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1.新しい使用人

 1.新しい使用人

 

 俺、高神 雅之は女が嫌いだ。春休みになって、こうるさい女どもから一時的に解放されたことに、かなりほっとしている。

 はっきり言おう。俺は女にモテる。自意識過剰や自信過剰だと言いたい奴は言えば良い。祖父は大企業の会長で父は社長職、更に母の美貌を受け継いだと言われる俺が、物心ついた時から女にまとわりつかれるような日々を送っていたとしてもおかしい話ではないと思うが。更に最恐の姉の存在もある。そのせいで、女なんか見たくもない、話したくもない、関わり合いになりなくない、の三拍子が揃ってしまった。

こんな俺の気持ちが解るのは、似たような境遇に置かれている親友の如月 祥生くらいだろうか。祥生の家は代々続く大病院で、本人もいずれは医学の道に進み、病院を継いでいかなければならないだろう。つまり、頭脳もそれだけ優秀なのだ。そして、付け加えるならば外見も申し分ないと言って良い。男の俺から見ても相当な美形だったりする。

俺達二人は完璧な女嫌いである筈なのに、冷たくしようが無視しようが、周りを取り巻く女が減らないのはどうしてか。本当に頭が痛い。

 だが、今日から春休み。ささやかな自由を噛み締める俺は、自分の部屋で、トライフルを前に頬が緩む。そう。俺は、女は反吐が出る程嫌いだが、スイーツは涎が出る程好きなのだ。

 家が大企業の経営をやっていると頂き物、貢ぎ物が多い。その中で、スイーツに関してのみ、殆どが俺の口に入ると言って良い。我が家のシェフも美味いスイーツを作ってくれる。今日のトライフルもそうだ。こんな俺は日々の生活でスイーツを切らすことがない、のだが、それを味わう精神的余裕が切れることがよくある。女どもから撒き散らされる好意や欲望という名の醜悪とそれによってもたらされる疲労と倦怠の塵が積もって。だから、女どもに苛まれることの無い休暇中のスイーツタイムは俺にとっての至福の時だ。

 いただきます。

 と最高の時間を満喫すべく、フォークを取った瞬間、ノックの音が響いた。

 邪魔された!

 そう思った俺は仏頂面のまま応えた。

「………はい。」

 現れたのは一人の使用人だ。女嫌いの俺は、自分の周囲を男の使用人で固めている。中でも特に気に入っているのが、この不破 響だ。完全に俺の専属と化している。

「雅之さま。友之さまがお呼びです。」

 友之、 ―高神 友之― というのは高神産業の社長であり、俺の父親でもある。

「………………。」

 無言で嫌~な顔をする俺を、響は追い立てた。

「すぐ終わる話だそうですから。」

 有無を言わせず部屋を追い出された。

 渋々父親の部屋に行くと、穏やかな父と笑顔の母とが待っていた。本当はひとつ上の姉もいるが、勉強したいことがあると、小学校を卒業してから専門の学校へ進み、寮生活を送っている為、現在は家にはいない。

その両親の脇に控えるように、見たことのない使用人二人がいた。

「ああ、来たな、雅之。」

「はい。」

「お前に紹介しておこう。新しい住み込みの使用人だ。中野 真由子さんと優実ちゃん。二人は親娘なんだ。お前につく訳ではないが、一応顔だけは、と思ってな。」

「中野です。宜しくお願い致します。」

 母親が言い、娘は無言のまま、母親と同時に頭だけ下げた。

「……よろしくお願いします。」

 一応、俺も頭を下げた。挨拶は人間としての最低限のマナーだからだ。

「優実ちゃんは来月お前の学校に入学予定だ。」

「………そんな子供を使用人にすると?」

 訝しく思って問うと、父親はちょっと笑った。

「使用人としては真由子さんとだけ契約しているんだが、優実ちゃんが住み込む以上は手伝いたいと申し出てくれたんでね。」

「そうなんですか。まぁ俺は、父さんが決めたことに異論を差し挟むつもりはありませんから。」

「そうか。」

 父親が苦笑する。

「………これ以上、話が無いなら部屋に戻ります。」

 俺が言うと、父親は頷いた。

「ああ。邪魔をしてすまなかった。」

 部屋に戻ると、トライフルの生クリームが溶けてでろんでろんになっていた。俺の怒りは、当然、あの使用人親娘に向かう。

 赦すまじ!


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