守りたいと思うこころ。
戦闘回…?
流血はありません。
飛び込んできたハァナは、希望を無視して状況を話す。
「今はまだ結界に気づいてないみたいだけど、それも時間の問題かと」
簡単な状況説明だが、隠れている村にとっては一大事な内容に村長の顔色がなくなる。
この分では、またここに放置されてしまうと思った希望は、思考の海に沈もうとしている村長に声をかけた。
「あたし、囮になろうか?」
その言葉にハァナも村長も呆れた視線を返す。
「いや、要はこの村が見つからなければ良いわけでしょ?で、今、外をウロウロしている人達はそもそも何をしにきてるだろね?村を探すため?異常がないかを見回っているだけ?」
「いや、まだ目的までは感知出来ていない」
「この村って、どの位見つかってない?父さん達のことだから物凄く丁寧に隠してあるだろーし、そんじょそこらの結界?とは違うでしょ?多分少なくとも16年間は見つかってないよね?」
希望の指摘どおり、村は作られてから一度も見つかることはなかった。
「じゃあ、何処からともなく現れた不審者が派手に逃げ回れば、見回りの人達もおっかけてくるでしょ。その隙に結界を強化しちゃえば」
ただ、この案は村にもそれなりのリスクはある。希望が派手に逃げ回っている内に強化出来なければ、逆に徹底的に捜索されてやがて村の存在が明らかになるというリスクが。それを隠すのを良しとせず、二人に告げる。
「どうする?」
「……すまんな、お嬢ちゃん。恩に着る」
「了解っ」
村長の判断は早かった。いつまでも悩んでいたらそれこそ見つかる可能性は上がる。希望は手早く荷物を纏めるとそこら中を彷徨く兵士の目を盗み森の中へ進んだ。ちらりと背後を見れば、薄い紗がかかった様な何かが更に重なっていく様子が見えた。結界は無事に強化されたことを確認した希望は、兵士から隠れるように見えるように移動し、わざと木の枝を踏み抜き兵士達の注意を引いた。
ばきっ、と乾いた音に兵士が反応して希望と視線が会う。
「う、うわえああっ!!」
若干わざとらしいかなと思いつつも、希望は村とは反対方向に走った。金髪の小娘が奇声を発しながら全力疾走するという事態に、目が合った兵士は一瞬で立て直し同行していた仲間を呼ぶ。
「待てー!!」
「何者だ貴様ー!!」
「何処から現れたー!!」
次々と声を掛けられるが全てにおいて答えられる内容ではないので、希望は律儀に「無理ー!」と返しておく。
当然ながら兵士達にはそんな言い分が罷り通るわけなく、希望はひたすら逃げ続けた。兵士達を撒くことのないように。
そんな感じで続いていた逃走劇は、希望の思惑とは違う終演を迎えた。
どうも逃げ出した方向が悪かったのか、周囲は森が唐突に途切れて切り立った崖に囲まれた谷になっていた。
希望が異様さに気が付き立ち止まると同時に、追いついてきた彼等が悲鳴を上げる。
訝しむ希望を他所に、兵士達は槍を、剣を、弓矢を放り投げて挙句の果てに身を守る防具一式まで脱ぎ出す。
いきなりの武装解除について行けず呆気に取られていた希望ではあったが、極度に怯える彼等に疑問を持ち、周囲に注意を払う。そうして何かが這い寄ってくるような感覚に思わず飛び退ると、地面からナイフが生えていた。
「さすが異世界、非常識にも程がある」
希望は、今までの日常に於いての非常識を棚に上げて毒づいた。そんな希望を見て、兵士達の顔色は蒼白を通り越して晒された骨と変わらないまでに白くなった。
「非常識はお前だっ!」
「さっさと武器を捨ててこっちに来い!!」
「今ならまだ間に合う!」
兵士達は明らかに怯えている。その事に希望は気付いていたが、自分がそれに従う謂れはないので、一定の距離を保ったまま油断なく地表を動き回るナイフに向かって足元の石を蹴り上げた。
石は一直線にナイフへ飛ぶ。
それなりの力を込めて蹴った石は、弾丸と変わらない速さでナイフに当たる。
はずだった。
ナイフが縦一文字にゆらりと動き飛んできた石を真っ二つにする。それを敵対行動とみなしたナイフは、間髪入れず希望にその刃を向けた。
地表すれすれで飛ぶナイフに反撃の手段を持たない希望は咄嗟に躱すが、ナイフは兵士達も同罪とばかりに速度を落とす事なく彼等に襲い掛かった。
「う、うわああああっ!!?」
「何でっ!?何でこっちに来るんだ?!」
「知るかよおっ?!」
さすが兵士と言うべきなのか、彼等は恐慌状態に陥りながらも襲い来るナイフを避け続けている。ただし彼等は先程、自ら武装解除をしてしまっているので今は完全に丸腰だ。
「……あー、もう!」
飛び交うナイフの技量は中々のものと見切った希望は、兵士達がこの場から立ち去らせる事にした。
「ちょっとアンタら!相談があるんだけど!!」
まずは話し合いで、と希望が声をかけるが兵士達は全く応じてくれそうにない。仕方なく希望は武器を取り出して彼等とナイフの間に入った。
頸を掻っ切ろうとするナイフを弾き、目を突き破ろうとすれば遮り、希望を迂回して兵士達に斬りつけようとした瞬間、希望はその柄を握り締めた。
今まさに斬られようとしていた兵士は、寸前で気絶してしまいそのまま崩れ落ちる。
「アンタら、邪魔だから今の内にどっか行って!」
希望の手から逃れようとナイフは暴れるが、それを許すわけにはいかない。もう二度と自分の目の前で人を死なせない(例外アリ)と思っているので、例え罪人の様に追い回してくれた兵士達と言えど希望には見殺しにするという選択肢は存在しなかった。
「す、すまん!」
「生きていたら、この礼は必ずする!」
兵士達も技量の差を悟って大人しく希望の言うことを聞き、気絶した同僚を担いで森へと引き上げていった。
逃げに徹した兵士達は直に見えなくなる。
「じゃあ、二回戦と洒落込みますか!」
暴れるナイフを何とか放り投げて距離を取れば、その戦意に応えるかのようにナイフは軌道を変えて希望の眉間目掛けて飛来してきた。
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