表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あ~る珈琲 -バイト店員渡辺くんの日常  作者: 青色LED
第一章 あ~る珈琲潜入記
13/36

志望動機

「ありがとうございました」

 最後の客を見送り、店の外にあった看板を仕舞った後、入口に鍵を掛ける。


「ふう、渡辺くんお疲れ様」

「お疲れ様でした」

 やっと終わった。僕は思わず安堵の息を吐いた。

 今日はほんとに忙しかった。さすがの店長でも捌き切れないほどの客の数で、息を付く間もなかった。きっと初日がこんな状態だったら、最初の一日目でギブアップしていたかも知れない。

 でも今日は三日目で、多少なりともやり方とかモノの場所とかも把握出来ていたので、店長の邪魔になる事だけはなかったと思う。というか、助けになっていたと信じたい。


 店長は今日の終業後の一杯を淹れてくれている。僕はカウンターに腰かけて、ゆったりとそれを眺めている。たった三日間なのに、なんだかずっと前から繰り返しているような、なんとも言えない充足感を感じる。この満ち足りた気持ちで待つ珈琲は、とても心地良い。きっとサラリーマンが良く言う『仕事が終わった後の生ビール』のようなものなのだろう。


「はい、ご苦労様。今日は忙しかったけど、渡辺くんが居てくれてとても助かったよ。私一人ではなかなか手が回らなかっただろうからね」

 僕の目の前に今日のブレンドが出て来たので、目を細めながら頂く。


「店長は一人でお店やってますけど、今日みたいな時も助っ人とか呼ばないで営業してたんですか? 」

「うん、そうだね。まぁ何とかなるもんだよ」

 さすが店長。僕なら軽くパニック状態になること請け合いである。


「お客さんに聞いたんですけど、前は何人かバイトの人が来てたけど辞めちゃったって……。理由を聞いても? 」

「……うん、何人か来てもらった事はあるけど、どうも馴染めなかったみたいでね。まぁ、仕方ないよ」

 ここはあんまり突っ込んで聞いてはまずいところだったか? いや、でも解雇なのか自主退職なのかってのは重要だからな。その口振りからすると、『使えないヤツだから切る』というような感じでもなかったようだ。ちょっとは望みが出て来たというものである。


 この会話の流れならイケる! 僕はコーヒーカップをカウンターに置き、真正面から店長へ向き直る。

「今日でお手伝い三日目になるんですが、この三日間お手伝いして来て改めて思いました。やっぱり僕はこのお店で働きたいんです」

 言った。僕は拳をぐっと握り、店長の次の言葉を待つ。


「……渡辺くんは、どうしてこの店でそんなに働きたいと思うんだい? 前も言ったけど、他にも旨い珈琲を出す店はいっぱいあると思うよ。うちは採算重視でやってるわけじゃないから、あんまり儲かってないしバイト代も多く出せるわけじゃない」

 そうですね、でも。

「僕はこの店長の珈琲を、自分でもこの味を出せるようになりたいんです」

 店長が軽く目を見張る。


「そんなに珈琲が好きなのかい? 」

「はい、でもそれだけじゃなくて。僕には将来の夢があるんです。自分で旨い珈琲を出す店がやりたいんです! 」

 とうとう言ってしまった。今まで誰一人にすら言った事ない夢だったが、言ってしまった。

 なんだか口に出すと、余計に気恥ずかしく思えて来て、僕は思わず赤面する。


「僕の実家は小さな工務店をやってて、親はそこの跡取りとかって考えてるみたいなんですが、僕はなんていうかそっち方面にそこまで気持ちが行かなくて。別に全くダメだとかっていうわけでもないんですが、僕の下に妹が居て、そいつの方がずっと僕より熱意があるし、絶対向いてるってわかるんです。それなら僕も、自分がやりたい事に全力を傾けてもいいんじゃないかって思って。でも今まではどこから手を付けたらいいか分からなくて。それで、店長の珈琲を飲んだ時に思ったんです。これが僕の『理想の味』だ! って。僕の手でこの味の珈琲を出して、たくさんのお客さんに毎日の安らぎを与えたいんです」

 僕はここぞとばかりに、熱い思いを語った。きっと僕の本気は店長に伝わったはず。


「そうなのかい。夢を持つのは素敵な事だね。でもね…… 」

「そこまで言うのだ、雇ってやれば良いのではないか? 」

 なおも断り文句を続けようとしていた店長に、どこかから甲高い声が掛かる。

 声のした方に目をやると、カウンターの端の方に、例の直立歩行する黒いアイツが居た。


「しゃべった! なんだ、コイツ! 」

 僕がびっくり仰天して叫ぶと、今度はその僕の様子に一人と一匹が驚く。

「渡辺くん、君見えてるの? というか、言葉も聞こえてるのか? 」

「おお! 素晴らしいではないか。これは採用で問題ないな」

 え、どういう事? 店長も見えるのか? 思わず叫んでしまったが、コイツにも言葉が通じてる?

 え、ていうか、採用?


 目を見開いて口をぱくぱくするばかりの僕に、なんだか安堵したような店長と、良く分からない生き物であるコイツ。全く話が見えて来ない状況に、僕の思考はまだ固まったままだった。

渡辺くんは意外と熱いヤツでした。

店長は結構ガンコですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ