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あ~る珈琲 -バイト店員渡辺くんの日常  作者: 青色LED
第二章 渡辺くん恋愛事情
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告白周知

「あ、」

 翌日の大学構内。僕は昨日の二人からのアドバイスを元に、どうやって溝口さんに話しかけようかと思案していた。すると誰かが近付いて来た気配があり、顔を上げると水沢さんだった。

「こんにちは、渡辺くん。ここ座ってもいい? 」

「別に誰か居るわけじゃないからいいんじゃないかな」

 水沢さんは控えめに僕の隣の椅子を倒してそこに腰掛ける。昨日は確か、数学概論のノートを貸したはずだが、次の授業は基礎製図だったはず。実は意外と同じ科目を履修していたのかも知れない。


「昨日はどうもありがとう。とっても助かりました」ペコリと頭を下げる。

「そんなの気にしないでいいよ。でもそうだ、今日同じ授業って分かってたら、わざわざ店まで持って来てくれなくても良かったのに」

 僕は気付いていなかったけど、きっと水沢さんは知ってたんじゃないかな。同じ講義取ってるって事。まぁ僕としてはどちらでも構わないのだが。

「ご、ごめんなさい。迷惑だった? 」

 焦った様子で謝る水沢さん。少し上目使いで窺うのは、意識してやってるんじゃないと思うけど、男受けしそうだ。実際水沢さんが僕に声を掛けて来た時、数人の男子学生から嫉妬らしき視線が飛んで来た気がする。

 いやごめん、違うんです。そんな色気ある話じゃなくて、ただ勉強の話してるだけだから。そんな僕の言い訳じみた思いは相手に伝わるはずもなく、周囲からの視線が痛い……。そんな僕の焦りを他所に、水沢さんは嬉しそうに話し続ける。

「そんな事ないよ。水沢さんみたいな可愛い子が来てくれると、嬉しいよ。良かったらまた来てね」

 水沢さんは僕の言葉を受け、耳まで真っ赤になってしまった。そうか、溝口さんにもこうやって言えばいいんだな。店長たちが言っていた言葉を、奇しくも実践した事になる。別の相手だけども。


 赤くなった頬を片手で抑え、話しを変えるようにテキストを指し示す水沢さん。

「製図のこのページって、次回までにレポートまとめなきゃいけないじゃないですか。どこから手を付けようかと思って困ってるんですよ」

 水沢さんが示したページを見ると、確かにそういう課題があった事を思い出す。

「僕もまだそれはやってないんだよ。やらなきゃとは思うんだけどさ」

「じゃ、じゃあ、一緒にやらない? 」

 そんな一世一代の決意をするかのように、言うほどの事でもないと思うが。水沢さんの様子に気押された感はあるが、了解の返事をしようとして一瞬固まる。

 いや、ちょっと待て。デザイン科の学生である溝口さんもこの講義を取ってるんじゃないか? と今更ながらに思い至る。いつも講義の際は最前列に陣取って、聞き洩らすまいとノートを取っているので今まで気付かなかったが(単に授業時間中に内容を消化しなければ、帰宅してから勉強しなおす時間がないからなのだが)、その可能性は十分にある。

 もう溝口さんは終えているかも知れないし、友達と一緒にやる予定なのかもしれないが、それならそれで話題の糸口にはなるはずだ。改めて講堂の中を見渡してみると、中ほどの椅子に友達と座っている溝口さんを発見した。やっぱりだ!


「ごめん、僕予定があるからまた今度。ほんと昨日はありがとね」

 水沢さんにそう伝えてから、講義のノートを抱えて溝口さんの居る辺りに席を移動する。溝口さんは元から同じ講義を取っていたのに気付いていたのかも知れないが、僕が近付いて行くと若干強張った表情になった。昨日の事を気にしているのかな。

 一緒に座っていたのはいつも溝口さんと行動している友達で、昨日手伝ってくれた子も居た。

「溝口さん、皆さんも昨日はありがとう。ほんと助かりました」

 溝口さんの顔を見ると、やっぱり頬が緩んでしまう。相手がどう思っていようが好きな子が近くに居るだけで嬉しくなってしまうものだ。知らず知らずのうちに、溝口さんの顔をロックオンしていたらしく、友達の伊藤さん(だったと思う)が苦笑している。


「こちらこそ、昨日はごちそうさま。ああいうお手伝いならいつでも声かけてよ。喜んで行くからさ」

「うんうん、わたしも。ありがとね。でも渡辺くんも隅に置けないわね、いい雰囲気だったじゃない」

 伊藤さんともう一人の友達の前山さんが挨拶を返す。にやりと笑う前山さんの目線の先には、何故か悄然と項垂れる水沢さんが居た。

 もしかして隣に座っていた水沢さんの事を誤解されたのかも知れない。僕は慌てて弁解をする。

「そんなんじゃないよ! たまたま隣に座っただけだから。会ったのも昨日が初めてだったし」

「ほんと~? とてもそんな風には見えなかったわよ」面白そうにからかう前山さん。

「ほんとだよ! 僕が好きなのは溝口さんだし! 」

 はっと我に返ったがもう遅い。授業前の雑然とした雰囲気の周囲が鎮まっていた。少し興奮気味だった為か、いつもより大きい声が出てしまい、講堂内の半数ぐらいの人間には聞こえてしまったようだ。

 溝口さんに目をやると、顔を真っ赤にして驚愕の表情を浮かべている。こんな状況だというのに僕は他人事みたいに、やっぱり溝口さんはどんな顔しても可愛いなとか、この後何を話せばいいだろうとか、そういう事を考えていた。


 講堂内にざわざわとした囁きが先ほどまでとは違う雰囲気で伝播し始めた頃、教授が教壇にやって来た。授業準備を始めた他の面々に紛れ、僕は開き直ってそのまま溝口さんの隣に席を陣取ってテキストを取り出した。

まさかの公開告白をしてしまいました。渡辺くんは、やる時はやる子ですb

店長とあ~る君が草葉の陰から見守ってるからね!

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