新しき世界@幼馴染み
次の日、俺は父に呼び出された。
彼の名はガウス。
元凄腕の冒険者だった、らしい。
俺がガウスの部屋に入るや否や、彼は呆れたような顔で、こう言った。
「フェリオス、お前は1日中本読んで、外で遊ばんのか?というかお前が外に出たところを見たことがないんだが」
確かに、俺くらいの年の子は外で走り回るものだろう。
だが、
「父さん、外には魔物がいるでしょう?」
そう、魔物だ。
この世界の死因ナンバー1は魔物によるものなのだ。
なぜわざわざそんなところにいかなければいけないのか。
ガウスは何やら考え込む。
俺を外に出す方法でも考えているのか?
一応、護衛が五人くらいいれば出てもいいのだが。
……あ、駄目だ。
護衛が裏切る可能性が0じゃない。
ふと、ガウスは何かを思い付いたような仕草をする。
「フェリオス、お前、確か魔法を使いたいんだよな?」
「?…えぇ、まぁ」
ファンタジーは害悪だといったが、相手がそれを使うのなら、それに対抗できるだけの力は欲しい。
けど、何でいきなりそんなことを聞くんだろう?
「じゃあ、魔法学校行ってこい」
魔法学校――文字通り、魔法を習う学校だ。
しかし…
「いいのですか?学校は高いのでしょう」
もちろん、行かせてもらうのは嬉しいが、そのために危ない金に手を出されたら困る。
ガウスはその言葉に苦笑しながら言った。
「言っただろ?俺は元凄腕の冒険者だったって。貯えはかなりある」
……え、あれ本当だったの?
てっきり冗談かと思ってたんだけど。
俺は改めてガウスを見る。
背は高め。
肉付きはいいが、それも普通並みだ。
恐らく“少し鍛えた程度の高校生”と同じくらい。
え、本当に凄腕の冒険者?
ガウスは俺の思考を読んだのか、
「おい、言いたいことがあるなら聞こうじゃないか」
「イエ、ナンデモ」
「……まぁいい。そうだ、学校は十二歳からしか入れんからそれまでは……まぁ、出来るだけ外に出るんだぞ」
「えぇ。“出来るだけ”外に出るようにします」
「…何故出来るだけを強調したかは気になるが、言っても聞かんだろうから触れないでおこう」
流石父さん、よくわかってらっしゃる。
その後、しばらくガウスと喋り、俺は自分の部屋に戻っていった。
6年後、楽しみだな
◆◆◆
俺が黙々と本を読んでいると、部屋の扉がノックされた。
「フェリオスー、お前の友達が来てるぞー」
……は?
友達?
いるわけないじゃん。
ずっと引きこもって外に出たことないんだし。
何?皮肉?
俺は当然無視しようとしたが、はやくしろーずっと家の前でまってるぞーと、言ってくる。
もしかして本当に誰か来てる?
俺はしぶしぶ部屋から出ていく。
そして玄関の戸を開けると、そこには俺より少し背の低い女の子が立っていた。
「……どちら様ですか?」
「あ、えと、私はテト…です。隣の家に住んでるんだけど…ですけど」
どうやら俺が敬語で尋ねたから合わせてくれたらしい。
……使えてないが。
それにしても隣の家の子か。
ハハッ、この6年間見かけたこともないや。
「そうですか、それはどうも。俺はフェリオスといいます…何か用でも?」
「…えーと…フェリオス君と会ったこと無いから挨拶しようかと思って…思いまして」
「はぁ、それはどうも。……家、上がります?」
わざわざ来てくれたんだし、お茶くらいは出そうかな。
「あ、いいの?…ですか?」
「えぇ。あと、無理に敬語使わなくていいですよ」
「あぅ…うん、わかった」
俺はテトを部屋に案内する。
「わぁ、本がいっぱいあるね。これ、全部読んだの?」
おぅ…グイグイ来るな。
「まぁ、そうですね」
「あ、フェリオス君も敬語、いいよ?」
「ん?そうか?」
俺的には初対面の人にタメ口とか嫌なのだが……まぁ、いいか。
俺は部屋を出て、お茶とお菓子を取りに行く。
途中、ガウスがとてもニヤニヤしていたので、“止めさせた”。
別に部屋に連れ込んだのに変な意味は無いさ。
部屋に戻ると、テトは俺の本棚の本を眺めていた。
「テト、お茶入れてきたぞ」
「え?あぁ、ありがとう」
かなり本を眺めるのに集中していたのか、声をかけると少し驚いた反応を見せる。
「本、好きなのか?」
「う、うん」
テトは顔をやや赤らめて答える。
……おい、どこに顔を赤らめる要素があった?
「フェリオス君はここにある本、全部読んだの?」
「ん?あぁ、もちろん」
「へぇ、すごいね。…これ、読んでもいい?」
テトが手に取った本は【天魔大戦】
天軍と悪魔軍の200年にわたる大戦をえがいたものだ。
ページ数は驚きの37920。
これがさらに6冊もある。
読むのにすごく時間がかかった…。
「おう、いいぞ」
もちろん俺はそれを許可する。
テトはその場で本を開き、読み始めた。
「あ、椅子いるか?」
しかし、テトはその問いに答えなかった。
どうやらすでに本の世界に入り込んでしまっているようだ。
俺も先ほど読んでいた本を手に取り、再び読み始めた。
◆◆◆
本を読み終わり、顔をあげると、外はもう暗くなっていた。
テトはいまだに本を読み続けている。
そろそろ帰らせないとマズいかな。
本を読んでいる人の邪魔はしたくないし、されたくもないが、仕方ない。
俺はテトの肩をトントンと叩く。
「…………へ?あ、どうしたの?」
「もう夜だぞ。帰らなくていいのか?」
「え?…あ、ほんとだ。もう帰らないと。えと…今日はありがとね」
テトは残念そうに読みかけの本を棚に戻す。
「あ、その本持っていっていいぞ」
「え?いいの?」
「あぁ。家隣だし、すぐに返しにこれるだろ」
「うん、ありがと」
テトは表情を一変。
とても嬉しそうに本を抱え、帰っていった。
テトが帰ると部屋は静まり返る。
そのせいか、フェリオスの独り言はやけに響いた。
「……印象よく演じられたかな?」