14.祥生
14.祥生
「………雅之。お前、何かあったのか?」
煩い女どもを胡散臭い笑顔で煙に巻く祥生は凄い。本性はかなりの俺様野郎なんだが。
俺は、そういう意味ではまだまだ子供で、嫌悪感がモロに出てしまう。上に立つ者として、克服していかなくてはならない課題だと自覚はしているが、女どもに対しては、なかなか難しいと言わざるを得ない。
祥生の巧みなあしらいで、昼休みになると俺達は二人、屋上で座り込んでいた。
どうやら、一番側にいる親友の祥生には、どんなに隠そうとしているつもりでも、俺の微妙な変化が解るらしい。
俺は深々とため息をついた。こう見えて祥生は、俺に輪を掛けて女嫌いだ。話して、どこまで理解してもらえるか予想がつかないが、俺を心配してくれている以上、打ち明けない訳にはいかない。というか、コイツにはなるべく秘密を持ちたくない。
「………女に惚れてしまったらしい………。」
意を決して、という割にはかなり小声で、独り言のように俺は言った。
「……えっ?」
祥生は一瞬絶句して、その後俺を真っ直ぐ見た。だが、俺の方が目を逸らしてしまう。
と、祥生が少し微笑む気配がした。
「良いんじゃね?!そんな良い娘に出逢えたんなら。………聞いても良いか?相手。」
頭っから疑われるか、笑い飛ばされるか、と思っていた俺は、拍子抜けした。が、一瞬遅れて嬉しさが沸き上がってくる。祥生のこういうところが、同性の俺から見ても、良い男なんだ。コイツと親友になれて、本当に俺はラッキーだと思う。
「春休みの間だけ、俺の家に住み込みで働いた女の人の娘で、ナカノ ユミって子なんだ。漢字は、確かめなかったから解らない。年は俺達のひとつ下らしい。」
「ふ、ん。きっかけは何だったんだ?」
「……手作りのお菓子だった………。」
そうして俺は、出逢いから別れに至るまでの経緯を全て、祥生に話した。すると、祥生が不思議そうな顔をした。
「………なぁ、変なことを聞くが、それって本当に恋心なのか?それとも食い意地の延長なのか?」
「多分、どっちも。」
答えると、祥生は吹き出した。
「お前らしいな。………彼女の通っている学校とか、住んでいる町とか、聞かなかったのか?」
「俺と同じ学校に入学って言っていたような気がして、実はこっそり新入生名簿を調べたんだ。だが、ナカノ ユミは無かった。似ている名前では、中田 真美、中沢 優実、中村 亜美というのがあったんだが、遠目で見る限り、三人とも違う。中田 真美はアイツと比べると背が高すぎる。中沢 優実は後ろ姿しか見れなくて、似ているとは思ったが、女の友達と三年生の男の三人で喋っていた。女友達だけなら解るが、男と平気で話ができるなんて、とてもアイツだとは思えない。中村 亜美はショートヘアだった。」
「………そう、か。なら、親父さんにでも聞いてみたらどうだ?母親をメイドとして雇っていた以上、相手の素性なり現在の居場所なり、何からの情報を持っていておかしくはないだろう?」
「……そう、だな。」
とは言ったものの、自分の親に惚れた女のことを聞くのは、かなり勇気がいると思わないか?
聞くに聞けず、悶々と日が経って、ゴールデンウィークも終わったある日、俺は父に呼ばれた。
「雅之。」
「はい。」
「昔から我が家が中沢家と交流があるのを知っているな?」
「はい。」
「人を使う立場の者は、人に使われる立場の者の心を知る必要がある。それで、これまで、我が家と中沢家では、お互いに、跡取りを一定期間、お互いの家に使用人として奉公する機会を設けてきた。」
「はい。」
そういう話は以前にも聞いたことがあった。確か曾祖父の頃から行っているという話だったと思う。次は俺の番だと言いたいのだろう。
「この夏休み、お前にも行ってもらおうと思っていたが、優貴が六月からどうかと言ってきたんだ。」
「六月から、ですか?」
「ああ。お前に頼みたいことがあるらしい。学校に通いながらになるが、お前にとっても良い勉強になるだろう。どうだ?」
確かに憧れの優貴氏のところでは、色々学ぶことも多いだろうし、この鬱屈した気分も少しは紛れるかもしれない。
そう思った俺は即答した。
「はい。お願いします。」




