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あ~る珈琲 -バイト店員渡辺くんの日常  作者: 渡辺くん
第二章 渡辺くん恋愛事情
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ドキドキデッサン室

 デッサンの授業が二コマあり、そこで溝口理恵に会った。

 あれから溝口とは時々授業が一緒になり、話す回数も増えて行った。入学式の日に加入する事となったサークル『時を切り取る』(要は写真部だ)には、なんのかんのと理由を付けてほとんど顔を出していない。彼女はそちらに力を入れているようで、度々誘いに来る。嬉しいのだが嬉しくない。矛盾しているが、やはり素直には喜べないのである。


「おはよう、渡辺くん。今日は朝からデッサンだね」

「うん。朝から大変だよね。気が重いよ…… 」

「えっっ! もしかしてデッサン苦手? 私は結構好きなんだけど」

「そうなんだ。僕はむしろ、必修じゃなかったら絶対取ってないと思うよ」

 どうも溝口はデザイン科の方だったらしく、デッサンは得意のようだ。何を描いても上手くいかず、どこかに歪みがあるような気がして僕は苦手だ、と言うと、描き方のコツをアドバイスしてくれる。


「ほら見て、こうやって鉛筆をかざすでしょ。この時鉛筆を使って長さを測るわけよ。ここからここまでの部分は、ここと比べて三分の二のとこにあるじゃない。そこを起点に考えてバランスを取るといいよ」

 とても丁寧に教えてくれて解りやすい。ありがたくはあるのだが…… 非常に困る。溝口はまったく何も考えていないだろうけど、僕の後ろから抱き付くようにして、鉛筆を持った右手首を持ち、僕の腕を動かしているのだ。溝口の顔が真後ろにあり、すぐ耳元で優しく声を掛けてくれている。

 でもって、む、胸が当たってるんですけど!


 僕は動揺のあまり固まってしまい、既に顔が真っ赤になっている。

「み、みぞぐちサン……。えっと、あんまり他の男にベタベタしてると、彼がヤキモチ焼くんじゃないかな」

 ようやく絞り出した僕の言葉を聞いて、溝口はキョトンとした。

「ん? 私に彼なんて居ないよ? 」

「え? でもサークルのリーダーの……、泉さんて恋人だろ? 」

「やだ~! あれは従兄なのよ。入学前からここのサークルにはゆう兄に連れて来てもらってて、だからサークル勧誘も頼まれたんだ」

 なんという事だ。あのリーダーは、溝口さんのカレではなかったのか! しかも学年も同じ一年だったという。完全なる思い込み。ただの勘違いだったのだ。

 ……ということは、溝口さんは今フリーで、僕は失恋などしていないという事になる?


 降って湧いた突然の展開に、感情が急上昇する。いかん、このままでは暴走してしまいそうだ。しかしこの状況は、フリーである好きな女の子に手を掴まれ密着しているというこの状況は、浮かれるなという方が不可能であろう。

「そういえば、前に言ってたカフェのバイトはどうなった? あれから聞いてなかったけど」

 段々手汗がヤバイ事になって来て、そろそろ鉛筆を取り落しそうになった時、そのように聞かれた。そういえば、その後まだ報告はしてなかったな。

「うん、あの後ちゃんとバイトが決まって、最近では毎日行ってるよ」

「ホントに! なんで教えてくれないのよ! 決まったら教えてって言ったじゃないの」

 確かにそう言われた気がしたが、やっぱり遠慮があってなかなか話せなかったのだ。彼に悪いし、と思っていたし……。それでも約束したのに言わなかったのは自分なので素直に謝ると、最初は少しご機嫌斜めになっていたが、すぐに許してくれた。


「んもう、仕方ないわね。じゃあ、今日帰りにそのカフェに連れて行く事! そしたら許してあげるよ」

 え! きょ、今日っすか?!

「でも僕、今日バイク乗って来てるから…… 」

「じゃあ後ろに乗せてくれたらいいじゃない。ヘルメットなら、確かサークルの部室にあったと思うから、借りて来る」 だから大丈夫だよ! と、ピッと親指を立てて示す。


 あれよあれよという間に、好きな子をバイクの後ろに乗せて、バイト先へと連れて行く話になってしまった。相変わらず強引だが、そんなわがままも可愛く感じてしまう僕は恋の奴隷である。

 取り急ぎツレの五十嵐にラインで相談してみれば、『やったじゃねぇか! このままお持ち帰りって事で、気合入れてけよ。いい報告期待して待ってるぜ』との返答が返って来た。


 もちろん、僕にそんな事など出来るわけがないだろう?

溝口さんの小悪魔成分がヤバイです。

果たして五十嵐くんの言うように上手くいくのでしょうか。

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