21.奴の正体
21.奴の正体
水族館は、思ったよりもすいていた。平日の午後だからかもしれない。
優実はオレンジでも赤でもない、朱色と言ったら良いだろうか、そんな色を薄く淡くした柔らかい色彩のシンプルなワンピースだ。彼女の優しい雰囲気にとても合っていて、つい目が惹かれる。可愛い。凄く可愛い。のだが、この可愛い姿を他の男には見せたくないような気分にもなる。まぁ、それが無理なことは承知しているから、俺は少々強引に優実の掌を包み込んだ。所謂恋人繋ぎをして、ゆっくり歩き出す。
「…………あっ、あの、雅之さん…………。」
手を離すことはしなかったが、戸惑ったように口を開く優実に、俺は微笑みかけた。祥生に見られたら、まず『黒い!』と言われるであろう、一見爽やかな笑顔だ。
「はぐれたら困るだろう?!」
優実の瞳を見つめると、顔を真っ赤にして視線を彷徨わせた。
「…………さっきの二人は。」
混乱する気持ちを宥める為か、それとも他に理由があるのか、優実は熱帯魚の水槽に近付いて、覗き込みながら口を開いた。
「あっ、あの、学校の…………。」
「うん。」
「私の、従兄弟なんです。」
「従兄弟?」
「はい。母のお兄さんの子供で…………。一ノ瀬 紘己くんと麻里亜ちゃん。本当は二人の上に高校生のお兄ちゃん、卓己くんもいます。」
俺は胸に詰まっていた何かが音もなく消えていくのを感じた。思わず頬が緩む。
「…………そうか。だから仲良さそうだったんだな。珍しいと思ったんだ。人見知りの激しい優実が、男と笑顔で喋っているのが。」
優実も、俺の心境が変わったことを敏感に感じ取ったのか、安心したように微笑んだ。水槽から俺に視線を戻して。
「小さい頃からよく一緒にいたから、もう兄弟みたいな感じなんです。」
「兄弟か。」
今の様子を見ると、優実にとって、俺が会っていない卓己氏を含めて、彼等が兄弟以上の感情を持つ相手ではないと、理屈抜きで受け入れられる。優実の場合は、彼等に恋心なんて持っていたら、間違いなくこういう話題すら避けているだろうから。
「あっ!ごめんなさい!」
突然、手で口元を押さえ、謝る優実。俺は首を傾げて尋ねた。
「何が?」
「雅之さんも一人っ子ですよね?!それなのに、兄弟だなんて、そんな話…………。」
「えっ?!いるよ、姉貴が。」
訂正すると、優実は瞳を見開いた。
「えっ??だって、私が雅之さんのお家にお世話になってた時…………。」
ああ、そうか。
「俺の姉貴は、勉強したいことがあるって、全寮制の学校に行ってるんだ。高校からでも良いんじゃないかって両親は止めたけど、家業は俺が継ぐんだから心配入らないし、自分は自分のやりたいことを極めたいってね。春休みも、その道で有名な博士の特別講習があるって、家には帰ってこなかったんだよ。」
「そう、だったんですか…………。」
放心したように呟いた後、また優実は笑顔を俺にくれた。
「じゃあ、今度、会わせて下さいね!」
「ああ、勿論。」
俺も笑顔を返した。




