表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三録 恐ろしい月の科学

彼女達は龍神にある事を要求する。


その要求は、龍神に何を迫るのか⁉

 真夜中の幻想郷、妖しくざわめく魔法の森、唯流れ行く森の中の静寂感、そして静寂の中に不思議な雰囲気の少女が二人。僅かに通る月明かりに照らされた"その"空間には、不思議な空気が漂っていた。


「お姉様、してーー此処に再びやって来た理由を問いたいのですが……」


「ーーそうね、幻想郷の"あの人"も居るみたいだし、丁度良いわ、理由を話してあげる」


 紫髪の少女が金髪の少女に問い尋ねる直後、金髪の少女は幻想郷の"あの人"が居る事を理解して話し始めようとする。金髪の少女が言う幻想郷の"あの人"とは、わかる通り龍神の事である。


「そりゃ良い、わざわざわかりやすく気配を出していた甲斐があったよ。是非とも理由を聴かせて欲しいね」


「それより先ず、自己紹介をしましょう。私は綿月 豊姫(わたつきノとよひめ)


「私は綿月 依姫(わたつきノよりひめ)、豊姫姉様の妹です」


「俺は拳咲 龍神(けんざき りゅうじん)、幻想郷の現の龍神さ」


 金髪の少女は豊姫、刀を腰に差してる紫髪の少女は依姫。月からやって来た者が何かと思えば、しっかりとした"人型"である事に、龍神は多少なりと驚いていた。


「我々は月の住人、あなた達からすれば"宇宙人"でしょうね」


「あぁ。だけど、宇宙人が"こんな"可愛いとは誰も思わないだろうね。それで、此処に来た理由は何だい?」


 やや冗談混じりに呟きつつ、龍神は豊姫に問い尋ねる。涼しい微風(そよかぜ)が吹く真夜中の森の中、龍神の問い掛けに豊姫は袖を振って両手を出し、扇子を取り出した。


「私達は先ほども言ったように月の住人、あなた達の地上とは違う世界、寿命の無い世界に住んでいます。そこでは地上では未だ達していない科学力も存在し、力ではあなた達を確実に圧倒している事でしょう。しかしーー私達の住む世界に今、寿命が訪れる危機が迫っています。"穢れ"が訪れようとしてるのです」


「穢れ?」


「ーーそれは、あなた達外来人の存在です」


 豊姫の言葉に龍神は表情を困った様子で少し歪めた。自分達の、外来人の存在が、幻想郷だけで無く、月そのものにも影響を与えてしまっているとは思わなかった。


 もしかしたら、幻想郷の異変だって、自分達の存在の所為で起こって居るのでは無いか? でも、異変は悉く人為的、誰かが起こした異常ばかりだから、まだ何とも言えない。


「俺達の存在が、影響してるのか?」


「そうです、幻想郷に"あなた"が来てからと言うものの、幻想郷そのもののバランスが歪曲(わいきょく)しています。その"歪曲の波"が月にも押し寄せて来ているのです。このまま月に歪曲の波が訪れれば、いずれ朽ちてしまう命となってしまうでしょう」


「それを止めるにはどうしたら良いんだい?」


「簡単です、"あなた"がこの幻想郷から去れば良いのです。痕跡も残さずに」


 龍神は予想していた、何となくわかっていた、彼女が言おうとしてる事が。そして豊姫の口から出た言葉は、龍神の中で一番想像し易く、且つ一番言われたくは無かった言葉だった。


 龍神が幻想郷が居なくなる事が(すなわ)ち、どう言う事なのか。それは幻想の神の最高位に立つ者である"龍神"が幻想から消えたならば、それは秩序そのものを根本から失うに等しい事だからだ。


 更に、幻想から()でたとして、今度は現実の世界に多大なる影響と干渉を与えてしまい、現実が現実では無くなってしまうからだ。"龍神"の力は絶大、その力はあらゆる次元を容易く消し去る程、ましてや現実なら、その"存在"にすら耐え切れず消滅してしまうだろう。


「ダメだ、それだけはダメだ。俺がこの世界の神である以上、ここでしか存在は許されない。例えそれで幻想郷や君達の月が無事だとしても、世界の基点である現実が保てなければ、それは(・・・)もう"幻想"ですらなくなってしまうんだ!」



『そのトヨヒメって奴に何を言っても、俺は無駄だと思うぜ、龍神』



 突然聞こえたその声は、龍神の背後から届き、そして龍神には実に聞き覚えがある声だった。その声の主は一歩一歩近づき、確実に龍神の傍にまで歩み寄っていた。


 姿は確認するまでも無く、龍神はその存在に気付いた。先ほど守矢神社で出会ったばかりの中学生、名を"瀧沢 優"ーー。


「俺は幾ら何を言っても、この金髪紫髪揃って決まった意見しか言わないと思うぜ。まるでRPGゲームのように。月から来ただの科学が優れてるって言うんなら大層頭は良い方だろ、なのに何故、この龍神を幻想郷から追い出そうとするか、聞かせてもらおうか」


「理由は簡単、あなた達の存在が……」


『だから何だって言うんだよ、んなもん幻想郷は数え切れないほど受け入れて来ただろうがよ。何も知らねぇ月の能天気が勝手に決めんな!』


「なッ……!?」


 優は豊姫の述べようとした理由を真っ向から否定していなす。幻想郷を創ったのは他でも無い"八雲 紫と博麗の巫女"、それを知っている優は紫の言った"ある言葉"も記憶に刻んでいた為、その力強さと論理性は豊姫を圧倒した。


「紫は俺にこう言った、"幻想郷は全てを受け入れる。例えそれが残酷な真実だとしても"とな。外来人なんぞ来て当たり前、寧ろ紫は来たとしても文明の僅かを分けてもらう程度で特に何の害も無いと理解している。百歩譲って外来人が幻想郷やあんた等に害を与えるとしよう、だとしたら、あんた等は今に至るずっと前に滅んでる。勿論、幻想郷もな」


 優には豊姫、依姫、龍神にもわからない何故か強い説得力が、この三人には感じられた。それは優がまるで、長い長い過去や遠い遠い未来を駆けて来たかのような発言の数々ばかりだからだ。


「外来人が原因だと? そんな今更が通用するとでも思ってんのか! 言うのが1200年以上遅い!!!」


 優は月からの来訪者である豊姫と依姫を完全にいなした。そして龍神は優から得体の知れない、何か絶大なる経験と時を積んで来た、"神"ですらも唯の人間と思えるほどの無量(むりょう)の存在を感じていた。


「……では、私達は一体どうしろと、このまま、ただ滅びを待つだけなのですか! 事実月には寿命が訪れようとしています、それはどうすれば良いのですかッ!!」


 豊姫はわからなくなった、自分が信じて疑わなかったモノを悉く打ち砕かれたからだ。妹の依姫も同時に何をすれば良いのかわからず、正しい判断が出来ずに居た。


 この二人の心情を、龍神は少なからず理解していた。龍神も自分の生まれ育った場所、今生きている場所を失いたくない気持ちは二人と同じであるから。


「もうわからない……わからない!!!」


 両膝を地に付けて後に頭を抱えた豊姫は、ついに思考を破棄してしまった。それから直ぐ様立ち上がった豊姫は柄の開いていた扇子を大振りに横に振るった。


 扇子が起こした風は瞬く間に業風となり、目の前の優と龍神を吹き飛ばさんとする。しかし、優は顔の前を手で覆うだけ、龍神も腕を盾にしつつ顔を少し横にしただけだった。


 ところが、優と龍神の二人は自身の姿を見て驚く事となる。風には耐えた筈なのに、何故か着ている服の大半が破けていて、尚且つ服の破け方が異常である事に気付いた。


「この扇子は月の科学で造られた物。この扇子が起こす風はあらゆる物質を素粒子レベルまで分解してしまう。ですが、あなた達は何故か服だけが分解され、自身は無事ーー意味がわかりません……意味がわかりません!!!」


「まずい、豊姫の思考が逃げ場を失って錯乱状態に陥ってる。このままじゃ優くん、俺達は巻き込まれる(・・・・・・)ハメになる。今すぐ友達と共に神社に戻れ!」


「心配すんな、あいつ等にならもう避難を言ってある。それとあいつ等は"俺の友達"じゃねぇよ」






『俺の仲間だ!』







続く

思考が逃げ場を失い、錯乱状態となった豊姫。


依姫もまた、自身では正しい判断が出来ずに豊姫と同じ行動を執ってしまう。


次回、優&龍神VS月の姫



また次回……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ