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43 交渉へ向けて

アニタが捕まって早1か月ほどが過ぎた。

「私たちだけで移動・・・??」

少数の部隊だけで移動するらしい。

国王も移動するようだが別部隊らしく準備を促されている。

「何。皆がついているのだ。入城はできずともそばで身を潜めているくらいぞうさもない。」

「自慢にもならないことを言わないでくれる?」

「では参ろう!」

はぁとこの男が我が祖国の国王で大丈夫なのかとアニタはため息を漏らした。

「いつ解放してくださるのかしら?」

ずっと歩いてきた。捕まってからいつ殺されるか分かったものではなかったのでゆっくりと休んでいた日は1日もなく、疲弊していた。

「ま、ここまで来たのだからそう遅くはないだろう。」

人質というのに呑気な王。

あきれるアニタ。

王城を囲う城壁の上には普段いるような数ではない兵士たちがたくさん上から様子をうかがっており、城壁のそばにはアニタ達をとらえた一団がずらりと並び、そしてそれらを挟み込むように茂みには隠れているがちらちらと自軍の別部隊がにらみを利かせているのが見えた。

今から何が起こるのか・・・アニタはボロボロの精神の中、不穏な状況を察した。

王城に入城する前に荷車のような乗り物に乗せられて中に入ることができた。

王宮の入り口で2人は降ろされた。

「やぁ。元気かい?」

事前にアニタ達が来ることを知らせていたのだろう、二人を心配する多くの人々が王宮に集まっており、出迎えてくれていた。

やはり、この場の雰囲気にそぐわないラフな感じで出迎えたアルシノエに声をかける。

「陛下!!アニタ!」

「まだ、人質のままですわ。」

フラフラの中、近衛たちに愛する男について尋ねた。

「フェノロサ様は…???」

「とりあえず、お二人は健康状態を確認しなくてはなりません。」

王家の専属医がアニタとオレスティスを連れて行こうとした。

二人についてきていた兵士たちも一緒にその場を離れようとした。

まてと、遅れてやってきた青年が告げた。

「一時解放するとしよう。もし、失敗すれば死だ。」

そこへ、謎の一団の指揮をしていた人物らしい青年が堂々と前に出てきた。

彼の姿を見た出迎えた数人がハッとした顔をした。

どうやら知り合いらしい。 

降参したよとオレスティスが手を挙げた。

「致し方有るまい。完全開放はお預けだ。」

先にアニタと数人の兵士たちを連れて行った。

代わりに一団の頭へ、デレシア皇女が飛んできた。

「あきらめの悪い馬鹿弟。」

「姉上。」

激しく弟を揺さぶる。

「私の立場を考えてなさい。そしてあの子は、貴方のためにここへ来た。」

「みな、母上の言いなりだ。私は彼女以外を皇后とは認めない!!」

「それで、周りの取巻き達を引き連れて出奔ですか。皇国の恥です。」

「姉上こそ。バーニア王太子との婚約が俺の結婚により同一王族への婚姻関係を結べないというにより規定でそれもなくなった。悔しくはないのですか?」

「もうよいのです。それよりもグリフィナ様だけでなくクニグンデ様まで?」

「二人の仲を引き裂くつもりはない。」

「よくも・・・」

それでも食い下がるデレシア皇女を数人で止める。

「まぁ、デレシア皇女。これから交渉に入りますので。」

「いかにも。」

アニタについていこうか戸惑っているアルシノエをディオミディスが

話を聞く限りだが、母上つまりタオエ皇国皇后が周りに相談せずに勝手に決めてしまったがために事が起こったようだ。

「我が、叔母上にも責任がありそうだな。」

「陛下。事情がよくわかりませんわ。」

「そう、我が父上のすぐ下の姫で、タオエ皇国へ嫁がれてね。」

ユーペ公爵夫人とディオミディス、そしてセニア卿が声をそろえた。

「「「あ・・・あのお方・・・!!」」」

彼女ならやるだろうという雰囲気があたりを包む。

アルシノエには面識がない女性、内容などにアルシノエはついていけなかった。

「このままでは、まずいな。」

「きっと、彼らを連れ戻す兵士たちをよこしてくるわね。」

アルシノエはぼんやりと3人を見つめていた。

「うーん・・・言い出したら聞かない方でね。昔からわがままで有名で自分の思い通りにならないと手が付けられない。」

「彼のここまでの行動は一言”愛”、ですわね。」

きらりとユーペ公爵夫人の瞳が光った。

陛下、と女官たちがオレスティスを主治医のもとへ連れて行こうとしたので、オレスティスは皆を大広間にご案内しなさいと命じた。


大広間に場所を移した。

疲れ切ってはいるが事の次第を主人、アルシノエに報告しようとアニタと

医師は命に別状はないが疲弊しきっているのでできるだけ安静にとのことだった。

オレスティスが医師の診察を受け無事を確認し大広間にやってきたところでディオミディスが鎌をかけた。

「おい。」

なんだい?とにやけた様子を見せた。

「あまりにもできすぎだ。計画を事前に知り乗った。そうすればやっかいな仕事も丸投げできるわけだし、気になる侍女ともお近づきになれる。ただ、国内であっさり捕まったのは国王といえど恥だぞ。」

「半分は正解だ。」

おずおずとアニタが割って入った。

「いえ、父が陛下の武術の師でございまして。私とは義理の姉弟と言うことなのです。ちょうど、先の陛下がお亡くなりになって。私の祖母が病がちになって帰ってこいと言うので。戻ることになりました。ですから、私にとって年齢は下ですが弟のようなものですわ。元気かどうか、本当に国王になったのかどうかわからなかったので探りを入れようとしていたのです。」

「そんなつながりが。」

アルシノエも初耳のことに驚いている。ここで、アルシノエは大事なことを忘れていることを思い出した。

「あ。ところで、条件付き許嫁・・・いや婚約者殿は・・・??」

「約束破りで破談です。いいえ、私の方から願い下げでしたわ。この前、会いました。何かしらのもめ事で無実の罪を着せられて牢獄おくりだったそうです。」

あんな男の妻になどなりません。破談になった後どこかへ行方をくらませましたし。二度と会いたくもありませんわ。とも後日語っていた。

「とにかくお二人は・・・」

「終わったことだからな。そうだ、アニタ殿のご両親をお呼びしなくてはならないだろうな。」

「すでにいらっしゃいます。陛下。」

アーノルドが珍しく

「わかりました。」

「準備ができ次第及び致します。」

なぜかふんぞり返るタオエ皇国皇子。

「うむ。待たせてもらうぞ。」

では、お部屋にご案内を。とロベルトが進み出てタオエ皇国皇子とその一団たちを案内していった。

ただ、オレスティスのそばを兵士が見張っており何かあれば彼らから危害を加えられる可能性は高い。

「危険はないのか?」

「うん、それはいいのだが・・・?」

ひしとオレスティスにしがみつく少女がいた。

「アンゲラ?」

「ひどい。」

ボロボロと泣きながらぼすぼすと殴っている。

「とりあえず。我々の出来ることはやり終えたな。ディオミディス、この件が終わったら話がある。事の経緯もついでに話してやろう。」

正室候補者たちに囲まれてうれしそうだ。

グリフィナとクニグンデは彼女たちから少し離れていた。

当然、手紙を偽装したりして許可なく抜け出そうとした負い目のためだろう。

「そんなに甘くはありませんわ。」

安堵したのもつかの間、デレシア皇女が声を上げる。

「今、弟はバーニア国のレオンティーナ王女との婚姻が内定しています。今更グリフィナ様と差し替えるなんて。」

「交渉が必要そうだな。ふふ。そうなると思っていた。」

「勝手に交渉をすることって・・・」

そんなことできるのですかとアルシノエはオレスティスに尋ねた。

「ちゃんと正式な手続きを踏んでいるよ。大丈夫。」

いや、ほかの王国や皇国の方々と交渉にはかなりの時間がかかるだろう。

すぐに開放は難しいだろうとディオミディスは見立てていた。

ところが、長老会会長代理が大広間にいる面々に告げた言葉に皆驚愕した。

「えぇ、アーノルド様より言いつかっておりまして招待状を出しております。バーニア王家とタオエ皇国とナウサ王国の王宮には交渉をする旨の手紙を出しており既にご到着です。」

「はぁ。」

全員グルかよ。とオレスティスは示し合わせたかのように招待状と関係者をよびだすとは・・・とアーノルドと謀ったなとディオミディスが飄々としたオレスティスをにらみつけた。

アルシノエは何事なのか察しがまだついていないようで周りをきょろきょろとしている。

彼女もこの件で手紙を飛ばしたりしているがそのよう事が起こっていることは知らされていなかったらしい。

長老会も国王もアルシノエには大事な話をせず協力させてと憤っていた。まもなく大公妃となる彼女を守れるのは自分だけだと戸惑っているアルシノエをそばに寄せた。

そこへ、リチェンツァが神妙な顔をしてやってきた。

「リチェンツァ様?」

「あ、いえ。」

「昨日のお話で。あの、お手伝いとは?」

「まだもう少し先ですわ。お手伝いいただけるのですか?」

「もちろんですわ。」

アルシノエは単なる人助けと思っているようだ。

ディオミディスはいいのか?と何度もアルシノエに声をかけていた。

あれをするのだから、身の危険も十分にあるが本人に伝えれば混乱をするだろうしと考えディオミディスはあえてアルシノエに重要なことを伝えることはなかった。

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