35 コーミラ家の令嬢
それはさかのぼること2日余り。
いつものように屋敷周辺を少ない供回りで散策していた昼下がりのことだった。
ふと自分のすぐそばを歩いていた侍女達の気配が消えたこと、見知らぬ男達に取り囲まれたのを知ったのが同時で焦りを見せてしまったこと。
これはコーミラ家の令嬢としては不覚だとアンゲラは後に猛省している。
「誰です?」
物怖じせず男達の問いかける。
殺気や乱暴をはたこうというそぶりがない。
それは、アンゲラの周りにいた供回りたちが騒ぎ立てているものの彼女たちの声を遮るような物音が聞こえないことを見れば明らかだった。
「コーミラ家の娘はお前か?」
男達の誰かを特定できないが聞いてきた。
アンゲラは男達ににらみつける。
「不躾に。名を名乗りなさい!」
「名乗る必要はない。」
どこからともなく1通の手紙がアンゲラに投げ渡された。
アンゲラが受け取ると声の主は驚くべき事を言った。
「これを王宮に届けてもらおう。君は知っているか、王が不在だと言うことに。」
「え・・・」
「聞いてはないのだな。」
「と言うことは、国王代理・・・大公に届けろと?」
「だろうなぁ。王宮にいるのは間違いないそうだ。この手紙の返事次第では本物の国王になることも。まぁ、10日後に答えを聞かせてもらおう。場所はここで。」
「この手紙を?王宮の国王代理に?まっ。」
アンゲラの答えを聞かず男達は去っていった。
のちの長老会の聴取でその場にはアンゲラと供回りの者達だけが取り残されたような形であったとの証言をしている。
事のあらましを長老会の面前で話すアンゲラ。
「つまり返事を10日以内にとのことですわ出会った森でまた会おうなどと。悔しい!!」
思わず立ち上がり忌々しいと足を踏みならすアンゲラ。
侍女達が興奮気味のアンゲラを宥めながら座るよう促す。
「ふうむ。内容は?」
「特殊な封をされていて。魔法が絡んでいそうですわ。」
「それで、それからすぐに支度を調えられて飛んできたと言うことですか。」
はい。何をしても見ることが出来ないので。といささか緊張した面持ちでアーノルドを見ている。
アンゲラを長老会面談室の部屋へと残し、アーノルドは会長室へと向かう。
「どうします?」
彼の秘書が小声で話す。
アーノルドの手元には例の手紙がある。
「とかく、その手紙とやらを見なくては・・・」
アーノルドがレターナイフで開封を試みても傷一つつかない。
小刀で突き刺しても穴が空くこともなく手紙が雷を発しているかのような様子を見せた。
これを見たアーノルドはすぐに行動に移った。
「宮廷魔法使いを呼べ。」
長老会会長の秘書が宮廷魔法使いを呼んでいる間、孫が訊ねた。
「ここでは使えますか?」
王宮内ではオベリスクの影響下にあり魔法は原則使えない。
「一応、どのような機構なのか意見を聞く。それからだ。」
程なく宮廷魔法使いがやってきて手紙を受け取る。
一別するだけでアーノルドに進言する。
「はい。そうですね。解錠の得意なものが今おりますので、どなたかついてきていただきたい。」
宮廷魔法使いはアーノルド達と共に自分の仕事場へと向かう。
ちょうど、食事を一足先に終えたディノスの元へ宮廷魔法使いの弟子が足早にやってきた。
「宮廷魔法使いの弟子殿。何事ですか?」
ディノスに耳打ちするとなるほどと言う。
アルシノエ達は何事かと見ている。
「ほう・・・食事を終えたら先に行っていてください。」
そうディノスは声をかけ食堂を後にした。
宮廷魔法使いの仕事場でありつい先ほどまで居た離宮で宮廷魔法使いから手紙を受け取ると何か呪文をぶつぶつと唱えるとぱきんという音がしてただの手紙のようにしなしなと手元に落ちてきた。
「解錠できました。魔法はこれだけしかかかっていません。ご安心を。」
「それで・・・」
「なんと。」
「それは長老会の皆様でご確認を。私は解錠するまでが仕事ですので。」
ディノスは早々にアルシノエ達と合流するために離宮を後にした。




