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3.スイーツ攻防

 3.スイーツ攻防


 翌日も、風呂上がり、甘い香りに誘われて、というよりは、優実が作っているだろうスイーツへの興味に抗うことができずに、俺は使用人用のキッチンに向かった。扉を開けると、驚いたような優実と目が合った。

「何でまたいらしたんですか?」

「今日は何?」

 咎めるような優実に、俺が尋ねると、またもや冷たい視線を突き刺してくる。

「何であろうと、使用人のみなさんの分なんです!召し上がらないで下さいね!」

 作業台の上にはデコレーション前の四角いケーキがある。一見普通のショートケーキっぽいが、スポンジケーキの間に挟まれているのは生クリームと細かく砕いた栗のようだ。更にケーキの脇に黄色いクリーム状のものも器に入っている。どうやらモンブラン風のケーキらしいと、俺は見当をつけた。

 味を想像して舌なめずりしながら俺は言う。

「見ているだけだ。」

「本当に駄目ですからね!」

 優実は警戒心を隠そうともしないで拒絶し、デコレーションを始めた。パレットナイフを使い、慣れた手つきで生クリームを塗りつける。更に白く塗られたその上に、モンブランらしい黄色のクリームを絞り出していく。

 じっと見ていると、真剣さの中に楽しそうな表情が、大きな瞳の煌めきが見え隠れして、コイツは本当にスイーツ作りが好きなんだと俺は思った。

 いよいよカットに入る。と思ったら、優実が顔を上げた。

「雅之様。見ていても食べられないんですから、ご自分のお部屋にお戻りになられたら如何です?」

 そうは問屋が卸さない。

「見ているだけでも楽しいんだ。」

「じゃあ、私の後ろに立って、そこから見ていて下さい。」

 確かに優実の後ろからだと手が届かない。もし届いてもこっそり食べるなんて不可能だ。

 真剣にケーキにナイフを入れ始めた優実の後ろ姿に、俺は思い付きで囁いた。

「………キスして良いか?」

 自慢じゃないが、モテる俺に、こう囁かれて動揺しない女はいない。勿論、俺がキスをする相手は目の前の少女。ではなく、目の前のケーキだ。そうとは気付かず、彼女が狼狽えたら、その隙にケーキを戴く。つもりだったが、醒めた声が返ってきた。

「……本気ではない言葉に惑わされたりしません。」

 むむっ。手強い。だが、その上をいかねばモンブラン風ケーキにはありつけないのだ。俺は知恵を絞った。背後から色っぽく、優実の耳に息を吹きかける。

「ひゃっ。」

 思った通り、優実は大きく手元を狂わせ、変に斜めに切り込みを入れた。

「おやおや。失敗したね。大きさも形もバラバラになっちゃったぜ。」

「もうっ!何するんですか?!」

 つーん。知らんぷり知らんぷり。

「これじゃあ、みなさんにあげられないじゃないですか!」

「大丈夫だ。俺が全部食べるんだから、どんな風に切れ目が入ろうが問題ない。」

 優実は大きくため息をついて、諦めたようにフォークを持ってきた。

「………どうぞ。」

 単に見た目で甘過ぎるんじゃないかと思った俺だったが、昨日のケーキ同様、控えめなあっさりした甘さで、栗のクリームのとろけるような食感とスポンジの弾力が最高にマッチしている。素朴な味わいも依然として感じられるのが良い。

「美味いよ、これも!」

 頬が緩む。フォークが止まらない。

 そんな俺に、無表情のままの彼女は、その大きな瞳にだけ何かの色を見せた。

「………お食事、ちゃんとなさってるんでしょう?」

「勿論。」

「じゃあ何でそんなに入るんですか?!」

「美味いから。」

 自分の作ったものを美味いと評価されて嬉しかったのかもしれない。表情を変えない優実の頬だけが薄く染まった。

「太っても知りませんよ?!」

「大丈夫。俺、食べても太らない体質だから。」

 言いつつ至福の時を満喫する。基本、変な女の作ったものは食べないが、優実に関しては例外だ。コイツは俺の味覚に合ったスイーツを作る天才らしい。そう俺は勝手に決定づけた。

 結局今夜のモンブラン風ケーキも完食した。どうしても顔がニヤけてしまう。

「今夜も最高に美味かった。ご馳走様。」

「…………はい。」

 優実の呆れたようなため息が漏れた。



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