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幼き日

拙い文章ですがよろしくお願いします<(_ _)> 

バッカじゃないの。



周りが歓喜の声を挙げる中、私は一人、自嘲気味に笑った。














幼馴染みがその才能の片鱗を見せ始めたのは、私達が十歳の頃だった。

二人で村の近くにある森に出掛けた時のこと。


「ゾーイ、こっちに熟れたリンの実が成ってるぜ!」

「分かったから急かさないでよ、ジン」


ジンという名の彼は、時々声に甘い響きを含ませ私の名前を呼ぶ。それが私の胸を痛いくらいに高鳴らせるのだが、彼は気付いているだろうか。もし気付かれているのなら恥ずかしさで死ねるが。

そんなジンとの日課である木の実集めに、私はかなり気合いを入れて来ている。髪型も服も、動き回るのに邪魔にならないようシンプルに、しかし可愛く見られるために細心の注意を払っている。


「ちゃんと受け取れよゾーイ!」

「え、ちょ、ジン待っ‥‥」


木の上にするすると登ったジンは、早速目当てのリンの実を投げて寄越した。

危うく落としそうになったそれを慌ててキャッチする。

落としたらどうするの。

文句を言ってやろうと、木から降りてきたジンに視線をやった。

そして、思わず固まる。


「ジ、ジン、後ろ‥‥っ」


震える声で必死に紡いだ私の言葉を聞き、ジンは後ろを振り返った。

その先にいたのは、ギラギラした目をこちらに向ける、狼の姿をかたどった魔物。

この辺りにはまだ出てきたことなんてないのに、どうして!?大した武器も持ってないのに、逃げられない!

恐怖より先に、焦りが私を支配していく。

私とジンは村に住んでいる元騎士のおじさんから、もしもの時のために剣を習っていた。しかし、肝心の武器が無いのではそれも役に立たない。

そんなことを考えているうちに、魔物は獲物の標的をジンに定めた。


「ジン、逃げて!」


私は思わず叫んだが、ジンは逃げようとはせずに魔物と向かい合った。

ベルトに差していた刃渡り二十センチほどの短剣を手に持って。



ジンは、魔物と戦う気だ。



そう気付いた時には既に、ジンは地を蹴っていた。

ーーーーガッ!

ジンの持つ短剣が的確に首筋を狙う。しかし相手は魔物。普通の狼だったら仕留めていそうだが、魔物特有の身体能力をもって避けられた。

その瞬間、魔物の牙がジンの腕を掠める。二の腕が傷付き、服に血が滲んでいく。


「ジン‥‥‥っ!」


私は悲鳴に近い声でジンを呼んだ。じわりと視界が歪んでいく。

けれどジンはそんなことなどお構いなしに、再び魔物に向かっていく。


「ワンコロ風情が、俺の(・・)ゾーイ怖がらせてんじゃねーよ!!」


さっきと同じく首筋を狙った短剣は、今度こそ魔物に深々と突き刺さった。



いくら鍛練を積んでも、子供では魔物を倒すことはできない。



それは、今のこの時世なら誰もが知っていることだ。魔王を名乗る者が現れてからというもの、魔物が強くなっているから尚更のことである。

なのにどうしてそんな魔物を一撃で、まだ子供であるジンが仕留められるのか。

困惑した頭で考える。


本当は気付いていた。

ジンが良い意味で普通じゃないことを。そこら辺にいる傭兵や冒険者より腕がたつことを。


けれどそれを認めてしまったら。誰かに知られてしまったら。




私はきっと‥‥‥‥彼の傍には居られない。









「バッカじゃないの!?」


あの後すぐ家に帰り、私はジンの傷の手当てをした。

思っていたより傷は浅く、出血もそれほど多くなくてホッとする。と同時に怒りが湧き上がってきた。

それであの発言に至る。


「今回は一頭だけだったから何とかなったのかもしれないけど、複数で襲われてたらどうする気だったの!?逃げようともしないで飛び掛かっていって!挙げ句に怪我までして!!」

「ゾーイを護るためだ、仕方ないだろ?」


ジンの言葉で顔が熱くなる。照れもせずに言ったジンの余裕綽々な様子に腹が立った。


「なっ‥‥‥‥私なんか置いて逃げたら良かったでしょう!」


だからだろうか、そんなことを言ってしまったのは。

私の言葉を聞いたジンは眉間にシワを寄せ、ぐっと拳を握った。


「んなこと、できるわけ無いだろ!!」


急に大声を出され、私は無意識に肩を揺らした。


「俺の一番大事な奴ヤツが、目の前で怯えてるのに‥‥‥‥‥護る以外に、何を選べっていうんだよ!!」


それは冗談なの?

聞こうとして、止めた。

だって本当だよって訴えてくる。

ジンの、



私を見つめる目が、



頬に触れてくる手が、



熱いくらいの感情を伝えている。



俯いて赤くなった顔を隠す。しかし頬に添えられたままだったジンの手によって、すぐに上を向かされてしまった。


「は、離してよ‥‥‥」

「嫌だ」


弱々しい声しか出てこない。それもジンが即答したことで意味を成さない。

合わせられる視線が堪らなく嬉しくて、再び目に涙が滲んだ。








ああ、もう、本当に、貴方って人は······

















「········護ってくれて、ありがとう」

お読みいただき有難うございます!

誤字脱字等ありましたら、報告頂けると嬉しいです。

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