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幸せが壊れた日

ジンと結婚してもうすぐ一年。

ついこの間誕生日を迎え十六歳になった私達は、幸せな日々を送っていた。


「ジン、これテーブルに運んでくれる?」

「了解奥さん」


結婚してからジンは、私のことを奥さんと呼ぶようになった。

なんとなく照れくさいような、嬉しいような。そんな気分にさせられる。

ドキドキさせられっぱなしは悔しいので、私も時々ジンを貴方と呼んでいる。

それを聞いたジンが頬を赤くしてはにかんだように笑うのがとても可愛いのだが・・・・・・。

ゲフンゲフン。

とまあ、こんな感じでちょっと(・・・・)甘い結婚生活を過ごしているのだ。


「そういえば三日前また魔物が出たらしい」

「また?最近ほんとに多いね。どこで出たの?」

「山の向こうのタタ村だって」

「タタ村!?すぐそこじゃない!・・・魔王が復活したって噂、信憑性が高くなってない?」


夕食時は互いに持っている情報、もとい噂話の共有に使っている。最近多いのはやはりこの頃活発化してきた魔物についてだろうか。

ジンはこの辺りで貴重な魔物を倒せる若者だからか、自然とそういう情報が多く集まる。

私はレイピアを少しと魔物達を阻む結界魔法を人よりも良く使えるだけで、実戦にはあまり向いてない。というか、ジンにさせてもらえない。


「まあ、そろそろ国の騎士団が対策立てるんじゃないか?魔王が現れたんだとしても、討伐隊が組まれるさ」

「お兄ちゃんも参加するのかなぁ・・・・・・」


私の七つ歳上の兄は騎士になることに憧れていたので、結婚してすぐに王都に向かったのだ。剣の腕前を買われて無事入団試験を通過した旨の手紙が二年程前に届いている。

貴族ではないため、最前線に立たされる可能性が高い。兄は決して弱いわけではないが、不安が胸に広がる。

それが顔に出ていたのか、ジンが私の頭を撫でた。


「義兄さんならきっと大丈夫だよ。そんな不安そうにしてやるな」

「・・・うん」


私のことなら何でもお見通しのジンは、ときどき私よりも私のことを理解している。

ジンの大きくて温かい手のひらが、私の不安をほぐしていく。


「今日は早めに休むか!」


ニカッと笑いながらそういった彼に私はこくりと頷いた。



それから一月程して。

相変わらずと言っていいほど減らない魔物被害がありながら、それでも温もりのある幸せな生活をしていた私達。

いつも通り狩りに行くジンを見送り、家事をしていたときにその人達は来た。強い胸騒ぎと共に。







「私達は神の託宣を受け、この村にやって来ました。神官のディールと、王国騎士の皆さんです。早速ですが、この村にジン様という方がいらっしゃいますよね」


もうすぐお昼時というところに現れたその人達は、この辺りではほとんど目にすることの無い良質な服を着ていた。

身にまとっている雰囲気からして貴族階級だとわかる彼らに、皆が訝しむような目を向ける。

それを感じ取ったように、ディールと名乗る神官は人好きのする笑みを浮かべて言った。


「この度魔王討伐の勇者として、神がジン様を選ばれました。つきましてはジン様には私達と共に、王都にご同行頂きたく存じます」


それを聞いた村の皆は、納得したような表情をする。あれだけの才能を持っているのだからそれもあるだろうと。やはり只者ではなかったのだと。

私はとうとうその日が来てしまったのかと、ただ呆然とするだけだった。


「ゾーイ?皆?揃って家の外にいて、どうしたの?って、え!?」


不意に聞こえてきたジンの声。

そちらを向くと、余程情けない顔をしていたのかジンが駆け寄ってくる。


どうもしてないよ。


そう言おうとして口を開くが、零れ出たのは嗚咽だった。

涙が頬を伝って地面に染みをつくっていく。止まりそうにないそれを、私は拭うことはせずただジンを見つめた。


「ゾーイ?こいつらに何かされたの?そうならオレ・・・」

「ち、違うのっ・・・私が勝手に泣いてるだけだから・・・・・・っ」

「じゃあこいつらは一体なにしにここにいるんだ?」


ジンは近くに来ると私を抱き寄せて涙を拭ってくれる。そして警戒の色を隠そうともせず、神官達の方を見た。


「私は神官のディーンと申します。神の託宣を受けて、此度の勇者であるジン様をお迎えに参りました。私と騎士達と一緒に、まずは王都までご同行願います」







ジンは明日の朝、村を出発することになった。

今回の『お呼び出し』は王命であるが故に、従うほかなかったのだ。

ジンは私と一緒にいたいと抗議をした。しかし、神官はそれを許さずにしつこく説得をした。

結局、私や村の皆のことを持ち出されたジンが折れた。


「出来るだけ早く終わらせて帰ってくる。だから、オレのことを待ってて欲しい」


真っ直ぐに見つめてくる強い意志のこもった目。

私がこの目に弱いってこと、知ってるのかしら。そんなふうに見つめられたら、私は頷くしかないのに。


「・・・絶対、絶対に無事に帰ってきて。ジンが傷つくなんて許さないから」

「勿論だよ。愛してるよゾーイ」


そう言って顔のあちこちにキスの雨を降らせてくる。いつもなら人前は恥ずかしいって拒否するけど、今日だけは何も言わずに受け入れた。

ジンの実力を疑っている訳ではないけど、道中何があるかわからないから。

私は彼が五体満足で帰ってくるのを、祈ることしかできないから。



だから笑う。



「いってらっしゃい、貴方」



ジンの記憶に残る私が綺麗でいれるように精一杯。

私が彼の足でまといにならないように心配を断ち切って。









そうして私達の幸せは終わりを告げた。

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