13 大公とは
衣装が間に合うか、そして仮面舞踏会でのダンスを失敗をしてしまうのではないかが大公がやってくるという噂よりもアルシノエには気がかりである。
衣装はマイア達に任せてダンスの練習をする。
相手は守役のフェノロサ。
彼が仕事で部屋を出て行くとマイギーが相手をしてくれた。
「相手次第ですねぇ。どうにか様にはなるかな。」
「大勢での舞踏会は経験が無くて。」
「余りしすぎると筋肉痛になりますよ?」
一言多いマイギーにちょっといらつく。
「最近、ギザーロ殿をお見かけしませんわね。」
「彼もきっとニーナ様にお相手を頼まれたのではありませんか?」
マイギーの言葉にどきりとする。
ギザーロもまた守役の一人。
頼まれたら、マイギーやフェノロサのように踊るのだろうか。
茶会の後、ぼんやりと窓の外を眺めている頃、彼がやってきた。
「おや、楽しそうですね。」
ギザーロはいつもと変わりなくふらっと現われ、アルシノエにすっと手を出した。
「お二人から聞きました。ダンスの練習をされたとか。お相手して差し上げましょうか。」
「いいえ、結構ですわ。」
アルシノエはリューナン姉妹と自分の分、そしてギザーロの分のお茶と茶菓子を用意する。
守役三人はそれぞれ報告をしに行くと言いアルシノエ達より先に部屋を出て戻っていない。
リューナン姉妹は作業中でアニタは用事があると部屋を出ている。
一応客人であるギザーロにさせるわけにはいかず、つまり動けるのはアルシノエだけである。
「あ、そうだ。大公派と国王派について国王派は白い羽を大公派は黒い羽をつけている。一番の特徴だな。」
「白と黒ね。」
「来週だったよな。仮面舞踏会は。」
「その日は大公派と国王派の停戦合意の記念日でしたわね。」
ほうと普段は情報をギザーロを介して入手することが多くなってきているアルシノエが珍しいなとギザーロはアルシノエを見る。
あら、いけませんこと?とアルシノエは笑いかける。
「よくご存じで。」
ギザーロは優雅にお茶を一口飲む。
「大公派も国王派も最近活発に活動しているそうですよ。」
「まぁ、大変。でもどうして争っているのかしら?」
「それは昔のお話で。長くなりますよ。」
「じゃあ、いいわ。また今度にしてちょうだい。」
何も話さずお茶と菓子を食べているだけの無言の時間。
ちらりとアルシノエはギザーロを見るも全く視線が合わない。
もどかしい気持ちでこの無言の時間を終わらせたくてギザーロが手を伸ばしたときにアルシノエも手を伸ばす。
手が触れあうと思ったとき、クローゼットの方からアルシノエを呼ぶ声が聞こえる。
「アルシノエ様。ちょっとよろしいですか?」
衣装を詰めているアルキュオネに呼ばれ、衣装合わせをしている。
扉越しにアルシノエとギザーロは話をすることとなった。
アルシノエはギザーロに疑問をぶつける。
「そこまで仲が悪いというわけでは??」
「今はね。」
作業に手間取っているのかアルシノエの返答がない。
「では、ニーナ様のご癇癪が収まったようなので。」
ギザーロはそそくさと出て行った。
マイアとの打ち合わせで返答が出来なかったアルシノエ。
ギザーロが帰ってしまい、アルシノエは何とも言えない寂しい気持ちがしていた。
「噂は本当なのかしら?本当に大公様がいらっしゃるか噂を集めてきて。」
「わかりました。」
仕事の早いアニタはマイアに代わって情報を入手しに出かけた。
侍女つながりでアニタにも友人が出来たらしく、
「大公殿がこの王宮に来るのは事実のようです。噂の出所はいくつかあって突き止められませんでした。
あと、王様より若いそうです。体型はやや、やせ形で他はまだ。わかり次第お伝えします。」
髪の色、瞳の色など基本的情報そして性格等の情報を手に入れようとアニタは出かけていった。
アニタ一人に情報収集を頼るよりアルシノエも
「私も情報を入手しに行きましょうか。あ、アルキュオネ。手は空いているかしら?」
「面白そうね。」
アルキュオネにアポイントを取ってもらっている間にまたアルシノエはマイアに呼ばれ衣装合わせを何度か行った。
アルキュオネが都合がついたご令嬢の名をあげ姉と作業を再開した。
アルシノエはナーリィスと共に情報を求め出かけた。
「あら、珍しい。ギザーロ殿はどこかへ行ってしまいましたけど。」
「いえ、ニーナ様にお話をと。お時間はございますか?」
「少しなら。」
アルシノエとナーリィスにお茶とお茶菓子が提供された。
「お忙しいのに。」
「いいえ。大公様もこの中から妃を選ぶって噂、かしら。」
「そうです。多くのご令嬢が噂していましたわ。」
「えぇ、たくさんの人たちを連れてくるそうです。」
「私は、王様より若いことくらいしか知りませんの。」
「ナーリィス殿、大公様のことで何かご存知かしら?」
「うーん。私の印象だと良い意味で若いかな?」
「若い?」
「見た目より若くていたずら好き。かな。」
視線を上に上げ何かを思い出そうとナーリィスはうんうんうなる。
そして、はっと思い出したように視線をもどした。
「子供っぽいと言うことでしょうか。」
ちらりとナーリィスの顔を見る。ナーリィスはにこやかなままだ。
「決してそういう意味ではないの。」
他の交友関係のあるご令嬢を訪ねてみたもののたいした成果を上げられず、アルシノエとナーリィスは部屋へと戻ってきた。
と言っても手持ちぶさたなアルシノエ。
部屋でアニタの帰りをただ待つのも退屈なので、
「一度、出ても良いかしら?」
「え。あぁ。どうぞ。」
作業中のマイアに一言声をかけてアルシノエは気晴らしにと散策へと出ることにした。
リューナン姉妹は衣装を詰める作業に忙しそうにしていたので守役のナーリィスとと共に。