続・村長の話(両親無双)
無双話と言っても、具体的な戦闘シーンはありません。
あと、少々不快な表現があります。
「次期様に似ている」
村長の言葉に希望は唖然とした。
「そ、村長さん…うちの父さん知ってんの?!」
「次期様は儂の……いや儂等の恩人だ」
「はい?」
村長本人の恩人ではなく、村長を含めた複数の人達の恩人と言われて希望は父が一体何をしたのかと考えたが、直ぐにそれを放棄する。
考えた所で答えは出ないのだと自分の思考力の低さを自覚している希望は、大人しく村長の話を聞くことにした。
「次期様は、己の立場を忘れて儂等を助けて下さった」
村長は遠い目をしながら当時の事を語り出したが、残念ながら希望は話の内容を半分以上が分からなかった。
希望に理解出来たのは、戦争に無理矢理連れて行かれて酷いいじめに合いながらも、その場で逃げる事も自刃する事も出来ず嬲られて、いざと言う時には肉壁として扱われていたところを逃してもらえた上に、匿ってもらえたと事くらいだ。何やら政治的な思惑も見え隠れしていたが、関係図がさっぱりなのだから余計な口出しはしない方が良い。
村長が全てを語り終えた時、希望は父のしでかした事に頭を抱えるしか出来なかった。
「一体何してくれてんだか…!」
コレがバレたら被害者遺族から石を投げられかねないなと、希望は思う。まさか、村長達を逃がすのに本陣を抜け出して、自分達が不利になる可能性もあったというのに1個小隊まるまる潰滅させているとは想像の範囲外だ。
それをするっと平気で嘘の報告で済ませているあたり、潰滅させられた小隊の人望も知れているようなものだったが。
「儂等は、次期様が逃がして下さった後、どうしたら良いのか分からずに、ずっと彷徨っていた」
「何かもう、その先を聞くのが凄く怖いんだけど」
「そうだろうな」
村長がやや意地悪く笑う。もうその顔を見て推して知るべし。
案の定、父親の無双話がこれでもかと続いた上に、途中から母親まで加わり手が付けられない。
誰が想像するだろうか。父は誰にも何も言わずに自陣を離れて、村長達を保護しつつ追手を単独で振り切り、且つ母を見初め、掻っ攫い、三つ巴になった状態から見事に抜け出して村長達を一切表舞台に立たすことなく、彼等の痕跡をキレイに消したなんて。
「姫様も、最初のうちこそ儂等に遠慮していたが3日もすれば慣れてきたんだろうな。儂等にあれこれ指図し始めてこき使い、お陰で毎日夢も見ないで寝る日が続いた」
「ホント何してくれてんだか、あの両親は…!?」
脱走兵である村長達を追う討伐隊、母を取り戻すべく動いている救出隊、忽然と姿を消した後継者である父を捜す捜索隊。次々とやって来る彼等を両親は時には撒き、時には蹴飛ばし、どうしようもない時は―――実力で沈黙させたなんて知りたくもなかった。
「言っておくが、儂はその辺りも含めてお嬢ちゃんは似ていると思ってるがな」
「却下の方向で!」
とは言ってみたものの、自分がその場にいたら間違いなく同じ行動をしていただろうことは、想像に難くない。
結局、自分はあの両親の子供なのだと今更ながら自覚する。
苦悶する希望に村長は再び意地悪く笑う。
「そうして儂等はこの場所に、どうにか腰を落ち着けることが出来た」
辺りの安全を確保し、戦う手段を教え、両親は集落を出たのは、それから3ヶ月ほど後と村長は続けた。
「だから、儂等は次期様達がその後どうされたのかは知らなかった。が、無事であられたことを知ることが出来たのは僥倖以外なにものでもないな」
「あー、そりゃ良かったねー……もうお腹一杯だよあたしは」
「まあ、そう言うな。本当なら二人の御子であられるお嬢ちゃんにはこのまま歓待をさせてもらいたいが、先程言ったとおりこの村は見つかる訳にいかない場所なんでな。ほとぼりが冷めたらまた来てくれんか、儂以外にも次期様に助けられたのはまだまだいるからな」
村長はそう言うと希望を立たせると、すまなさそうに荷袋を渡す。
「ところで村長さん。この中の荷物って何が入ってる?」
「一先ず4日分の食料と、簡易結界石を入れておいた。それと、これを使うといい」
村長が荷袋の他に小さな袋と、ナイフ(先程希望に突き立てた物)。それと用途不明の棒。小袋の中身を確認した希望は、慌ててそれを村長に突き返すが、村長は受け取ることを拒否した。
しばらく受取る受け取らないの押し問答が続くが、結局のところ村を出る希望には必要だと言い負かされて受け取ることにする。
「で、これは何なの?」
長さは目測で20cmといった黒い棒っきれを指して村長に問う希望だったが、その説明を聞いて早速実践してみる。だが、そうあっさりと上手くいくわけもなく、棒っきれは棒っきれのままだった。
「やっぱり無理かー」
棒っきれの名称は術式杖といい、父親が村長に預けていたものだった。魔力に因ってその形状を変える武器ということで希望は嵩張らないからというそれだけの理由で主武器にしようとするが、魔力が何なのか分かっていない状態で使おうとしても当たり前な話、起動するわけがない。
「次期様の物だからお嬢ちゃんにも扱えるかと思ったんだが…やはり無理だったか」
「いやいや、もしかしたら父さんの魔力?がまだ残ってるのかもしんないだけだから!」
魔力の概念がない世界で育ってきた希望には理解が難しい武器であったが、いつか使い熟してくれるとあさっての方向に情熱を燃やす。その熱が伝わったのか村長は苦笑しながら術式杖を荷袋に放り込んだ。
「お嬢ちゃんの言う通り、次期様の魔力が残留している可能性も捨てきれんからな。しばらくお嬢ちゃんに馴染ませる時間が必要だろう」
その他に細々とした注意事項を村長に叩き込まれて、頭が危うくショートしかかったところにハァナが飛び込んできた。
「村長!結界に反応ありです!!」
その言葉に、村長の顔色が変わった。




