4 準備期間
王妃選びに参加を表明して2日目。
ドレス選びからレース用の針と額の捜索。
ドレスだけではいけないので靴から装飾品に渡る日用品の積み込み。
城へはもちろん馬車で行く。
多くの使用人達が非日常に大あわてで動いている。
次兄が帰宅したのは2日目の午前中だった。
事のあらましを次兄にも伝える。
「そうか・・・」
それきり会話がない時間が続く。
いつもは元気な次兄の静かな様子を不安に思うアルシノエ。
「兄様、気が進まないの?」
「勝手にこんな事をして。」
「連絡がつかなかったの。どうしようもなかったのよ。」
そうして、昔のようなじゃれあいのような言い合いが続く。
「何をされていたの?どこにいらっしゃったの?」
「それは言えない。機密事項だ。」
アルシノエと長兄とは8つ次兄とは5つ年が違う。
長兄は志願兵として任務に就いていた。
次兄は徴兵によりどこかに行っていた。
程度しかアルシノエは知らない。
父が仕事でほとんど家にいなかった幼いアルシノエにとって二人の兄達は父がわり以上の存在である。
手紙を出して4日後、お待ちしておりますの一言だけの手紙が長老会からもたらされた。
出立の日。
王宮までは最低でも2日はかかる。
早めに5日前に出立することを決めた。
「心配だわ。」
「早く帰っておいで。」
「まぁ。お帰りなさいませ。坊ちゃま。」
「おやおや。もう、坊やではないのだぞ。」
「まぁ。私にとってはまだまだ坊やでございますわ!!」
最古参のメイドがしばらく休暇に出ていて今日から仕事始めであった。
彼女は長兄にも次兄にも会うのは久しぶりだ。
そんな彼女は長兄に意見する。
その様子を心配そうに見ている母。
執事とその3人は玄関まで見送りに来ていた。
「では。行って参りますわ。」
「おまえのその貧乏性を見せるなよっ!!ついでに!!」
いつものように寝坊し、玄関での見送りができず、自分の部屋から精一杯大声で別れの言葉を言う次兄に振り向きもせずアルシノエは馬車に乗った。
領主の館が小さくなっていくのを確認し、アニタがアルシノエの顔を見た。
「よろしいのですか。旦那様が亡くなられたとき以来の再会でしたが。」
「いいのよ。試練がいくつか用意されているそうだから。それに落ちたらすぐ帰れるから。また、すぐに会えるわ。いざ行かん!魑魅魍魎がはびこる城へ。」
彼女の父が王宮のことを称して”魑魅魍魎の棲む城”と言っていた事をふと思い出す。
幼いアルシノエに大きくなっても危ないから行かないでほしいとも。
その意味を考えることもなく、やる気に満ち溢れたアルシノエと侍女たちを乗せた馬車は王宮へと着実に進んでいく。