森ガール
溝口さんの友達は、みんなデザイン科の人だそうだ。今日は四限目が実技って事で、ディスプレイの見学にそれぞれ写真を撮って来たりするとか。なのでこちらからの要請は渡りに船という面もある。
みんなと分かれてから、溝口さんに改めてお礼を言う。
「今日はほんとにありがとう。すごく助かるよ。やっぱりこういうのは人海戦術が一番だからね。それに、僕一人の評価じゃなくて色んな人の評価ってとこもいいと思う」
「ううん、いいのよ。気にしないで。私達もちょうど授業の役に立つし、飲食代持ってくれるんだからほんとはもっと来たいって言われたのよ。いいかげんそうなヤツはお断りだけどね」
そう言ってウインクする。う~ん、ほんと可愛い。
「そうだ、さっき泉さんに会ったんだよ。ちょうど溝口さんたちが来る前に帰っちゃったんだけどさ。サークルの合宿の事聞いたよ。溝口さんも行くの? 前にも行った事ある? 」
先ほど聞いたばかりの情報を、次の授業へ移動しながら確認する。
「ゆう兄来てたんだね。家にも遊びに行くから、私もこないだ聞いたとこだよ。合宿は毎年行ってるんだけど、行先は毎回違うんだ。去年は海に行ったの。すっごい面白かったから、今年ももちろん行くよ! 渡辺くんも行こうよ! 」
そう言って僕の左腕に腕を絡めて、小首を傾げながら顔を見上げて来る。こんな事されて喜ばない男が居るか? ここしばらく一緒に行動する事が増えたので分かって来たのだが、溝口さんは天然の小悪魔だ。警戒心も無ければ、作為もない。平気で男心を翻弄して来るというのに、本人に自覚は全くない。こんなんで悪い男に騙されたりしないのだろうか? 余計な心配までしてしまう。もちろん僕が見える範囲では絶対に守りたいと思うが、残念ながら僕のものではないのだから、それ以上干渉する事も出来ない。
きっと泉さんも僕と似たような心配をずっとして来ているのだろうな、とふと思った。
店の事があるからまずは店長に聞いてから返事すると伝え、溝口さんとはそこで分かれる。三限目の講義に向かう途中、ふと誰かの視線を感じて振り返ると、女の子が僕を見ていた。少し栗色がかった髪を編み込みにして片側に垂らし、ナチュラルカラーで柔らかそうな長いワンピースの上に、生成りのカーディガンを掛けていて大人しそうな雰囲気だ。確かこの子は、話した事はないけど同じ講義で何度か見かけた事がある。何か用事があるのだろうか?
「これから講義行くとこ? 確か同じ講義だったよね。ごめん、名前何だったっけ? 」
そう声を掛けると、若干焦ったような感じで顔を赤らめ、講義テキストを胸に抱える。
「あ、あのっ! 美和です。水沢美和って言います。数学概論のノート、取れなくて、渡辺くん取ってたら貸してもらえないかと思って……」
今日の二限目が数学概論だった。一応毎回真面目にノートは取ってたはずだ。
「あんまり上手い字じゃないから読みにくいかも知れないけどいいかな? 」
僕は鞄からノートを探し、差し出す。水沢さんはそのノートを受け取り、ありがとうございます! と、ぺこりと頭を下げた。
「あの、写させてもらったらすぐ返すから、ほんとに助かります。数学って苦手で、ちょっとでも飛ばすとほんとわかんなくなっちゃって……」
うんうん、僕もその気持ちは痛いほど分かるよ。今までは五十嵐が居たから何とかなったが、遠く離れてしまった今となっては、自分で頑張るしかないのである。
「そうだよな~。僕も苦手でさぁ、毎回ついてくのにやっとなんだよ」
「ですよね! そ、それで、あの、渡す時の為に、良かったら連絡先教えてくれませんか? ……迷惑じゃなければなんですけど」
心配そうにちょっと俯きながら僕の方を窺う。
「うんいいよ。スマホならこれで」どうぞ、とQRコードを表示させて連絡先を教える。僕のスマホはアイフォンなので、赤外線で連絡先交換とかの機能はないからな。その場で登録した水沢さんが、テストの為に僕の電話を鳴らす。
「これが私の番号です。後でメールも送りますね。良かったら登録しといて下さい」
そう言って再びぺこりと頭を下げ、小走りに去って行った。溝口さんとは対極の慎ましさだな。でもそうか、どこかの講義で一緒だったと思ったが、数学概論だったか。同じ学部ならもっと接点があるからさすがに覚えていると思うが、他学部なんだろう。水沢さんはよく僕の名前覚えてたな。きっともの覚えがいいんだろうな。
僕は次の講義が行われる、構造力学の教室へと歩を進めた。
森ガール登場です。女の子が出て来るとリア充っぽくなりますね。
渡辺くんは十分リア充だと思いますが。




