからあのとき、アニタがさらわれそうになったのね。」
昔、騎士の若者にアニタが誘拐されかけたことを話し出した。丁度アルシノエたち兄弟妹が通りかかり未遂で終わったが、それならば合点がいく。とアルシノエは
自分たちに見合う娘をさらって妻とするつもりだったのではないかと
実際そうなった場合、間違いなく処罰されるし結婚も無効となるのだがとアルシノエはリスクのある
それとも乱暴目的?なのかもとディオミディスは推測した。
ともあれ、
「叔母上には言うな。」
「心得ております。」
セニア卿はすましてディオミディスを見た。
彼女が知れば面白がってやってくるのは読めていた。
それよりも早く王宮を出てしまいたかったのである。
ニーナにももちろん口止めをした。
彼女の縁談を条件に。




