序章~世界、そして龍~
誰との会話もない為、長い文章になってしまってますが、一応世界観の説明になっておりますので御容赦願います。
世界は、一般的にひとつしかないと思われている。勿論それは、他の世界を知覚出来ないからだ。だが、中には稀に出来る者もいる。それが俗に言う霊能力者と言われている人間達であるが、彼らも霊的な世界しか知覚出来ない。
世界は、ひとつではない。
ではそれを証明出来るか、という問いに対して出来るのは否である。科学的に証明するには、未だその科学力が足りずにいる。だからこそ、人は空想を糧に進化をすることが出来るのだ。
そして、世界のとある場所には、科学の及ばない世界も構築されていたりする。そこに住まうは、言うなれば神にも等しき存在。数多ある神話を否定する存在だが、それを声高に叫ぶことは禁じられている。
何故なら、意味がないからである。見えない聞こえない触れないものを人に説明するには、やはり科学的に証明されなければならず、その手段がないからには一般的には『は?』で終わりだ。そこで話は止まる。
ならば初めから公表しなければ良い、という方針の元で施設は運営されてきた。
誰にか?という疑問に答えるには、神官の存在を認めることになる。では何れの神に仕える神官か、というとこれまた認知させるのが難しく、仕方なしに非公開となってしまうわけで。
そもそも世界は、ただひとつの意思に因って生まれたと言っても過言ではない。世界に溢れる宗教は、ひとつの意思を神として崇めるか、意思が生み出した数多の生を神格化して崇め、また死を崇める。時には互いを貶めあい、争い、統合される宗教はしばしば権力に押し潰され支配の手段ともされるところから、世界のどこかに構築された場所に住む存在はそれを嫌った。そのために彼らに仕える神官は代々世襲となる。誰が神官長を勤めているかは当然ながら秘中の秘だ。
今、意思は永い眠りについている。生死と遊ぶだけ遊んだあと、唐突にするりと眠りについた。その後が大混乱である。ぬるま湯の中で揺蕩っていた生も死も、いきなり冷たい水の中に叩き込まれた様なものだ。しかも当の意思は周りがいくら騒ごうが夢の中で、一向に目覚める様子はない。世界の全てが荒れに荒れて、生と死は見る間に仲違いをし、その袂を分かつ。だが、争いがなくなることはなかった。互いの溝は時が経つほど深まり、終には相容れなくなるところまでになってしまった。
その頃からか、双方から妙なものが生まれた。生のような死のような、言わばどちらとも言い難いものが。
生から生まれた妙なものは、蛇の尾と鳥の翼と魚の鱗を持つもの。
死から生まれた妙なものは、首〜腕の付け根〜腰〜尾の各部分の長さが等しく、角は鹿、頭は駱駝、眼は鬼(幽霊)、胴体は蛇、腹は蜃、背中の鱗は魚、爪は鷹、掌は虎、耳は牛に似たもの。
それらは、生も死も隔てることなく滅していった。双方がある程度落ち着くとそれらも蠢くことはなく大人しくしていたが、争いが起こると即座に顕れて双方を等しく打ち据えた。そうしていつの頃からか、それらは己らを生み出した意思の、怒りの具現であると双方は言い出した。
この頃から、生も死も自我が芽生えはじめ、自分等が何であるかを自覚しはじめるようになった影響で種族の細分化が始まり、それに応じて単一だった世界も分かたれた。
生と死の争いは、一先ず沈静化された。
しかし困った問題も発生した。怒りの具現として顕れたとされるものは、各世界へ散ってしまったからだ。最早、いち種族とも言えるほどの個体数だったそれは、見事に各地へ一体のみ、その存在を確固たるものとした。
いつしか、それらは"竜"または"龍"と呼ばれる様になった。
漢字とルビが大好きです。
ファラク…イスラームの神話から。下方世界にいる蛇で口の中に六つの冥府がある。
クリカラ…倶利伽羅竜王のこと。不動明王の変化身のひとつ。
出典は幻想世界神話辞典の竜の神話です。