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16.溢れ出す喜び

16.溢れ出す喜び


 優貴氏の前を辞して、優実と二人で廊下に出た俺は、彼女にわざとらしく言った。

「それでは、今日はどちらに参りますか?優実様。」

 極上の笑顔で言うと、彼女は顔を真っ赤に染めた。優貴氏との口喧嘩の後のせいか、瞳も潤んでいて、可愛いことこの上ない。

「まっ、雅之様。優実様、は止めてください。」

「雅之、とお呼びください。今回は私が使用人、優実様が主ですので。」

 しれっと言うと、優実は頬を染めたまま、俺を軽く睨んだ。くらくらする程可愛い、罪作りな視線だ。

「雅之様、面白がっていらっしゃるでしょう?!」

「雅之。」

「雅之、様。」

「違います。雅之、です。」

 しつこく言うと、優実は困ったような顔になる。家の使用人用のキッチンでよく見た表情だ。懐かしくて愛おしくなる。

「駄目です。雅之様がどんなに女の子に人気があるのか、私だって知っているんです。呼び捨てになんかしたら、きっといびり殺されてしまいます。」

 真面目な顔で言うから、それがまた可愛くて、こんなに有頂天になっている自分が自分でおかしかった。

「雅之さん、で赦していただけますか?」

 本人に自覚は無いだろうが、そうやって上目遣いにおねだりされると、理性も何も消し飛んでしまいそうだ。自分がアブナい行動を起こしてしまう前に、俺は了承することにした。本当は優実の可愛い声で、恋人のように名前を呼ばれるのにも、かなりの魅力を感じていたんだが。

「仕方ありませんね。」

「それから、優実様、も止めてください。今まで通り優実で………。」

「私に呼び捨てにされたい、と?」

 すまして尋ね返すと、今度は彼女は素直に頷いた。その仕草がまた可愛い。そんな彼女が自分に呼び捨てにされたいなんて、もう舞い上がる心を止められない。彼女の性格を考えると、他の男には多分、絶対、言えない台詞だろうから。

「それから、話し方も、これまで通りで………。でないと、お話ししにくくて………。」

 それは困る。

「……それは命令でしょうか?」

「本当はお願いのつもりなんですが……。はいって言ったら、聞いてもらえます?」

「そうですね。やむを得ないでしょう。」

「では、命令ということでお願いします。」

「解った。」

 口調を戻すと、優実は嬉しそうに微笑んだ。



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