永遠に、共に。
むかしむかし。
ある所に、魔法使いの女の子がいました。
女の子はとても強い魔法が使えるのですが、一つだけ大きな弱点がありました。
呪文が、とても長いのです。
戦いになると、呪文をずっと唱えていることはできません。
相手が邪魔をするからです。
そこで女の子はひらめきました。
「そうだ。魔法が完成するまで守ってもらえばいいんだ」
けれども人を守りながら戦うのは簡単ではありません。
だから女の子は、召喚魔法を使うことにしました。
別の世界からナニカを呼び出して、様々な能力を与えることができる魔法です。
女の子は、呼び出すナニカに与える能力をすぐに決めました。
死なないこと。病気にならないこと。怪我もすぐに治って、歳もとらないこと。
そんな能力に決めて、召喚魔法を使いました。
するとなんと。
現れたのは男の子でした。
「あなた、名前はなんていうの?」
「僕かい? 僕はカイトって言うんだ」
それからカイトは女の子と一緒に魔王を倒す旅を始めました。
旅のあいだ、二人は何回も魔王の手下と戦いにました。
たくさんいる魔王の手下を前に、カイトは一生懸命に女の子を守りました。
戦ってボロボロになるのは、いつもカイトだけです。
カイトに守られながら魔法を使う女の子は、一度も怪我をしたことがありませんでした。
そんなある日のことです。
「もう限界だ! なんで僕がキミを守らなきゃいけないんだよ! 怪我はしないし死なないけど、痛みはあるんだよ!?」
女の子は、カイトに痛みを感じなくなる能力をつけ忘れていました。
カイトは今までずっと我慢していたのです。
痛いのも、苦しいのも……。
何回も繰り返していて、とうとう我慢できなくなったのでした。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
女の子は、カイトにたくさん謝りました。
いつも痛い思いをさせてごめんなさい。
家族と離れ離れにさせてごめんなさい。
本当は嫌なのに戦わせてごめんなさい。
泣きながら謝る女の子を見て、カイトはだんだん悪いことをした気持ちになりました。
「……僕の方こそごめんね。でも、僕が痛い思いをしてるってことは忘れないで」
こうして仲直りをした二人は、また旅を続けました。
だけど女の子の戦い方はいつもと変わりません。
カイトが魔王の手下を近づけないようにして、そのあいだに呪文を唱える。
呪文が唱え終わったら、強い魔法で魔王の手下をやっつける。
やっぱりカイトはいつもボロボロになっていました。
「キミが可愛くなかったら、絶対守ってなんかあげてない」
戦いのあと、カイトはいつもそう言います。
そうしてついに魔王のお城にたどり着きました。
「まだなの?!」
魔王の攻撃をぜんぶ受け止めながら、カイトは女の子に言いました。
カイトはたくさんの血を流しました。
カイトはたくさんの痛い思いをしました。
それでも、魔王を倒せる魔法を完成させるには、まだ時間がかかります。
カイトは頑張りました。
女の子が痛い思いをしないように、痛いのも我慢して守り続けました。
そしてようやく完成した魔法で、魔王をやっつけることができました。
「カイト。今までありがとう。魔王をやっつけたから、カイトは元の世界に帰れるよ?」
女の子は、泣きそうになりながらカイトに聞きました。
旅をしているあいだに、カイトのことが好きになっていました。
そんな大好きなカイトとお別れするのが、とても悲しかったのです。
カイトはずっと帰りたいと言っていました。
だから女の子は、カイトが帰ってしまうと思っていました。
「……僕、この世界に、とても好きな人がいるんだ」
カイトはこの世界に友だちもいません。
ずっと、女の子と二人で旅をしていたからです。
だからカイトの好きな人は、女の子いがいにはいませんでした。
「キミが好きだ。だから、帰らない」
女の子は、今度は嬉しくって泣いてしまいました。
「カイトは歳をとらないから、私だけおばあちゃんになっちゃうんだよ?」
女の子が言いました。
「それでもキミが好きだ」
魔王をやっつけたその日。
二人は永遠の愛を誓いました。
そして幸せに暮らしましたとさ。
◆
「……おしまい」
話を終えて、彼女はシワだらけの手で本を閉じた。
すると膝に乗っている子供は嬉しそうに笑い、もう一回とせがんだ。
「あらあら。本当にこのお話が好きなのねぇ」
老婆は孫の頭を撫でながら、優しく微笑む。
「うん。だって、このお話を読んでる時のおばあちゃん、とっても楽しそうなんだもん!」
もう一回を何度もせがむ孫の頭に、隣から少年の手が伸びてきた。
「ダメだぞ、ソラ。おばあちゃんが疲れちゃうだろ? お話は、また明日にしような?」
「うん、わかったー!」
笑顔で頷いたソラは、二人を残して外へと駆けて行った。
その背を見送り、老婆が目を細める。
遠い過去を、思い返していた。
「ねえ、カイト。私、おばあちゃんになっちゃったけど、どうしてずっと隣にいてくれるの?」
老婆が隣の少年に問う。
すると彼は迷うことなく言った。
「キミが好きだからだよ。ずっと、いつまでも」