17 宴の前夜
晩餐会並びに仮面舞踏会の当日は茶会は中止となるためこの日が2つめの試験前、最後の茶会となった。
話題は大公が到着した時の様子と魔晶球紛失事件が中心だった。
「聞きまして?大公様が昼前にご到着されたとか。」
「えぇ。噂よりだいぶやせていたそうですわ。」
ニーナがいつものように扇子で口元を隠しながら楽しそうに大公について語る。
それにあわせるようにリチェンツァもまた口元を隠しながら笑う。
「ニーナ様はホスト役の時どのような演出を?参考までにお聞きしたいわ。」
「それは当日のお楽しみですわ。」
「えっと、アルシノエ様は2つ目の課題を終えてすぐでしたわね。」
「そうですわね。」
そこへ身を乗り出すように対面からタレイアが話に入ってきた。
「どんなものをお出しするのかしら?」
「知りたいわね。」
「教えてくださいませ。」
「それは内緒ですわ。」
いつも以上に楽しい茶会を終え、リューナン姉妹と共に部屋へ戻ってきた。
守役達は今、先日のこともあり皆大公派が何かしでかさないか見張りにかり出され誰一人もいない。
そのため侍女3人とアルシノエだけで部屋を動き回っている。
「アニタ。準備は整っている?」
部屋に一人残り菓子作りに必要なものを書き出しているアニタにアルシノエは確認する。
「はい、厨房をお借りすることも茶器を借りることもうまくいっています。」
「あとは、テーブルといすとクロス後お花が必要よね。」
「どうします?中庭の花を勝手に摘んではいけませんし。」
「造花というわけにもいかないわよね。」
「ないという選択肢もありかと。」
「花は有れば。無ければ一つめの課題で余ったレースで作ったコースターなどをおいておきましょう。」
「はい、そうします。」
ホスト役を務める茶会の話はそのくらいにして話題は明日のことに移った。
「明日の髪型と髪飾りを決めましょう。」
「そうね。髪飾りは私のお気に入りを。ネックレスは衣装に合わせて黒真珠かな?」
「はい。それでよろしいかと。」
「お化粧は少し大人っぽくしましょう。衣装と仮面負けしない程度にすべきですわ。」
アルシノエの髪をさわりながらどんな髪型にするかどこに髪飾りを付けるかで鏡を前にしてマイアとアルシノエは意見を交わす。
ある程度アルシノエが納得した髪型になったところでマイアの手を握る。
「マイア、任せたわ。」
はい、お任せくださいとマイアは胸をたたく。
そこへ、アルキュオネが飛んできた。
「靴なのですけれど、かなりヒールが高いみたいです。」
「このくらいならどうにか。」
「あ、晩餐会のドレスも選びませんと。」
「そうだったわね。衣装が暗いからドレスは明るめが良いわね。」
クローゼットからミハリスが送ってきたドレスの中からパステルカラーのドレスをアルキュオネが持ってきた。
「では、この色はどうでしょうか。ピンクのかわいらしいドレスですけれど。」
「初夏らしい服が良いと思うのよ。」
「では、萌葱色のドレスにかわいいレースのあしらわれたこちらは?」
アルキュオネがクローゼットから出した萌葱色のドレスを確認しアルシノエは納得の顔をして笑う。
「そうしましょう。」
そうやっている間に部屋のドアをたたく音がした。
マイアがドアを開けるとギザーロが様子を見に来ただけですと言いつつも部屋へと入った。
「進んでますね。」
「あら。見張りを早く終えられたのですね。ニーナ様、今日の茶会では上機嫌でいらっしゃいましたわ。」
「はい。この調子で明日を終えられれば合格も見えてくるかと。」
「そう。」
やはり、ニーナ様も練習をされていたのねと頬杖をついてギザーロを見る。
マイギー様のおっしゃるとおりだったのかしら。
と少し、遠い目でギザーロを見た。
なぜかギザーロはそんなアルシノエを見てほほえんでいた。
「当日はどのような衣装なのでしょうか?」
ギザーロはクローゼットを見に行こうといすから立ち上がる。
急にアルシノエはギザーロの前に立ちはだかる。
「それはお見せできないわ。」
「そうでした。明日お見せくださいね。そうそう我々守役一同並びに侍女どの一同も参加と言うことですよ。これは長老会からの話です。毎年何かしらの宴がありまして、大公派、国王派の要人が年一度派閥の垣根を越えて楽しく過ごそうという日にたまたま王妃選びが重なって今回の晩餐会と仮面舞踏会が実現したんです。ですので、守役侍女の立場を超えて楽しむようにと。」
「えぇ?」
侍女達が一斉にギザーロを見た。
彼女たちはアルシノエだけが参加するものと思い、自分たちの用意など一切していなかったのである。
すぐに、アルキュオネが部屋を探し始めた。
「衣装部屋にあるはずですよ。」
「どこ、どこ?あぁ。」
マイアも一緒になって探す。
すると、クローゼットの奥に3人それぞれ違った衣装と仮面が用意されていた。
それぞれに名前の書かれた紙がおいてあった。
「あ、本当だ。仮面まで。」
「ありがとうございます。私たちご指摘がなければ行かずじまいでしたわ。」
アニタも奥まったところにあった衣装に気がつかなかった様でギザーロに深々と頭を下げた。
「それは良かった。では、明日。」
「お休みなさい。」
ギザーロはこのまま食堂へ行くと告げ出て行った。
夜、一人で窓を開け、初夏らしい少し暖かな風を受けながら明日のことを考えていた。
アルシノエはとうとうここまできたのね。
今持てるすべてを出し切って合格しなくても後悔しないようにしたいと明日への抱負を胸にベッドへ入った。