雪城和葉の過去
これを読む前に本編「鬼と巫女の秘めたる力」http://ncode.syosetu.com/n7290ci/を読むことをお勧めします。
この短編は番外編です。
いつも心配をかけまいと笑顔で学校へと向かう。
高校は徒歩で通える距離の場所にあるこの辺りの公立高校の中では最難関と言われる高校に通っている。
登下校はいつも一人だ。訳はいろいろとあるが本家のこともあり、いつ召集をかけられるかもわからない。休日のほとんどは姉の護衛に費やしているため友達と遊びに行くなんてことは不可能に近い。
友達と遊ぶなんていうことはありえない。
簡潔に言ってしまうと、和葉には友人と呼べる人物が一人もいないのだ。
和葉自身が人と付き合うのをわざと避けるようになったのだ。
中学の頃、入学して間もないころはクラスメイトにはフレンドリーに接していたため友達も多くいた。
だが、休日に遊びに誘われても断ってばかりで用事の内容を聞かれることもあったが本家のことを話すわけにもいかず、わざとごまかしたり言わなかったりという態度のせいで少しずつ友達は減っていった。
気づいたころには「友達」と呼んでいた者達は一切近づいてこなくなった。
思春期の女子は特に怖い。
クラスの中でリーダー格の女子がターゲットを一人決めると取り巻きの女子はもちろんそれに便乗する。弱い女子達も自分がターゲットにはなりたくないので知らん顔で見ぬふりをしたり同じように便乗する。
そうしてターゲットにされた女子はクラスで孤立していく。
誰にも頼ることはできない、無視されクラスの中から存在を消されたような扱いを受ける。
どうして無視するの?
どうして陰でクスクス笑ってるだけなの?
あんなに仲が良かったのにどうして……?
どれだけ心の中で叫んでも誰にもその叫びは届くことはない。
ただ無視することに飽きた女子達はどんどんエスカレートしていき物理的に行為を仕掛けてくる。
だが誰にもばれないよう、特に男子からの好感度を下げたくないためこっそりと行う陰湿的なものへと変わっていく。
学校はよく小さな社会などと言われるがむしろ弱肉強食の世界、サバンナのように思えた。
強い者が弱い者をじわじわと痛めつけ、存在を喰らいつくしていく。弱い者は強い者から必死に逃げ延びるために知恵を働かせ策を講じる。
和葉はそのターゲットになったのだ。
いじめまでに発展することは無かったが、三年間クラスが変わってもクラスの中に居場所はなく孤立していた。
孤立してすぐの頃はどうして無視されているのかが分からず、毎日がただ辛く、苦しく、逃げ出したい日々を過ごしていた。
誰かに相談したくても、その誰かがいない。
光圀に相談しようかとも考えたが、学校へ行く自分を毎日笑顔で見送ってくれ、迎えてくれる。
そんな笑顔を見ると心配をかけたくはないという思いが込みあがり、無理矢理自分の気持ちを心の奥底へと押しやった。
光圀は男手ながらも、毎日一人で家事をこなしてくれて、本家から必要以上にお金は振り込まれているので仕事はしていないけれど苦労をかけているのだから、これ以上心労まで与えてしまったら倒れかねない。
日が経つにつれ、独りでいることに慣れてきたようで周りからの視線や言葉に対して何も感じなくなっていった。
むしろ独りでいることの方が楽に感じた。
誰かの顔色を窺ったり、群れを成して行動するよりも自由気ままに過ごした方がよっぽどいいと。
学校は「友達」という名がつけられた友達といえないくだらない関係を構築し過ごす場ではない、今後生きていくうえで必要な知識を得る場としか考えなくなった。
だが光圀は和葉が高校生活を充実したものが送れていると信じ込んでいる。と共にそう願っている。
だから今日も作り笑顔で元気よく家を飛び出していく。