いつの間にかモフモフハーレムです【続・異世界はなんか肌に合いません】
「歯を磨かないと。らんらんらん………あ、あれ?」
おかしいです。
私の、私の指に。
鏡の中の歯磨き粉出してる私の薬指に。
指輪が。サイズぴったりの指輪が。
キラキラしてる石がはまってます。
私は一人で宿屋に泊まって起きただけなのに。
こんな指輪知らない。
+++++
どもどもー。意味不明な事態からのー。
崎原薫です。
異世界転生して、ドキッ!獣人だらけの世界にやってきました。ポロリは、モンスターに噛みつかれて、自分の首がポロリしかけました。
が、チートな回復魔法を唱えて大丈夫です。
体はすぐに回復魔法で治るのですが、問題が。
襲われた体のショックが治らなくて、つい先日まで病院に居ました。
猫の獣人さんが甲斐甲斐しく看護してくれました。
で、ようやく自分が泊まってる宿屋に戻ってきました。
とりあえず、昨日は宿屋に泊まりました。
今は朝、清々しい朝です。
小鳥さんがヂュンヂュン言ってます。
顔を洗って歯を磨きましょう。
それにしても電動歯ブラシないと、地味に手が疲れます。
あっ、人間用の歯ブラシは病院に居た時、猫の獣人さんが手に入れてくれました。
ちなみに猫の看護師さんはアメリカンショートヘアでした。
可愛くて連れて帰りたかったです。
でも、女同士だから恋人にはなれないと断られました。友達にはなりたいです。
で、色々逃避しましたが先程の事態に戻ります。
私の指に指輪がはまっています。
キラキラしたピンクの石がはまってる、多分これはプラチナです。
「サプラーイズ!!」
「うおっ」
大きい声で後ろから叫ばれて、歯ブラシを吹き出しました。
一瞬前には居なかった。
私の後ろに、黄色と黒のシマシマが居ました。
鏡ごしに虎のいかつい顔が覗いてます。
「虎の獣人さん?!」
そうです。
虎獣人さんが後ろに立って居ました。
慌てて振り返ると、口元を虎さんが拭ってくれました。
肉球の手に器用にタオルを持っています。
「あっ、ありがとうございます。じゃなくて、へんたーいっ………モゴモゴ」
歯磨き粉を拭ってくれて、ほだされそうになりました。
ですが、変態と叫ぼうとした所でモフモフの手に口をふさがれました。
不法侵入です!
「俺様の妻よ。変態ではない、薫、お前の夫だ」
やや人間味が強い顔で真剣な顔つきです。
表情が分かるぐらいには人間よりです。
体はモフモフなのに不思議です。
ふさがれたままの口に肉球が当たります。
虎はやはり猫なのか。
「俺様はこの前にお前を食べて魂を受け取った。俺様とお前の魂は結ばれた。いわゆる結婚という事だ」
ん? 私を食べた?
「ま、まさか。この前私を食べた虎のモンスターさん!?」
「名前はロイドだ。魂から読み取ったが、薫はサプライズ好きだな。結婚記念に指輪を買ってきてやったぞ。俺は狩りが得意だ。稼ぎがいい」
察しのいい私は全てを理解しました。
つまり、こういう事でしょう。
この前、虎のモンスターに食べられて死にかけリセットをしました。
虎は私のほとんどを食べてました。
体のどこに魂があるのか分かりませんが、魂の一部もしくは記憶が渡った。
で、虎さん改めロイドさんは喋れるようになった。
ロイドというのは、多分子供の頃に大事にしていた虎のぬいぐるみの名前です。
「でもお断りします。虎はちょっと怖いし、そもそも私をかじったじゃないですか」
かじったというか、モロ食べたというか。
目玉がプチっとな、というか。
私の冷静な意見を聞いて、ロイドさんは、
「ふーん?」
と言って考えました。
そして洗面所にあるブラシを私に渡してきます。
これはもしかして、もしかして?!
「ブラブラブラブラっっ、ブラッシングですかぁ?!」
ブラシを持つ手が震えます。
虎にブラッシングをしてもいいなんて。
ロイドさんは、私の目をひん剥いたマジな質問に、
こっくり。
とゆっくり頷きました。
生暖かい目をしています。
「ありがとうございます」
「これは結婚だな?」
そうですね。
結婚すれば、ロイドさんの黄色と黒のシマシマに毎日ブラッシングです。
もちろん私は………
「けっこ………」
「ちょーっと待ったー!」
ドアがバターン! と開かれました。
振り向くと白衣を着た猫の看護師さんが居ました。
連れて帰ろうとしたアメリカンショートヘアちゃんです。
可愛いです。
やっぱり猫ちゃん可愛いです。
「薫さんは先に私に同棲を申し込んだわ。女同士だけれど結婚しましょう」
ふふんっ、猫ちゃんが顎をあげて得意げです。
そのポーズ可愛い。
あっ、名前はアメリちゃんです。
「ちょっと待った! 薫さんはウチの宿に戻ってきてくれたのよ!」
「僕たちが先に目をつけた!」
宿の看板娘さんのスムースコートチワワさんとその兄弟が、ドヤドヤと開かれたドアから入ってきます。
「僕たちが犬の獣人のマメさでお世話する!」
「薫さんなら宿代はずっとタダよ」
スムースコートチワワさん達の提案に心がぐらつきます。
店員さんの名札に娘さんはスムさん、男の人はチワさんと書いてあります。
名前初めて知った。
「待ってください! 俺が初めてこの町で声をかけました。人間さん、一目惚れです! 付き合ってください!」
あっ、この町で初めて「大丈夫ですか?」って声をかけてくれた猫の獣人さん。
オスの三毛猫さんだったのか。
私は大勢の獣人の人達に囲まれてあわあわするばかりです。
手にはブラシを持ったままです。
どうしよう………。
いつの間にかモフモフハーレムです。
+++++
崎原薫はこの獣人だらけの異世界に来た人間にありがちな運命を辿っていた。
この異世界に紛れ込んだ人間は獣人同士で取り合いになり、モフモフまみれの生活を送る事になる。
それは獣人が何故か人間に褒めてもらったり、人間を大事にしたくなったりするからだ。
人間がたくさん存在していた頃の遠い遺伝子の記憶だ、とフクロウの歴史学者は研究結果を発表している。
大変な事になると思いますが、虎とか猫とか犬にモテモテになりたいです。
気軽に書きはしましたが、お読み頂きありがとうございます。嬉しいです。