彼女の知らない幼なじみの事情
初コメントいただきました。この場を借りてお礼申し上げますm(__)m
そして今回は、幼なじみ君の回です。…そして短いです。
角田 悠馬、16歳、高1。
それが、彼を知らない人物から見た対外的な情報。では、彼を知っている人物から見た場合はどうかというと、ここに成績優秀であることが付加される。
文武両道という情報。でも、それだけだ。
もう少し親しい、友人からの評価になると更に付加されるのは、鈴木 希望という女生徒の幼なじみで、彼女のブレーキ役をしていると誰もが答える。
両親からの評価は、グレずに良い子に育ったけれども趣味が悪い。自分達の子供なのだから、顔はそこそこ。成績上位者なので中学時代はそれなりにモテていたのも知っている。一時期、希望を放ってそれなりに可愛い子と、何回かデートもしていたが、直ぐ別れたのも不思議に思う。ある日父親が理由を訊けば『楽しくない』の一点張りで、徒に身体強化を図る隣人と共にいる方が楽しいと言う。それを聞いた母親も目を丸くした。
悠馬自身の自己評価は全般的に世間より上の認識だが、それをひけらかす事はしない。したところで返ってくる反応はどれも変わらないからだ。
妬み嫉みのオンパレードで小学生の頃は随分酷いイジメにあっていたが、それらを全て跳ね返しやり返した切っ掛けは、幼なじみの彼女が、全力で対応してくれたからだ。
当時、悠馬と希望はそれほど仲良くはなかった。悠馬は希望を幼稚園の頃から知ってるというくらいの間柄。
それなのに秘密であろう身体能力を惜し気もなく披露して、イジメっ子どころか当時の教師をも叩きのめした。
その時の言葉を一生忘れることはないだろう。
『変わろうとしなきゃ変われないんだよ!!』
イジメを隠していたどころか、イジメっ子と一緒になって悠馬をイジメていた教師。
彼女はそれをずっと腹立たしく思っていたと後になって聞いた。どうしたら良いかを自分の親に相談したら、何と彼女の両親は、現場を押さえてその場で叩きのめせば良いと言ったそうだ。
イジメっ子はもちろんのこと、教師も打ちのめされたことは言えやしまいと踏んだそうだ。何せ当時の彼女はクラスの中でも一際小さく、喧嘩では誰にも勝てそうにない脆弱な存在に思われていたからだ。
そんな小さな子に、こてんぱんにされた。
イジメっ子達と教師は、1週間ほど休んだあと学校からいなくなった。噂ではイジメが発覚して誰かから糾弾されたために学校側が転校・転勤措置を取ったらしい。
しかし事実は違うと、彼女の両親が教えてくれた。その内容は、ある意味とても恐ろしいものだった。
道場に通いつつイジメっ子達や教師の話を拡散し、挙げ句に彼らの家まで押し掛けて、一人ひとり泣いて謝らせた結果だと。
要は彼女が恐ろしくなって、逃げ出したということだ。
「何で、そこまで」
一歩間違えれば、自分が大変なことになっていただろうに。そこまでする彼女の真意が悠馬には分からず、するりと疑問を口にした。
「それは残念だけど、私達に答えることは出来ないから本人に訊いてくれるかな」
彼女の両親から答えをもらえなかったので、翌日悠馬は早速本人に訊くことにした。すると返ってきた答えは何とも言えないものだった。
「だってアイツら、嫌いなんだもん」
「だからって、全力出すこともないだろ?」
「出すこともあるよ!アイツら、悠馬のことちゃんと知らないくせに悪口言いふらしてたんだよ!!しかも、嘘ばっかり!!」
その答えを聞いて悠馬は確信した。希望はただの馬鹿だと。本能で生きているだけだと。
仲が良くないと思っていたのも自分だけで、相手はとっくに仲良しだと思っていたと。
そうしたら色々悩んでいたのが急にアホらしくなってきて、悠馬は笑うしかなかった。
急に笑いだした悠馬を希望は不思議そうに見ていたが、笑いは伝染し二人揃って高らかに笑う。
ひとしきり笑ったところで、悠馬は希望にまだ礼を言ってないことを思い出した。
「希望、ありがとな」
「良いって良いって!また何かあったら言いなよ?すぐにやっつけてやるんだから!!」
意気揚々と宣う希望に、悠馬はひとつ己の中で誓いを立てた。
『守る』
希望は恐らく今後も悠馬と共にあって、悠馬に何かあれば全力で助けてくれるだろう。けれどもその力は強力過ぎる。見つかれば、只では済まない。
ならば、彼女のフォローは自分の役目だ。何があっても、伏せてみせる。
それこそが彼の事情。付かず離れずの適度な距離感で、彼女の暴走を未然に防ぐ。出来なければ手早く後始末をつける。
人から見れば損な役割と言われるだろうが、悠馬からしてみれば自ら望んだ立位置だ。
何と言われようとも、彼女の側を離れるつもりはない。
それが命を掛けることであっても。
変わろうとしなきゃ変われない。事実ですが、人間そうそう変われるもんじゃない。
でも、歳をとると性格って丸くなりますよね。不思議です。