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間章 世界の隙間で

ある意味説明回になります。

 世界は一つではない。

 その在り様は実に多岐に渡る。

 ほんの少し波長が違う世界もあれば、全く重なり合わない世界もある。


 それを感じ取れるのは、その能力を有した者のみ。

 例えば、霊能者。

 例えば、巫女。

 例えば、神子。

 例えば、神官。

 "神降ろし"が出来る存在は、他の世界も一般に比べれば容易に感じることが出来る。


 世界をったのはただ一つの意思。

 眠りについてからは導くものもなく世界は混乱を極めたが、それを収束させたのは何処からか生まれた知れぬ4つの意思。

 いきものなのかしにものなのか、誰も分からないまま、4つの意思は二組に分かれて双方を取り纏めた。

 この時を以て、いきものしにものは沈静化に向かって動き出す。

 やがて世界が細分化されて、争いが完全に収束されたのを機に4つの意思は肉体を得た。

 しにものを纏め、いきものからやって来た者達を迎え入れ、望む者には再びいきものへ還す役割を担った"闇"と"光"。

 いきものを纏め、生きていく上での力を担い、しにものを望む者には送り届けることのできる"火風"と"水地"。

 彼等は常にどこかしらに己がそうであるシルシを以て産まれる。

 "闇"の子ならば射干玉の角。

 "光"の子ならば真皓しろき六対の翼。

 "火風"の子ならば、額に太陽を。

 "水地"の子ならば、胸に望月を。

 4つの意思は、世界を存続させるためにいきものしにものの枠を超える。



 ※※※※※※※※※※※※※



「で、どういった状況?」


「どうもこうも、といった状況です」


 赤毛の女が、報告に来た男から書面を受け取ると実にしぶい顔になる。


「事態そのものは抑え込めることが出来たんでしょ?」


「はい。結界を予め展開してあったので、周辺への被害は実質皆無と。ただ…」


「ただ?」


「一般人が1名、死亡しておりますので………」


 女は忘れていたとばかりに額を押さえた。


「そうか、そっちの問題もあったっけ。隣の家の子だっけ?確か」


「はい。幼なじみという事ですので、縁はかなりかと」


 女の眉間には深い皺が刻まれるが、男は関知することなく報告を続ける。

 該当者の身体的拘束及びその精神の拘束。

 該当者の世間的関与の抹消。

 該当者の保護者への援助。

 該当者の処遇。

 考えることもやることも山積みだが、止める訳にはいかなかった。


「………あーもー、こんな面倒な時にあのはどこ行った!?」


 自分の対である少女を脳裏に浮かべ、赤毛の女は頭を掻き毟った。

 ある程度現実的な赤毛の女と違って、彼女の対である少女はどこか現実離れをしている。

 別の見方をすれば、"現実離れ"ではなく本当の意味で現実を離れている少女は、対である赤毛の女が頭を抱えていることも知らずに、自分専用の花壇で咲き誇る季花を愛でている最中だった。

 だから気付けたとも言える。


「あら?」


 彼女の視界に映ったのは、崩壊しかけたいきものの魂。

 しにものへ向かうことも出来ずにいたもの

 このままでは、この魂は遠からずえてしまう。

 この場にいたのが他の者であった場合、恐らく気付くことは出来なかったであろうほど弱った魂に、少女は優しく言った。


「それ以上使えば、貴方のちからは消えてしまうわ」


 少女がそう言って、魂を招き寄せる。

 魂は飛行する能力をなくしたかの様に少女の掌に落ちてきた。優しく受け止められた魂は礼を言うかの様に明滅する。


「お礼を言われるほどのことはしてないわ。わたくしはひとりの人間として目の前のいのちを救いたいだけだもの」


 少女はその魂に向けて()()()()言葉を発した。

 しかし、加減を間違えたのか。膨大な少女の力が魂へと送り込まれる。


<ちょっとアンタ!一体何してんの!?>


 その力の奔流は、報告を受けていた赤毛の女にも感知され駆けつけるのももどかしいのか、声だけを飛ばしてくる。

 少女は焦る女をよそに、魂に力を注ぎ続ける。


「あのね?このが凄く弱ってて、えてしまいそうだったの」


<だからって、入れすぎでしょうが!!大体、こいつがどこの誰だか分かってやってんのかアンタは!?>


「さあ?」


 少女には弱っていた魂を助けたという自覚しかない。


「さあ?じゃないでしょうが、このポンヤリ娘っ!!」


 怒声と共に少女のもとに転移してきた女は、今も魂に注ぎ込まれている力を強制的に遮断する。


「何するの!?」


 力を遮断された少女は女に非難の声を上げるが、女はそれを切って捨てた。


「何するのじゃないっ!………あーあー、もう、ホントに何してくれてんだか………」


 力を注ぎこまれた魂は、このエリアに落ちてきた時と大分変質していた。

 ではなくである。

 赤毛の女は、元の魂を直接確認してはいないが、この魂がくだんの魂であることを知っている。そして、この魂が暮らしていた世界は、奇しくも女がまだ、ただの人間であった頃に暮らしていたのと同じ世界。

 同郷の魂を知っている女は、その変質ぶりに、最早同じ世界に戻せないと判断した。

 そうして、その魂は速やかに別の世界へと送られる。

 新たな世界に生まれ変わって穏やかな生を送る様に祈るが、別世界の輪に乗せてしまってから少女が気が付いた。


「ねえ、ちょっといいかしら」


「何?」


「あのしにものの輪を巡ったかしら?」


「………………………あああああっ!!?」


 魂というものは、いきものしにものを巡っている。いきものでの世界で命を落として、しにものの世界で魂を真白にしてから再びいきものの世界で命を持つ。

 基本的には世界の同じ場所を行ったり来たりするのだ。

 例えばいきものの世界で命を持った場所がAという国だとしたら、命を落としてしにものの世界を巡り、再び命を持つ時、どこにいるかというと大体A国のどこかで命を持つことになる。

 それは動物の時もあるし、植物の時もあるし、また昆虫や海洋生物だったりする時もあるし、運が良ければ人であることもある。

 だが、今回の場合は違う。

 少女のせいで根本から変質してしまった魂は、最早、元に戻れなくなり、このまま同じ場所セカイに戻したら間違いなく人外魔境な能力の持ち主になってしまう。

 だから別世界の輪へ乗せた訳だが、しにものの世界を巡ることなく輪へ乗せてしまうという失敗をやらかした結果、前世での記憶を保持したまま新たな世界で命を持ってしまうかもしれない魂が発生してしまった。


「………まあ、仕方ないわ」


 やらかしてしまったものは仕方ないと、女は割り切ることにした。


「そうなの?」


「そ う な の!」


 上手く行けば、新たな世界で彼女と再会できる筈だ。

 女は失敗を棚上げして、例の件に巻き込む為に少女を連れて花壇から去る。


 願わくば、他の二人に失敗がバレませんように。

 願わくば、このポンヤリ娘がバラしませんように。

 願わくば、彼女がこれからの未来を嘆きませんように。


 女は、己が願われる立場にいることも棚上げして祈った。

 額に印された太陽に触れながら。


赤毛の女と少女は、もと人間です。

赤毛の女は、アメリカ人です。

少女は、地球とは違う別世界の出身の貴族なので、少し(?)おっとりしてます。

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