不毛の土地にて。
前回までのお話。
襲い掛かってきたナイフから兵士達を救った希望は、本来の実力を発揮するために彼等を森へと追い返した。
身軽になった希望の実力や如何に!?
ナイフとの戦闘は兵士達と別れた後、呆気ない幕切れを迎えた。
希望に向かって飛来してきたナイフは、荷袋から取り出した術式杖で叩き落としてから動かなくなった。
「何だったの、これ…?」
希望は知らないことだが、術式杖は材質は魔銀5:玉鋼3:純金2の比率で鍛造された合金から作られている。玉鋼自体は何の変哲もない鉄から作られているが、純金と魔銀は産出地などによりけりでその性能に大きく差が生じるものだ。例えば、とある場所で採掘された純金と、とある実験で調合された魔銀を組み合わせた術式杖は、使い手の術力を際限なく吸収・放出するために余程術力に余裕のある者以外は決して採用しない組み合わせである。ちなみにこの術式杖は今ではとある場所に封印されている。使い手を選ぶではなく使い手を消滅させる恐れがあるためである。
そして希望が村長から預かった術式杖は、また違う性能を発揮していた。希望の意思がある程度、反映される仕様になっている。
動きを止めたいと思いながら振れば、止める様に。
吹っ飛ばしたいと思いながら振れば、吹っ飛ばす様に。
希望は"ナイフの動きを止める"ことに注視していたので、術式杖はナイフが動いている術力を突き止め、それを絶つ事によって動きを止めたという次第である。
勿論、希望にはそんなことが分かる訳もなく。分からないままに勿体無いと転がっているナイフを手にして、術式杖は一先ず荷袋に戻しておく。頼りになる武器であることは証明されたものの、イマイチ正体が掴めないものは使わないに限ると。
「さて、ここをこのまま進むとどうなることやら」
森に戻れば、先程の兵士達が迎えてくれるであろうことは想像に難くない。初めの内は感謝されるだろうけど、その後が実に問題である。彼等が希望を捕縛しない保証はない。捕縛を振り切っても地理不案内なままでは追い詰められることは必至。
村の存在を隠しておくためには森に戻らない方が良いと判断した希望は、実に軽い気持ちで森に背を向けて歩き出した。
切り立った崖に囲まれた谷は森との境目は相応に広かったが、歩を進めていくうちに徐々に狭まっていく。半日も歩かない内に空は崖に覆い隠されて、"谷"はいつの間にか"洞窟"に変化していた。それもかなりの大きさのものである。
あまりの大きさに洞窟特有の湿気は感じられず、息苦しさもない。
ただ、暗い。
「んー、行き止まり、かな?」
灯りになる様な物は携帯電話のライトだけだが、それも強い光ではないので先を見通すのは難しい。
希望は洞窟と谷の境目へ戻ると、荷袋から簡易結界を取り出して休む事にした。暗闇を進むのは精神が削られる。疲労感のあるままでは満足に動けないと、今までの修行から理解しているので希望は簡素な食料で腹を満たすとさっさと寝た。
しばらくして気配を感じて目を覚ました希望は、薄く目を開けて辺りを探る。結界に阻まれているせいか視界は悪いが、何かがこちらを窺っているような強い視線を感じた。
気付いていないフリを続行して相手の出方を見ることにしたが、それにしてもしつこいくらいに側にいるように思えて、希望はうっかり気配を探ってしまった。同時に結界も解除されてしまい、果たして希望の目に飛び込んで来たのは巨大な岩の塊につぶらな目が付いている謎の生物(?)であった。
「うわやわああああっ?!!!」
希望の珍妙な叫び声に驚いたのか、その岩塊もドカンドカンともの凄い音を立てながら飛び退く。一定の距離まで互いに離れた所で、互いの様子を窺うとバッチリ目が合ってしまった。
「………………」
「………………」
視線を外したら負けだと何となく思い、希望はその目に力を込める。そして長くも短くもない時間が過ぎ――――目を逸らしたのは、相手の方だった。
勝利を確信した希望はゆっくりと岩塊に近づき、その岩肌に触れる。
「……冷たい……」
しかし、そのゴツゴツした岩肌の下で、間違いなく何かが流れているのを感じた。
「アンタは一体何なの……?」
未知との遭遇の連続でも、この岩塊は極めつけだった。そしてこの出会いが、希望の認識を改める第一歩となる。
とか言いながら、戦闘シーンは割愛です。申し訳ありません。
どちらかというとアイテムの説明回になってますね。