3 王妃選びの概要
ことのあらましを母に伝え、手紙が来てないか侍女に問う。
侍女の一人がアルシノエ宛の手紙を手渡す。
早速開けると母や使用人達にも伝わるよう内容を読み上げる。
「え・・・えぇぇっと???来る、緑花祭より城に於いて王妃選びをする由にて・・・参加するものは遅春日までに返信されたし。と言うことは期限まであと10日程度か。」
緑花祭は5月初め頃、遅春日はそれから7日ほど前の初夏に差し掛かる時期である。
手紙の初めを読んだところで、にゅっと現れた一人の男がアルシノエの持っている手紙を読んでいる。
「王妃選びか。」
アルシノエは発せられた方を見た。
徴兵されていた長兄であった。
「お兄さま。いつお帰りで?」
派兵先に長くいたためかずいぶんと髭を蓄え髪も伸び放題である。
にやつく長兄ミハリスはあらかた読んだ手紙をアルシノエの手にもどして出て行った。
残りの文章も読み上げて早速参加する旨の返事を書き長老会の重役の所まで翌朝早く持って行かせるために急いで手紙を書いた。
食事の前には終わらせるつもりでいた終わらず、長兄ミハリスは一人で食事を済ませたと侍女からの報告があった。
手紙を書き終え、遅めの夕食を一人で食しているとミハリスが水を1杯求めて食堂へやってきた。
「母上から聞いた。アーノルド様を頼ったのは良い判断だ。ネストルも母上が病と聞いて派兵先から帰ってくるそうだ。」
にやつくミハリスは続けて言う。
「安心して行ってこい。」
ぽんと背中を押され楽しげな長兄の足音が消えるまでのどを潤し上機嫌な長兄が出て行った先を見つめていた。
入城する前にやっておかなくてはならないことがある。
連れて行ける侍女の数は5名まで。
他持ち物は左のもののみ。
レース用の編み針。
そして着替え10日分くらい。
ドレスも必要な数だけ持ってくるようにと記載されている。
長兄と母にアーノルド邸での話をする。
母は驚き、長兄はうんうんと言いながら聞いていた。
「参加するだけが対価って安くないかしら?」
「何かあるのでしょうね。気をつけて。」
「まぁ、王妃に選ばれなくても嫁ぎ先を探すことにもつながるだろうし、友人も見つけられるだろう。楽しんでこい。」
そもそもこの国には学校で学ぶという風習が泣くそれぞれの家庭が家庭教師などをつけて読み書き話し方、礼儀からこの国の歴史文化、そして近隣諸国について学ぶ。
そのため社交界に出なければ友人を作ることが出来ないのである。
幼い頃から社交界に出入りするご令嬢もいるのだが、アルシノエの場合、父は仕事でほとんど家にはおらず母はそういったところに疎い。
そのため、アルシノエは社交界とは無縁の自由な生活を今まで送ってきた。
余り上下関係に関して厳しくない家風であったためか友人と言えば自分より年上の使用人達くらいなものである。
朝から侍女達を集めて選定に取りかかる。
「誰が何人ついて行くかよね。5人も連れて行ったこの家のことがままならないでしょうし。」
「私が参りましょう。」
ワーリンガ家の侍女・メイドの中で一番口数の少ないアニタが名乗り出た。
「残りのみんなは奥様とご子息方をお願いします。」
小さな鞄に自分の分の荷物を既に詰めていた。
その素早い行動からアニタは事前にアルシノエについて行くことを決めていたと皆が理解した。
一人ではすることが多すぎるとのことで誰か他に行くものがいないかと問いかけられた。
遅れてリューナン姉妹も名乗りを上げ、他の使用人たちは拍手で3人を称え、承認された。
彼らとて職場を失うわけにはいかない。
とかく、何事もなくワーリンガ家の母子も使用人も王妃選びの儀式が終わることを待つのみである。