閑話 飽く無き食い意地 その2
麹菌集めです。
黄金色の穂が風になびく。
一面の土地に『米』の穂が広がっている。
ここは『コボルト村』。
いや、すでに人口的には噂を聞きつけた周辺の獣人達の隠れ村からの移住者の為、『村』から『町』の規模まで拡大している。
人種的にも『コボルト』ではなく『獣人』町と呼ぶべきだろう。
それでもここはいまだ『コボルト村』と呼ばれている。
なにしろ移住してきた獣人族の中でもコボルト族がもっとも多かったため村全体を見ても2/3はコボルト族で占めている。
もっとも自称モフモフ友好防衛の会の会長であるランの手によってどこぞの迎撃要塞都市のように対モフモフ狩悪人用迎撃要塞村に改造され石の村壁が作られ迎撃用防衛ゴーレムが要所要所に配置されている。
さらにそのゴーレムはランが製作した対物ライフルをゴーレム用に拡大設計しなおした対物要塞カノン砲がゴーレムに装備されている。
ちなみに120mm砲で日本の最新式戦車の10式戦車と威力上ではためを張る能力がある。
その数64基。
さらに村壁の上にある各見張り所には40mm単装機関砲がありその数256基。
保有弾数…全力戦闘50回戦分。
正直プレイヤー達が本拠地しているエリーシャより数十倍の防御力と交戦能力があったりする。
いったい敵の装備をどう想定しているのか聞きたいところである。
たとえ古代龍相手でも勝利をつかみそうな防衛能力である。
どこまで過保護なんだか…
そのコボルト村の田んぼでランと十数人の獣人たちは懸命に田んぼの中を調べ周り何かを採取していた。
「結構たくさんありますね。」
コボルトの若い男性の声に皆が頷く。
確かにランが想像していたより大量にあった。
ラン達が持っている籠の中には黒い豆のような物が大量に入っていた。
『稲麹』
この黒い豆のような物の正体である。
簡単に言えば…稲の穂につく『カビの塊』である。
さて話は変わるが『日本酒』・『味噌』・『納豆』といえは日本の伝統的加工食品の3大種であろう。
そしてこの3つの内の2つ『日本酒』・『味噌』に共通するのが製作段階で『麹菌』が必要不可欠であるということである。
でだ、この『麹』、家庭で『味噌』などを作ろうとしたらどこかで買って来るわけだが…
少し大きめのスーパーなどに行けば乾燥麹が買える。
また生麹がいいという人は専門店に行けば売っている。
まぁ、今の世の中ネットで検索すればすぐに見つかる。
以前は酒蔵 (酒屋ではなくお酒を作っている酒蔵です) で聞けばそこで使っている麹菌を買う専門店を教えてくれたものだ。
なぜだか大抵酒蔵の近くにあったりする。
さて、そんな風にして『麹菌』を手に入れるのだがそもそもその『麹菌』とやらは何から集めるのだ?などと調べてみたら全部日本全国で数社しかない種麹専門メーカーが作っているということらしい。
一部の自社で製造している大手メーカーを除いて全部これだということだ。
そしてその種麹専門メーカーは自社工場で菌の培養をしているということで『天然』物はまずないらしい。
しかし江戸時代にこんなメーカーなんていうのはなかったんだからその時はどうやって作っていたんだ?と調べたら…
今度は『蔵付き』ときたもんだ…
んで、調べてみると『蔵付き麹菌』とは…
『長年味噌などを製造している場所では仕込み場の醗酵の麹菌の濃度が濃くなっており 大豆などの穀物を中に置いておくと、醗酵の菌が付着する。 』
なんて書いてある訳だ。
『日本酒』や『味噌』なんて無い世界で初めて作ろうとしているのに『長年仕込んでいる仕込み場』なんて存在する訳が無いだろう!!
次だ次…
てな訳でさらにその前の時代はと調べてみたがこれがまったく情報が無い。
これは諦めるしかないかなと考えていたらある日こんな記事を見つけた。
『わが社の日本酒は自社田の稲穂に付く野生の稲麹から造られています』
あわてて調べてみるとその会社は自社田から稲麹を採取して麹菌から作るとのこと。
この記事を頼りに検索をかけなおしてみたら極わずかだか日本酒や味噌を自社の田んぼから採取した稲麹で麹菌を作っているところがあった。
そのうちいくつかには麹菌の採取方法まで記されていた。
まぁ、現実世界では色々機材も必要なので純粋な麹菌を個人で集めるのは難しいが(集めた菌が麹菌か鑑定するだけでもそれなりにめんどくさい手間隙がかかる)ここはゲームの世界。
鑑定ならそのものずばりの『鑑定』スキルなんていうのもある。
菌を培養するのも錬金道具もある。
ということで過分に見切り発車的なところもあるが挑戦してみようとなったわけだ。
それで最初に戻る。
今コボルト達と集めているのが件の『稲麹』という訳だ。
正直どれくらいいるのかわからない。
少しでいいような気もするがとりあえずこれは一応カビの塊だからして収穫時には邪魔でしかないので今のうちにかき集めている。
まぁ、一度『麹菌』が取れたら余分に培養生産して乾燥保管しておけばいい。
次回からはそれを股培養して増やせば良いから『稲麹』採取は今回限りだろう。
まぁ、なにか他に用途があればまた集めるかもしれないが…
ちなみにこの『稲麹』、昔からこれができる田んぼは豊作の証なんだとか。
今では翌年の稲の病気になる可能性があるのでそもそも農薬で出来ないようにしているのだとか…
情緒もへったくれも無いですな…
2時間後…
4つの籠いっぱいに集まった『稲麹』…
正直集めすぎたかもしれない。
とりあえず集まった『稲麹』は事務所の保管用アイテムボックスに保管することにする。
え?『事務所』ってなにかって?
見てのとおりですよ。
ランの前にはでっかい敷地があり真ん中に『世界モフモフ化協会秘密研究所建設予定地』と書かれた立て看板があり敷地の端には2階建てのプレハブ小屋がたっていた。
入り口には『世界モフモフ化協会秘密研究所建設事務所』と書かれている…。
全然『秘密』じゃないじゃん…
このモフモフ村こそ場所は秘密でもこういった場所があるのはランの店で働いているロン君パーちゃんのおかげで知られている。
もっともここに到達したのはラン一人というとんでもない場所だが…。
(認識阻害結界ならびにマップ機能使用不能のうえ10時間ほど歩かねば近づけないためいまだ到達者ラン以外はゼロ。しかも最近はエリア制圧パーセントなんていうのが表示されてまもなく100%になりそうである。)
とにかく村の場所は秘密でも村の中では研究所の場所がまったく秘密で無いという大矛盾!
「よう!ラン坊!!計画は順調かね?」
アイテムボックスに片付けて事務所から出てきたランに声をかけてきたのはドワーフ(NPC)のガイさん。
ちなみに彼は大の『男の浪漫』好きである。
ちなみに『男の浪漫』とは巨大ロボットのことである。
リアルロボットはカッコいいのは認めるがやはり『浪漫』と言う以上問答無用の強さを誇るスーパーロボットこそ正しい『男の浪漫』であるといつぞやの夜モフモフ村の酒場で意気投合し現在絶賛協力者になっている。
彼もいわゆる『マッドな人』で間違いないであろう。
ちなみにガイが協力する理由はロボットのこともそうだがこの村の名産品製造計画の中にある各種『酒』が目的のひとつにあった。
この辺は実にドワーフらしい正しい反応であろう。
“ようやく原菌を集めたところ。これから培養して『麹菌』に分けなきゃなんない。
どれだけかかるかは未定だね…
それに『清酒』・『焼酎』にはまだ『酵母』のほうはこれから探すからね。
もっともまずあそこのウイスキー工場で使っている『酵母』で試してみるよ。”
そういって指差したのは先日ようやく第一回目のウイスキー製作が成功しまもなく第二回目の製作が始まろうとしているウイスキー工場である。
ウイスキー自体はすでに他のプレイヤーが製作に成功している。
ただし個人製作段階なのでべらぼうに高い。
ゲームとはいえそれなりに蒸留・熟成等に時間がかかるからだ。
しかも個人生産のため作られる数も少ない。
そのためこの村を利用して名産品計画のひとつとして大規模生産施設(もっとも地球での規模だと小さな工場レベル)を作り大量生産を目指して製造を開始した。
しかも麦も数種類の大麦で作ってみた結果『レンバク大麦』という品種が向いていることを突き止めその品種の栽培も行っている。
ちなみに『レンバク大麦』はパン作りはには向いていない品種のためプレイヤーにはあまり知られていない。
パンに使われる大麦は『サンテム大麦』である。
ちなみにプレイヤーにはこの大麦パンは実はあまり好評で無い。
大麦パンのほとんどは無発酵の為実に重くて硬いのだ…
やわらかいパンになれた日本人には実に食べにくいものだろう。
そんなわけでプレイヤー達はさっさと小麦粉を使った発酵パンを各種作り出しそちらを食べている。
もっとも最初にやわらかいパンを作ったのは食い物にとんでもない執念を見せたランであったが…。
「そっか、まだそうすると『日本酒』なるものが飲めるのは先と言うことか。
まぁ、ウィスキーも製造を開始したことだし、あれもなんでも寝かせるとさらにうまいと聞いているからな、そっちのほうも楽しみにしながら待つとするよ。」
“ごめんね…できるだけ早く作り方確立するように努力するからさ。”
「おう、楽しみにしているよ!!」
そういいながら鍛冶場に向かうガイを見送りつつランは頭を切り替える。
“まずは『麹』も『酵母』も必要としない『納豆』からだ…”
つくづく食い物に関しては要領がいいようで・・・(笑)
なんか解説回になってしまいました。
とりあえず今は準備編ですかね。




