15 長兄からのプレゼント
フェノロサが報告を終え戻ってきた。
報告ご苦労の一言で返されたと悔しそうに歯がみをしている。
彼を元気づけようとマイギーとナーリィスが励ます。
「まだ、計画段階だから。憲兵には警戒だけはしてもらいましょう。」
「これで未遂で終わればこちらのものですから。」
そんな3人に率直な疑問をぶつける。
「あの、セニア卿とは何者なのですか?」
「大公派の筆頭ですよ。大公様のおなりの前にいろいろ調べるために一足先に来たのでしょう。気の早いお人ですね。」
「調べる??」
「あー、献上品とかの確認、式典がスムーズに行えるように裏で調整するのが目的です。まだ、あの日には日があるでしょう?」
「そうね、あと1週間ほど有るわね。」
「大公派の貴族も国内の貴族の一部ですから。あの日は毎年式典と舞踏会が行われるのが慣例ですもの。」
「あの、晩餐会の前日に茶会が開かれるそうです。陛下主催で。大公も呼んでするんだとかで・・・」
「えー?!」
「驚くほどのことか?」
ギザーロが不思議そうな顔をしている。
この日が何の日か知っているアルシノエが驚きの声を出すことに理解が出来ていないようだ。
「立場の垣根を越えてのひとときですからあまり堅くならないように、ですわ。」
ぽんぽんとアルシノエの肩を優しくたたく。
それから程なくアニタが調査を終えて帰ってきた。
「情報が錯綜していて真偽は不明ですが・・・」
「なかなか長話になってしまって遅くなりました。」
「わかったことは?」
「先の大公様はご年配だとか。息子に先立たれて幼い孫を英才教育していたそうです。」
「他には?」
そうでずね・・・とメモを見ながらそうですねぇと目を落とす。
「えっと。この王妃選びには別の目的があるとか何とか。」
詳しいことはわかりませんがと肩を落とした。
アニタはマイアほど情報収集が得意ではないので気を落とさないでと良いながらアルシノエは慰める。
マイアの衣装つめが終わったら詳しいことを調べましょうと
アニタは長老会専任の女官からこの話を聞いたという。
「それと、長老会からミハリス様からの荷物と手紙が届いておりましたのでお持ちしました。そろそろ茶会のホストをする日が近づいていますし何か良いものが有ればよいのですが。」
「あ、そうね。」
「どうしましょうか、茶会の目玉となりそうなもの。」
毎回茶会には目玉となる珍しいものが供されていた。
地元特産のものとか滅多に手に入らないものであったりとか客を喜ばせる何かを出すのが
そろそろアルシノエの順番が迫ってきたのでいろいろと考えていたところであった。
箱を開ける前に長兄、ミハリスからの手紙を読むことにした。
手紙には、まさかの一文があった。
要約すると、報奨金がやっと支払われたのでお前にも何か送る。
ついでにピューカ特産のオレンジを使った茶、母上からのコケモモのジャムの差し入れとエフシミオスは日傘を忘れているから一緒に届けて欲しい。
あ、あとアーノルド様からの話では事情は不明だが、無かったことになる可能性も有るとか。
それと、辞退したければいつでも良いぞ。間は俺が取り持ってやる。
安心しろ。
もし、最終課題も合格したときには一度そちらに来るからよく話し合おう。
壊れかけた箸の修繕は夏の終わりに行うから心配するな。
とのことであった。
手紙を読んで大きな箱を開けた。
すると大きな箱の中には、アルシノエの新しいドレスが数十着、そして装飾品なども入っていた。
「その報奨金の使い道間違ってない?」
「茶会へのドレスも使い回しではいけないかなと思っていたところでした。」
「えー、ミハリス様すてき!!」
「さすが、です。」
リューナン姉妹も作業の手を休め、ミハリスからの届け物を見に来ていた。
その箱の内容を見たナーリィスはうらやましそうな顔をしている。
「まぁ、優しいお兄さまね。」
そうですねとマイギーも肯定する。
ナーリィスが自身の話をはじめた。
これまで、ナーリィスが自分の家族に関する話をアルシノエ達は聞いたことがなかった。
「私の父は権力者でした。私の母は彼の愛人の一人で私が末っ子で一番かわいがってくださいました。
あるとき、父は私にプレゼントをしてくれました。箱に入っていたのですが、中には、なんと小さな子猫が入っていました。」
「まぁ、うらやましいわ。」
「私が欲しいと言ったことの無いのに、ですわ。周りが皆ねこを飼っていると聞いて勝手に買ってきて。」
「お父様からの愛を感じますわ。」
「そんなにほめてくださるのなら、いつか父とあわせたいですわね。」
まだ、考え込んで落ち込んでいる様子のフェノロサにアニタは熱いお茶を出した。
そして、アルシノエ達にもお茶の用意をした。
「え・・・と・・・」
マイギーに長兄ミハリスからの手紙の中で気になる箇所が出てきたのでを聞いてみた。
「ねぇ、もし守役の誰かと変な噂なんか出たらどうなるのかしら?お互い好きあっているとか。」
顔を少し赤くしたアルシノエにナーリィスがまぁ、まぁと色めきだった。
声も小さくなっていき、ここにまだ彼もいることが少し顔に出てしまっている。
「普通は、自主辞退と言うことになりますね。確か、えぇーっと。」
「家からの方針で辞退しますって一筆かいて長老会に渡せばすぐに引き払わなくてはいけないはずよ。」
「守役のほとんどが貴族のお坊ちゃんだったりするからそこで知り合うこともままあるだろうな。前回の課題中にも何名か自主辞退をしたものがいたそうだ。」
「でも、気になる相手とのつてがないと結婚までは難しいわね。」
貴族同士の結婚にはいろいろと制約があり、恋愛結婚はまず出来ない事が多い。
家の当主の意思が尊重されるので、中には望まぬ結婚をするものもいる。
それが最終的に幸か不幸かは人それぞれであろう。
的確なアドバイスが出来なくてと言うマイギーはナーリィスを見た。
「そうだ、ナーリィスさんは既婚者でしたよね?」
「え、えぇ。」
「ナーリィスさんの時はどうでしたか?こういった場面での話でなくても良いので。」
急に振られたナーリィスはちょっと焦って動だったかしらと良いながら手をほおに付ける。
「えー。私は、ちょっと遠出をしようかと父に言われて行った先が夫の家族が住む家だったのですわ。」
「急ですね。」
「勝手に決められたけど、父の人を見る目はしっかりしていたから今のところは問題はないわね。参考になったかしら?」
アニタはなぜか拍手を送る。
「素晴らしいお父上様ですね。」
「お互いの気持ちなんて一切考えてはくださらなかったのが残念ですけれど。」
そういって笑う。
この笑顔は幸せな笑顔だ。
「うふふ。でもそれからお互いに愛情を紡ぎあい今に至りますわ。私が守役になったのは少し外を見てみたくなったから。」
「たぶん、今日はニーナ様の所には戻らない方が良いかと。噂好きなセニア卿の手下がうろうろして何か聞き出そうと待ち伏せいている気がする。」
ギザーロたち守役はアルシノエ達より先に食堂で夕食を食べて一日の仕事が終わるのでアルシノエの守役3人と共に部屋を出て行きまた明日と出て行った。