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悪魔来  作者: 銀翠
7/18

その7〜友達〜

「んー…あれ?朝か」寝る前にライアちゃんの不意打ちにあい、ドキドキしてなかなか寝付けなかったが、気づかないうちに寝ていたようだ。隣でまだ寝ているライアちゃんを起こさないように、体を起こす。「うん、全快」だるさはないし、頭もふらふらしない。熱を測らないでも平熱ということは分かった。時計を確認すると、8時を少しまわっていた。ライアちゃんもまだ寝てる事だし、僕も寝るか。一応トイレだけはすませ、また布団に戻る。今回は、案外簡単に意識がとんでいった。


「いて…」頭に軽い衝撃を受けて、僕は顔を上げる。「こら霧崎、授業中だぞ。寝るんじゃない」ははは、と周りにいるやつらは笑う。「あ、すいません…」そうだ、今は授業中だった。

右隣の席の女の子が、小声で話しかけてくる。「十夜君が授業中に寝るなんて珍しいね、疲れてるの?」「昨日寝るのが遅かったから」苦笑しながら、小声で返す。

夢を見ていたようだ。どんな内容なのかは忘れたけど、現実よりは楽しい夢ではないだろう。高校に入って三ヶ月、勉強も部活もかなりいい調子で、かわいい彼女もいる(さっき話しかけてきた子だ)。僕の人生は順風満帆、最高の人生だった。不思議なことに、僕がやる事成す事、全てがうまくいった。まるで、自分が望む事全てがうまくいくようだった。

授業が終わり、休み時間になる。仲のいい男友達が近くにやってきて、僕を軽く殴った。遊びのつもりだったのだろうけど、結構痛かった。だから僕は…つい、死ね、なんて思った。そうしたら、そいつは消えてなくなった。教室にいたやつらは、「人殺し!」と叫んだ。僕には何の事か分からなかった。だって、僕は何もしていないのだから。それでも、彼・彼女らは騒ぐのをやめない。「うるさいな…黙れよ!」教室にいたやつらは、みんな消えてなくなった。人だけじゃない、机が、教室が、学校が…全てなくなった。

「なんで…みんな消えたんだ?」僕の前には、真っ白で何もない世界が広がっている。誰かが耳元でささやく。「あなたが、そう望んだんじゃない」「違う…違う!僕はこんな事望んじゃいない!」「あなたは嫌なやつは消えてしまえと望んだ。それだけじゃない、退屈な世界すらいらないと望んだ」「…そんな事、ない」僕は震える体を抱きしめ、そう呟く。「最後に、あなたが消えれば、あなたの望んだ世界になる」「やめろ…!」いきなり目の前に、小柄な女の子が現れた。「君は…」「さようなら」僕は女の子に、小さい鎌で首を切られた。意識が途絶えていく…。


「うわぁっ!」がばっと体を起こす。「はぁはぁ…」嫌な汗が体中から噴き出して、パジャマを湿らせている。辺りを見回し、大きく息を吐く。「夢…か」しっかし…なんつう夢を見るかな。全てにおいて完璧な僕、消えていく人、物、そして世界…最後に僕が消えて終わる世界…。「望みか…」僕は本当にあれを望んでいないのだろうか?考えたところで、答えは出なかった。

隣には、ライアちゃんがまだぐっすりと寝ている。夢で見た彼女と比べると、全然怖くない。ぷにぷにと、頬を指でつっついてみる。「むー…」お、反応あり。ていうか、今何時だろ?時計を確認すると、10時半を過ぎたあたりだった。ライアちゃんが起きないのも、珍しいなぁ。僕は彼女の頬を指でぷにぷにし続ける。うーむ、柔らかいよなぁ…。ぷにぷにし続けていると、さすがに起きた。「むー…おはようございます」「あい、おはよう」それでもまだ、頬をつっついている僕。「…何してるんですか?」「いや、なんとなく」その後も特に何も言われなかったので、数分ぷにぷにしていた。僕がやめると、「ご飯にしましょうかー」と彼女は言った。

いつも通りおかずをチンして、ご飯を食べて、後片付けもさくさくすませ、部屋に戻る。

「さーて、何をするか」時間はまだ11時半少し前、一日の中盤にも達していなかった。「やまにはゲームでもー」「やろっか」ライアちゃんの意見を取り入れ、早速ゲームをやる。前回は主に対戦系だったので、今回は協力系にしてみる。二人で敵を倒していくアクションゲーやシューティングゲー。一人でやってもあまり面白く感じられなかったゲームが、かなり楽しく感じられる。僕がやられそうになったら彼女に助けられ、逆に彼女がやられそうになったらぼくが助ける。なかなか息も合って、二人で熱中した。

そんな僕らを止めたのは、玄関の呼び鈴だった。「誰だろう?宅配便かな」ゲームをストップさせて、僕は玄関に行く。ライアちゃんは部屋で待っている。「はーい、どちらさんで…」玄関のドアを開けると、そこには一人の少年が立っていた。「よう、元気か?」友達にでも話しかける様に、その少年は言う。はて、「…誰だっけ?」少年は盛大にこけた。漫画に出て来る様な、見事なこけっぷりだ。「おいおい…同じクラスの山下だよ、山下誠」「んー…ああ」思い出した。窓の外を眺めていた時に話しかけてきた、あの時の少年だ。僕はたちまち気分が悪くなる。「で?何の用?」気分の悪さが顔に出ていたのだろう、彼は顔の前で手を振る。「いや、特に用事があるわけじゃないんだ。ただ近くをよっただけで…」「そうか、今忙しいからじゃあな」僕は玄関のドアを閉めようとする。「待て待て待てって」彼はドアに手をかけて止める。「なんだよ」自然と声が冷たくなってる感じがした。「家にあがってもいいか?」「断る」短くそう言って、僕はドアを閉めようとする。「だから待てって」山下は焦っている様に見える。「だから、なんだって言ってんだよ」だんだんとイライラしてきた。「だからなぁ…」なかなか彼は続きを言わない。そんな事をしている内に、ライアちゃんが部屋から出てきてこっちにきた。「どうしたの?十夜」どうやら、少し長かったので心配になってきたみたいだった。「いや、ちょっとね…」ドアを閉めようとしている僕と、それを止めるためにドアの隙間から上半身を出している山下を見て、彼女は言う。「強盗ですかー?」僕からしたら強盗よりもたちが悪い…。「違います!霧崎の友達です!」「誰が友達だうるぁ!」友達という言葉に、少し…いやかなり苛立った僕は、ドアを無理やり閉めようとする。「痛い痛い!」体を半分はさまれている山下は、悲鳴をあげる。「なんかよく分からないんだけど…家にあげないのー?」「却下」僕はドアを閉めようとしながら、はさまってる山下を蹴って外に出そうとする。「ちょっ!まじ痛いって!」知ったもんか、何が友達だ?ふざけるなよ。それに、ライアちゃんとの時間を邪魔されてたまるか。「十夜ストップー!」見かねて、ライアちゃんは僕を止める。「なんで止めるのさ!?」「さすがにやりすぎだよー」彼女にパジャマの後ろを引っ張られ、僕は山下への攻撃をやめる。「今だー!」その隙に、ドアを開けて山下は中に入ってきた。「てめぇ!誰が入っていいって…」「十夜!いい加減にしなさい」ライアちゃんから背中にとび蹴りをもらった。腰より少し下、びてい骨辺りにクリーンヒットして僕は玄関のドアに頭をぶつける。さりげなく、飛んできた僕を山下はよけていた。蹴られたところと頭をさすりながら、僕は振り返る。「ライアちゃん…すっごく痛い」僕の顔を見て、二人は青くなる。「霧崎…血出てる」「十夜!止血しないと…」「はい…?」ぶつけた頭…と言ってもおでこより少し上ぐらいだけど、そこから血が垂れてきていた。嫌な血の感触が、顔の上を流れていく。「おおぅ、まじだ」特に焦りもせずに、僕は声をあげる。

そこから先は(せわ)しなかったライアちゃんに手を引かれ、リビングで治療を受けた。さりげなく、山下もあがってきていた。二人とも焦っていたけど、僕はいたって普通だった。痛いのはあんまり好きじゃないけど、自分の血なんて、結構見慣れてるから…ね。

治療を終えて部屋に戻る。僕の頭には包帯が巻かれている。「ごめんねごめんね…」と涙目になりながら、ライアちゃんは謝り続けている。「大丈夫か霧崎?」うーむ…こういうライアちゃんは(も)かわいいよなぁ…。「気にしないでいいよ…それより、なんでいるんだ?」僕は矛先を山下に向ける。大体、全部こいつのせいじゃないか…。「まぁ落ち着けよ…学校来ないでなにやってんのかなーって思ったんだよ」正直僕はキレそうになった。それを察したのか、ライアちゃんは僕をなだめる。「十夜、だめだよ」「だってこいつらは…!」僕は何とか怒りを抑える。逃げた自分だって悪い事を、少しは自覚してるからさ…。「霧崎って、結構明るいんだな」「明るくちゃ悪いかよ?」それでもイライラしながら、布団の上に腰をおろす。ライアちゃんも僕の隣に座る。そして、立ったままの山下は言う。「いや別に、学校じゃ暗そうに見えたんでな」学校だから暗いんじゃなくて、僕は元々暗かった。ライアちゃんが来てから、だいぶ明るくなったような気はするけど。というか、ただ単にストレートに気持ちを出すようになっただけか…。「うるせぇ、お前には関係ないだろ」少し前の僕なら、絶対にこんな事は言えなかっただろう。「しかも結構、饒舌(じょうぜつ)で毒舌だよな、なんか安心したわ」はぁ?こいつは何を言ってるんだ?そんな事を考えていると、ライアちゃんが耳打ちをしてきた。「きっと彼なりに、心配してくれてるんですよ」心配?こいつが?「陰口をたたくようなやつが、何を安心するってんだ?」「は?」山下は?を浮かべる。なかなか器用なやつだ…。「陰口なんて言ってないぞ、俺はな」俺はな、の部分を強調して言う。「何言ってんだよ、僕は聞いたぞ?」「ああ、もしかしてあの時か…?俺は言ってないぞ、場が盛り下がる云々とか言ったのは、飯田だ」「一緒に話してたのはお前だろ?」山下は苦い顔をする。「うーん…お前どこまで聞いてたんだ?」「その、場が盛り下がる云々の辺りまで」「その後俺がなんて言ったか聞いたか?」「聞いてない」僕は走って逃げたからな。「なんだったかな…ああ、でも話してみないと分からない、だったかな。だから俺は陰口なんざ言ってないぞ」「…本当かよ?」いまいち信じられない。「つーかな、俺は陰口言うぐらいなら、本人に直接言うぞ」確かに、本人が目の前にいても言いそうなやつだ。「だから…どうしたって言うんだ?」それが分かったところで、僕は何も出来ない。「いや別に、どうしろってもんでもないけどよ。学校こねーの?」「だるい」思ってもいない事を口にする。「ははは、俺だってだりいよ。まぁでも、つまんねぇ事だけでもないしな」笑った顔が、やけに輝いて見えた。いや、僕だけがそう感じたんだろうけどさ。僕はこんなに、人生楽しく生きてないから、ね。「そうか…まぁ気が向いたら、行くよ」山下のような馬鹿とつるんで遊ぶのも、いいかもしれないな、となんとなく思った。「そういや、妹さんか?」山下はライアちゃんを指差して聞く。ずっと黙ってたライアちゃんが、やっと口を開く、「違いますよー、私はあく…」だけど、僕はその口をとっさにふさいだ。「んんー…!」ライアちゃんは暴れる。「親戚の子どもなんだ、夏休みだから遊びにきてんだよ」山下にそう言ってから、僕はライアちゃんに耳打ちする。「あんまりそれは言わないで」ふさいでいた手を放す。「そ、そうなんですー。十夜のいとこのライアって言います」なんとか口裏を合わせてくれる。「来亜ちゃん?珍しい名前だね、よろしく。俺は山下誠っていうんだ、気軽にマコッチと呼んでくれ」「うるさいぞマコッチ」「霧崎…お前が言うときもいぞ」「だまれマコッチ」「ちょ…」「死んでしまえマコッチ」「ひでぇ…」これで当分はからかえるな。「よろしくですよー、マコッチョさん」「もう好きにしてください…」二人は握手をする。やれやれ…。


「じゃあ急に悪かったな。学校こいよー」「お前はもううちにくんなよ」からかう様に、言ってやる。「は、断るぜ」笑いながら返してくる。「んじゃな」手をあげて、外に止めてあった自転車にまたがって帰っていった。


部屋に戻ると、ライアちゃんがゲーム機の前で待っていた。「良い友達が出来て、良かったね」僕はライアちゃんの隣に腰をおろす。「馬鹿、だけどね」僕は笑っていたと思う、友達が出来て嬉しかったのかもしれない。本当のところは、僕自身にも分からなかった。「さて続きやろっか」「はいー」僕らはずっとつけっぱなしだったゲームを再開した。山下がきてから、一時間ほどゲームはつけっぱなしだった。


「ふー…疲れたなぁ」「私もですよー」ゲームを終える頃には、時間は11時を過ぎていた。「ゲームで過ごす一日も悪くはないなぁ、ライアちゃんがいるからだけどね」「一人でやってもつまらないですからねー」変な来客もあったけどね。「ご飯にする?」「そうしましょー」

いつも通りおかずをチンして、ご飯を食べて、後片付けをさささっと済ませる。

「散歩行こうか?」「はーい」僕らはいつも通り散歩に出かける。夜空には星が瞬き、地上では虫たちが合唱していた。「しっかし、今日は散々な一日だったなぁ…」包帯を触りながら、隣を歩くライアちゃんを見る。「むー…謝ったじゃないですかー」ライアちゃんは困った顔をする。僕はつい、頬をぷにぷにとつっつく。「何をするんですかー」少し顔を赤くするけど、ライアちゃんは逃げたり止めたりはしない。「何て言うか…癒され?」まぁなんでもいいのだ、ただ触りたいだけなのだから。「癒してますよー」「こっちは治らないけどね」自分の頭を指差し、笑いながら言う。「もー、いじわるですよ」ぷんぷんと怒った仕草をする彼女。ほんとかわいいなぁ…。

「十夜…」少しまじめな彼女の声。「ん?」「学校行く?」僕は「んー…」と考える。「行ってもいいかな、とは思えるようになったよ」「良かった…ね」彼女は、すごい笑顔でそう言ってくれた。だけど、ほんの少し…ほんの少しだけ、どこか寂しそうだった。「ありがとね…」僕は、聞くことが出来なかった。だから、そんな言葉を言うしかなかった。「私も…がんばらないとねー」「がんばる…かぁ」進級する為に僕を殺すと言った彼女、僕を殺したら泣くと言った彼女。彼女は、何をがんばるのだろうか?僕はやっぱり、詳しい事を聞くこと出来なかった。意気地なしだから…しょうがない。


散歩から戻り、部屋に戻る。「今日も一日疲れましたよー」「僕もすっごく疲れた…」電気を消して、布団にもぐる。「それじゃおやすみ」「はい、おやすみなさーい」ライアちゃんとは、今日は別の布団だった。隣に彼女がいなくて寂しかったけど、人間気がつかない内に寝ているものである。

今日も一日が終わる。

友達って、良いもんですよね。十夜にも、良い友達ができたみたいで、良かった良かった

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