42 バーニア王家
かなり、遅くなりましたが続きです。
それから2日と経たず、バーニア王太子一行も交渉に加わるとの情報が城内を駆け巡った。
その一報はだれよりも早くバーニア王国の姫にもたらされた。
彼女、リチェンツァが共を誰一人付けず神殿内で神に祈っていた。
昼過ぎ、神殿から出てきた彼女はディオミディスとアルシノエを自室に呼んだ。
まずはお茶をと二人に出した。
「バーニア王家では多くて4人の王妃が立ちます。側室はミューイ王国ほどの少数精鋭かつ身分の制限があるわけでもありません。見目麗しいと聞けば身分を問わず集められるのです。私の母は側室でした。」
元々は女官として王宮入りをして国王の手が付いた。良くある話なのですと少し悲しそうな顔をした。
「ですけれどね。同じ父から生まれてきたのですが、そこには明確な差がありました。王妃の子供と側室の子供は立場的にもかなりの差があるので・・・このたび、正室の姫君の一人がタオエ皇国の皇后に選ばれました。しきたりによりバーニア国王の側室の娘はみなタオエ皇国随行し巫女となることが決まっています。もちろん巫女になれば結婚は出来ません。それが私の運命でした。側室との間に産まれた娘は私一人でしたから。」
ですが、とリチェンツァが続けた。
ミューイ王国、国王陛下から妃選びがあるとのことで我が国の姫もと言うことになった。
しかし、年頃の姫はタオエ皇国へ嫁ぐことが決まっており姫の他は幼く正室達から拒否された。
そのため誰かひとりは出さなくてはならないとリチェンツァが選ばれたのだと。
「正直、嬉しかったです。タオエ皇国の皇后に選ばれれば名誉だがミューイ王国の妃はそれには劣ると国王である父ははっきりと私を呼んで告げました。バーニア王宮の正妃産まれの姫を出したくなかったのでしょう。もし選ばれでもしたらと。」
あまりに遠すぎる。そして、同じ大公ではないか。と。
「私は自分の安心した居場所があればよいのです、王妃様になどなるつもりはありません。」
「あの。大公とは、どのような…えっと??」
アルシノエは混乱している様子でディオミディスを見つめた。ディオミディスはやれやれといった感じで答えてくれた。
「おやおや。タオエ皇国を国王に関係性などを考慮しバーニア王国とミューイ王国に対抗の地位を約束して
な。ほかの国も伯爵などの貴族の爵位と同等の呼び名といったほうがわかりやすいだろうな。それがなかったら我がトリューリャン家はミューイ王国の筆頭公爵家シュテー公爵程度の名称だったろうな。丁度王家から分かれたのが大悪女ガイエが活躍した時期だったというから今からざっと2~300年ほど前からだな。それまでは国王がタオエ皇国では大公と呼ばれていた。と、アルシノエ。歴史の先生から聞いていなかったのか?」
「あう・・・」
「あまり責めないでくださいませ。」
リチェンツァはすっと二人の間に立つ。
それはまるで兄妹げんかを収める姉のように。
それを冷静になったアルシノエはリチェンツァがディオミディスよりも精神的には大人だなと初めてリツェンツァを見たときはかなりおどおどした様子だったのでほっとしたような、良かった、ここに来てから安心して暮らせているのだと心底嬉しく思った。
「では。リチェンツァ姫と王子との関係性はよろしくないと。」
そうですね。とディオミディスからの問いに悲しげに視線を下げた。
急に泣き出しそうな顔をさせてしまい、婚約者が余計な事を!とディオミディスを一瞬キッと睨んだ。
「異母兄は嫌っているようでした。」
ぽつぽつとここに来るまでの出来事を話すリチェンツァに悲しく辛い過去を話してくれた。きっと誰にも告げずに墓場まで持って行くつもりのやや重い話であった。
「やはり、母に寵があったからでしょうか。私の下に2人の弟が居るのですが快く思っていないのは王妃様方と同じだったのでしょうね。異母兄が王太子に選出されて早々に私の二人の弟たちは親類の王族に養子に出されてしまいましたわ。」
姫様と思わずディオミディスが声をかけると我にかえってにっこりと笑う。
「暗い話になり、申し訳ありません。あの子たちはまだ幼いのです。ほんの10になるかならないかくらいでして。母は無用な争いを避けるためだと涙をのんでいました。」
そこまで聞いたディオミディスは優しく肩を叩いた。
「出来るだけバーニア王国の王太子と直接の接触を避けるように配慮いたします。」
「ありがとうございます。」
「えっと・・・私にはどのようなご用事でしょうか?お話だけではありませんよね?」
ディオミデディスからアルシノエに視線を向けたリチェンツァは、はっとしてアルシノエの両手を自身の両手で包むように握った。
「私には大事な役目があるのですわ。そして、アルシノエ様それにお手伝い下さいませ。」
しっかりとアルシノエの両手を握り口角を上げるリチェンツァ。
これでは断ることはできない。
が、すぐに答えを決められず翌日まで返事を待ってもらうことにした。
アルシノエはリツェンツァの部屋から自室へ戻る際、ディオミディスに聞いてみた。
「驚きましたわ。ご存知でしたの?」
「いいや。儚げなご印象だったのは生い立ちが深く影響していたのか。」
「どうしましょう??」
「そうだな。受けないとまずいぞ。」
「えっ、そうですか?あ、あのっ、改めてお聞きしたいのです。国王家と大公家の関係は。」
仮想敵として対立しているのではないのでしょうか?
と、率直に聞いてみた。ディオミディスはおどけたような顔をした。
「ここだけの話、あくまでも表面上だ。誰にも言うなよ。正直な話、名ばかりな大公で、対外的なことは国王の仕事だ。もちろん、内政もな。」
「だから、アルシノエ。ただの公爵家へ嫁ぐだけのスタンスで来てほしい。」
「この問題の根元は一体何が…なぜミューイ王国で話し合いが行われるのですか?」
「我が母上とタオエ皇国皇后、そしてミューイ王国前国王は父を同じくする兄弟姉妹だ。タオエ皇国皇后が王妃様つまり長老会会長の娘を母に。前国王は先先代の国王と側室の子供で大公の娘が母だ。つまり国王家、大公家は現在、かなり血の繋がりが濃い状態だと言うことだ。ただし、国王が何を目的に行動しているのか把握できていない。今、セニア卿に確かめに行って貰っている。」
「なるほど」
それきり、二人とも黙ってアルシノエの自室へと向かう。
主人の帰りを待っていたリューナン姉妹。そこに難しい顔をしたディノスがアルシノエ達を待っていた。
「師匠?」
ディオミディスはいつになく、険しい表情のディノスに不安そうにディノスに声をかけてた。
「大変だ!準備をするぞ!!」
アルシノエはまだ頭の整理がついていないのに師であるディノスとともに何かを防ぐためなのかよくわからないまま罠の準備をすることとなってしまい、その日1日しなくてはいけないことが一切できず、くたくたになった割にはいろいろなことがあったためなかなか寝付けなかった。




