プロローグ@前世のキオク
トスッ…
そんな軽い音をたてて、俺の腹に銀色に輝くナイフが深々と突き刺さる。
そして次の瞬間強烈な痛みが俺を襲う。
「あぐッ……あ…」
俺を刺した者はナイフを引き抜き、慌てて逃げ出す。
「ぐッ…」
ナイフを引き抜かれた反動で真っ赤な鮮血が勢いよく吹き出る。
俺は人のいるところに移動しようとするが、血が足りないのか数歩、歩いたところで力尽きその場でドサリと倒れこむ。
「あ……あぁ…」
指さえピクリとも動かない。
ただ呆然と、広がっていく血溜まりを眺めることしか出来ない。
次第に体の温度が下がっていくのを感じる。
痛い、寒い、恐い。
まだ、死にたくない。
イヤだ、イヤだ。
死にたく、ない。
しかし世界は無情だ。
彼の願いが叶えられることは無かった。
遂に視界がぼやけていく。
…俺、死ぬのか。
唯一の救いと言えば、神経が遮断されたのか、痛みを感じなくなった事だろうか。
もう痛みはない。
しかし、恐い。
死ぬのが、恐い。
死んだらどうなるのか、生まれ変わりは有るのか、それとも……
ただ、何もないのか。
世界に何を残すわけでもなく、ただ死に、消えていくのか。
そんなのはイヤだ。
死にたくない、死にたくない、死にたくない………イヤ、だ…
彼は自分を刺した男を、あまりに貧弱な人間を、そしてそれらを作り出した世界を、憎み、呪い、絶望しながら命の綱を手放した。