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20.優実の笑顔

20.優実の笑顔


 今日は学校職員の都合により、午前中で授業が打ち切られる。それで雅之は、午後から優実と出掛けることにした。優実の希望で水族館に行くことにしている。

 終礼が終わると、雅之は鞄を持って優実の教室に向かった。

 一年生の教室が並ぶ廊下にたどり着く。見ると、優実が男と立ち話をしていた。男はこちらに背を向けていたが、以前見掛けた男だと判った。

 優実が、あの極端に奥手なあの優実が、満面の笑顔で、あんなに近い距離に立つ男と話ができるというのは…………さすがにショックが大きかった。思わず身を隠して様子を伺ってしまう。

 何を話しているのか…………、優実は俺にさえも見せてくれたことの無いような屈託のない笑顔を、その男に見せている。ひどく楽しそうに…………。

 暫く見ていると、もう一人女の子が加わった。背が高めでショートカットの美人である彼女もまた、以前見掛けた時に一緒にいた子だと思う。嬉しそうな笑顔で見上げる優実の頭を、柔らかくぽんぽんと撫でるその瞳には、穏やかな親愛の情が閃いていた。

 この三人は凄く仲が良いのだということが感じられた。割って入るのが憚られる程に。

 俺の視線を感じた、というよりは、俺がここに立っているのを知っていたかのように、彼女が優実に俺の方を指し示した。俺を認めた優実は、満面の笑顔からはにかんだような微笑みに変わり、二人に手を振ってから、小走りに俺のところに来た。俺は二人に軽く会釈した後、優実の瞳を覗き込んだ。

「…………良かったのか?」

 尋ねると優実は小さくコクンと頷いた。

「雅之さんが来てくれるのを待ってる間、話し相手になってもらってただけだから。」

「そうなのか?」

 その割に嬉しそうで楽しそうで…………。そんな卑屈な気持ちになるのは嫉妬のせいだ、という自覚はある。だが、自覚していても、態度を改善できるかどうかというのは別問題だ。

「あの二人と一緒に過ごす方が楽しいなら、水族館は別の日にしても良いんだぜ?」

声がキツくなりそうなのを抑えながら俺は言った。

嫉妬が声に混じるのを感じ取れなかったようで、優実は笑顔で俺を見上げた。

「水族館が良いんです!雅之さんと二人で行けるの、凄く楽しみだったから…………。」

 優実の頬が鮮やかに染まっていくのを見て、漸く俺は気分が浮上してきた。単純なのは解っているが、奴よりも自分を優先してくれたことが本当に嬉しかった。

「そうか。なら行くか。」

 迎えに来ていた車に乗り、一旦中沢家に戻る。学生鞄を置き、制服から私服に着替えるために。



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