18 襲撃
晩餐会、仮面舞踏会当日。
アルシノエ達候補者は大広間で晩餐会が開かれた。
国王派、大公派それぞれ数十人が集まり候補者達の食事風景を見学しながら、長老会のメンバーが候補者一人一人を審査していく。
マナーに気をつけ周りからの目が光る中おしゃべりしながら食べることは出来ず黙々と食べ続けるという、一種拷問に近い料理の味は美味しいのだが、味気ない晩餐会となった。
「背筋がしっかりと伸びていてよろしい。」
「これは・・・」
等々、紙にペンでコメントを書いている審査員がいて静中大広間に時に混じる採点中の長老会のメンバーの声。
ほとんどのメンバーが高齢と言うこともありそれは致し方ないことではある。
笑うのを必死でこらえる候補者が続出して
「うむ。」
無言で食事する候補者達の後ろを通り過ぎる長老会の新入り。
彼はどの候補者に対しても同じ言葉を書ける。
「食べ方については文句なし。では続けて。」
それが、食事が終わるまでのおよそ1時間半ほど続いた。
食事が終わると全員が大広間を出て仮面舞踏会の準備をする。
アルシノエも事前に取り決めていた髪型服装に着替え最後に胸に薔薇の花を差し仮面を付ける。
仕上がった自分の姿を見てうなった。
「これ・・・」
「大丈夫です。」
「いや、予想以上に派手ね。」
「大人びていて良いと思います。」
「で・・・誰?」
「あ、私たちの衣装です。」
「それぞれ少しずつ違うんですよ。」
「では、参りましょう。」
仮面舞踏会が始まると至る所でダンスが始まる。
王様も大公も関係なく賑やかだ。
アルシノエも誰が誰だかわからないままダンスをする。
ニーナともダンスをして笑いあったりして仮面舞踏会を楽しんでいる。
アルシノエが少し疲れて壁際にいたとき、声をかけられた。
「おきれいですわ。」
それは、仮面をしたナーリィスだった。
「ナーリィス様??」
「もっと派手な衣装だったら良かったのに、守役は地味な衣装ばかりですわ。」
ふふふではお楽しみくださいな。とナーリィスはアルシノエ達から離れていった。
マイギーやフェノロサ、ギザーロもこの仮面舞踏会を楽しんでいるのだろうかとぼんやりと考えた。
休憩を終えまたアルシノエはダンスを踊る。
これが課題だと言うことを忘れたかのように楽しく踊る。
仮面舞踏会も半分ほど終わった頃、大広間のドアが破られ大勢の目元だけ仮面を付けた集団が流れ込んできた。
「ん?」
「きゃー。」
「な・・・何者だ!!」
この襲撃で大広間はパニック状態。
或るものは逃げまどい、或る候補者は気絶したり急に泣き出したりで侍女達が宥めたり解放したりしている。
アルシノエはアニタは仮面のまま、仮面を頭の上にあげたフェノロサと背中合わせに襲撃者を撃退しているところを見た。
それからもっと先に見えたものは、多くの襲撃者に取り囲まれた或る人物がいた。
あのままでは危険だ。そう判断したアルシノエは隙を突いて取り囲まれている人物の手を握り走り出した。
思わず走り出したが、このままではアルシノエも危険だ。
「ともかく逃げるわよ。」
「まて!」
待てと言われて待つ人がいるのかと聞きたいがそれよりも逃げるのが先だ。
「あなた、なにやらかしたの?」
何も言わない。
恐怖で声が出ないのではとアルシノエは気にせず逃げながら語りかける。
「あそこまで行けば勝算があるわ。」
アルシノエは襲撃者に取り囲まれていたどこかの侍女らしき人物の手を握り大広間を後にした。
アルシノエ達はオベリスクの影響がない王宮の外まで逃げてきた。
空には満月から少し欠けた月が昇っていた。
「あなたおとりになって。」
仕方ないなという顔をしながらも首を縦に振る。
「いい?この魔方陣の中に入ってはいけないわ。」
よろしくねとぽんぽんと肩をたたいてアルシノエは大木の上に魔法を使って登る。
それから程なく襲撃者の一部がなだれ込むようにやってきた。
「いたぞ!」
「いたぞ。逃がすな。」
襲撃者達が魔方陣の真下まで来るまでおとりの人物への指示をする。
「もう少し。良いわよ。そーぉれぇぃ。」
地面に描いていた魔方陣が発動し、魔方陣の真下にいた襲撃者全員が胸、腰、足の3箇所を金属のようなもので拘束された。
「な・・・」
「動かないでくださいませ。」
アルシノエは大木から降りようとする。
このままでは確実に怪我をしそうな高さである。
「よっと・・・ちょっ!」
自身が着地するときの衝撃を和らげる魔法を唱えつつ大木から降りた。
アルシノエの着地点にはおとりになった人物が全く気がつかない様子で立っており、ちょうど右肩ありにアルシノエが落ちてしまった。
「ごめんなさい。ちょっと待って。うん、これをこうして。よし。あなた、ちゃんと上を見て無くては。あの王宮でも治癒魔法で2~3日もすれば痛みも消えるわ。あ?何をしたかって?あのオベリスクは発動を押さえるだけで再現を押さえるものではないからよ。あ、これは私たちだけの秘密ね。」
おとりになった人物の耳元でこっそりと耳打ちする。
さらに、アルシノエは耳打ちを続ける。
「お願いがあるの。兵士達を呼んできて。彼らをもう一度縛り直さなくては。今は動けば動くだけ締め付けがきつくなる魔法をかけているから。お願いね。」
救援を頼んで数十分後、兵士達が襲撃者と思われる人物達を連行していった。
もちろん、アルシノエは自身がかけた魔法を一人一人解いていった。
それきり、兵士を呼びに行かせた侍女もしくは女官の姿をアルシノエは見ていない。
ごたごたを片付け、侍女達の元へ戻ってきたアルシノエは侍女から指摘されて気がついた。
「あ・・・髪留めがありません。」
「えぇ??」
アルシノエは確か襲撃者を魔法で縛る前まではあったことを確認しているのでおそらくはあの大木から降りる際に落としたと気がついたのだ。
ただ、この事件があったので翌日探すことにした。