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落ちたその先で

今回は少し短いです。

「………うん、あれだけ高いとこから落ちて何で無事なんだろーね?あたしは」


 雲の上から落ちた様なものなのに、希望のぞみは無傷で谷の底にいた。

 無傷ではあるが、ずぶ濡れではある。

 水深のある川が流れていたのは僥倖だった。それもかなり深い。

 普通ならまず死ぬ高さで、いくら川があってもまず助からない。川底に激突して終わりだ。

 しかし希望のぞみは生きている。


「やれやれ、運が良かったで片付けて良いのか悪いのか」


 確かに川のお陰で助かったが、川と呼ぶにはあまりにもおかしい幅があるのだ。

 落下があまりにも長かったせいでうっかり観察してしまったが、もう湖と言っても差し支えない大きさのものなのに、落ちてみれば水中はかなり強い流れがあるという。

 落下の衝撃は全て湖に分散され、巨大なクレーターを作ることもなく自分がこの場にいることは、正しく僥倖と言わざるを得ない。

 しかし、それはそれである。


「へっくし!」


 ここには火を熾すものが何もない。

 加えて風も吹いているために希望のぞみの体温はどんどん下がる一方だ。

 仕方ないと希望のぞみは出来るだけ濡れた制服を絞って、再び歩き始めた。

 走るわ落ちるわ泳ぐわで減った精神的な何かを慰めるために、飴玉を一個口に放り込む。

 上着のポケットに適当な小石を入れることも忘れずに。

 そうして途方に暮れながら歩き始めて五分もしない内に、今度は別の集団に希望のぞみは追い立てられていた。


「いやいやいやいやいわいやー!!」


 強烈な悪意と共に押し寄せる全身鱗に覆われた人間らしき彼らは、各々がその手に剣だの槍だのを握って希望のぞみを追う。

 一人二人が襲い掛かって来た時はポケットに忍ばせてあった小石で迎撃したが、多勢に無勢。

 何を言っているのか全く分からないのに悪意は感じるので、取れた手段は逃げの一手しかなく、希望のぞみは走った。

 先程までの森の中とは違い、この場所に遮蔽物はない。

 命の危機は普段以上の力を引き出し、希望のぞみは人間ではあり得ない速度で鱗人間から逃げ出した。


「逃げてばっかりって悔しいんですけどー!!」


 悔しいと思うけども、彼らには触れたくなかった。

 学校に来ていた不良バカ共とは、悪意のレベルが違う。

 肝が冷える程の悪意に晒されることなどなかった希望のぞみは、一目散に逃げ出して正解とも思っている。

 それでも、戦える力があるのに逃げるしかないのは悔しいの一言に尽きる。

 何とかして何かしら武器を手に入れなければならない。鱗人間から武器を奪えばと考えたりもしたが、あの悪意の中で冷静に武器を奪って集団を無力化することは、非常に困難と言えた。

 森の中で狼(仮)相手に戦っていた方がまだマシな結果になっていたかもしれないと思っていても、それはもう叶わない話なので希望のぞみは諦めて川沿いを進む事にした。


「………んん?」


 二個目の飴玉を放り込んでしばらくしてから、希望のぞみは自分を尾行してくる存在に気が付いた。

 視界にこそ入らないものの、結構な音を立てながら着いてくる存在が気になって、希望のぞみはこの尾行者をどうにかするべく考えた。

 取り敢えず、少しだけ速めに歩いてみることにした。


「んー………?」


 気配が遠のくのを感じると、ペースを戻す。すると別の場所から視線を感じるようになった。

 先程までのものとは違う視線に希望のぞみは首を傾げたが、別段どうということもないので、そのまま放置することにした。

 しばらく何事もないような足取りで進んでいると、横を流れている川が急激に狭くなった。

 天然の水門みたいな物かと呑気に水の中を覗くと、底には妙な水色の塊が視えた。


「何だろ?」


 水の中にあるのに視えるその塊は、どっしりと構えていて引き上げれそうにないので、希望のぞみは眺めるだけにしようとしたが運が悪い事に、足元が脆かったのか。


「ありゃ?」


 視界が水色に染まる。

 水の中に落ちたと分かったが上流とは違い狭くなっていたために、尋常ではない流れになっていた。


「がぼぼっごぼっごぼぼっ」


 想像以上の急流に希望のぞみは何も出来ずに流される。

 流されて流されて藻掻いている内に、遂に意識を飛ばしてしまった。





 視線の主は、流れていく希望のぞみを見送るだけで、何もしようとすることはなかった。

落ちた後にまた落ちます。

どこまで落ちるんでしょうね、この娘は。

何故無傷で済んだかは、有り体に言えば火事場の〜ですね。

詳細はその内に書く予定です。

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