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悪魔来  作者: 銀翠
5/18

その5〜理由〜

あれ?ここはどこだ?気がつくと、学校の教室のような場所にいた。休み時間なのか、少年・少女たちはグループを作って話している。その中で目についたのが、窓際の椅子に座っている少年だった。身長は150前後でやせている。髪は黒くて、眉毛に届かないぐらいの長さだ。それなりに整った顔をしているけど、かっこいいというよりもかわいいと言った感じだ。それはきっと、その少年がまだ子どもだからだろう。どことなく、近寄りがたい雰囲気をかもし出している。

その少年は、誰とも話さずにただ一人窓の外を眺めている。グループから一人の少年が抜けてきて、窓の外を見ている少年に話しかける。「霧崎、今度の休みにクラスの奴らで遊びに行くんだけど、来るか?」「ん…場所によるけど」「場所はまだ決まってないんだ、細かい事が決まったら連絡するよ」その少年はグループに戻っていった。

場面は急に変わり、窓の外を眺めていた少年が廊下を歩いていた。廊下の突き当たりを右に曲がった辺りから、声が聞こえてくる。「えっ?霧崎誘ったの?」別の声も聞こえてくる。こちらの声は、さっき少年を誘った少年の声だ。「ああ、あいつ全然話しとかに混じってこないから、誘ってみたんだけど」「あいつ暗そうじゃね?場が盛り下がりそうじゃん」「まぁ確かに、でも…」そこから先は聞き取ることが出来なかった。その話しを聞いていた少年は、反対側に走っていってしまった。

暗いと思うなら誘うな、別に友達なんかいらない!一人のほうが気が楽だ!走っていった少年の思いが、漠然とそこに残されていた。


「…うや」誰かが何かを言っている。「…十夜」ああ、僕を呼んでいるのか。「十夜!」目を開けると、顔を覗き込んでいるライアちゃんが、僕に呼びかけていた。「ん…どうしたの?」「どうしたの?じゃないですよー、なんか苦しそうにうなされてたんですよ…大丈夫ですか?」僕は体を起こす。夢だったのか…嫌な夢を見たな。「ちょっと嫌な夢を見てね」実際はちょっとどころじゃないけど。そう言えば、髪伸びたな…うざったいから切らないとなぁ。眉毛の下より垂れている髪の先端を、少しつまむ。「夢ですかー…なんにせよ、心配しましたよー」彼女はほっ、と一息をつく。「ごめんごめん、心配かけちゃって」「で、なんの夢見てたんですか?」「ん…覚えてないや」さっきの光景が、思い出される。嫌な気持ちがばれないように、軽く笑いながら言う。「しょせん、夢だしね」あれは夢じゃなく、実際にあった事だった。その二日後から僕は学校へ行かなくなった。「えー、気になるなぁ」「気にしない気にしない…さて、朝ご飯食べる?」時計を見ると、9時だ。「うん、食べましょー」彼女の目は心なしか輝く。お腹空いてたのか…。


いつも通り、チンして食べて後片付け。相変わらず母はいない。

部屋に戻り、布団に横になる。「寝るんですか?」「いや、少し横になるだけ」「太りますよー」なんて言いながら、ライアちゃんも僕の隣に横になる。「少し太ったほうがいいな」僕はやせ型なので、たまにそう思う。「確かに、十夜はやせすぎですよー」「ライアちゃんだって、やせてるじゃん」やせてるというか、ただ単に小さい。上にもないし横にもない、といった感じだ。「私は小さいだけですし…」「まぁその内大きくなるんじゃない?いろいろ…」胸とかも、とか考えたら、「死にますか?」と言われた、どうやら読まれた様だ…。

「それにしても、暑いー」「そうですか?」「そういや、暑いの好きなんだっけ」暑いのは、すぐ隣にライアちゃんがいるせいってのもあるんだけどなぁ…ていうかなんでくっついてるんだろうか?「その分、寒いのはちょっと苦手ですけどね」「ふーん…やっぱり魔界にも四季はあるの?」「魔界には、月毎に季節がありますよ」「多いなぁ。なんていうか、やっとこっちの世界と違うところ発見って感じだ」魔界もこっちの世界も、今までの話ではあんまり変わりがなかったから、少し驚きだ。「月毎って言っても、こっちの世界で言う二十四節季みたいなものですよ」「ああ、立春とかそういうのね」そう考えると、あんまり違いはなさそうだ。「細かいほうがいいのかなぁ…」「そんな事はないですよー、それぞれですよ」まぁ、確かにそうだな。「暑いなら、プールいきましょーよー」「却下だー、あんな人が多いとこ行きたくねー」ライアちゃんはぶーぶー文句を言う。「ぶーぶー」ってそのままかよ!「それに、ライアちゃん水着とかないでしょ?」「背中に入ってますけど?」もう何も言うまい…。「プールプールー」ライアちゃんは駄々をこねる。なんていうか、まるっきり小学生みたいだ。「却下だー、何よりお金がない」近くにあるプールは、大人(高校生から)1000円、子ども(3歳から中学生まで)500円、と地味に高い。しかも泳いだら、飲み物や食べ物も買うだろうから、大変なことになる。だって、彼女はかなり食べるだろうから…。それでもライアちゃんは駄々をこねる。「プールー」もはや泣き出しそうだった。「分かった分かった…ちょっと待ってて」起き上がり、部屋を出る。「むー?」待っててと言ったのに、ライアちゃんはついてきた。

家を出て、外にある物置を漁る。「あー、と確かここらに…」彼女は後ろから顔を覗かせている。「何探してるんですか?」「大きいプールは無理だけど、子ども用の小さいプールがあったはず…お」発見した。ビニールのミニプール、確か小学生ぐらいの時に買ってもらったやつだ。今だに残ってるなんてなぁ…。「これじゃだめ?」「しょうがないですねぇ…」なーんで偉そうなんだろうかこの子は…。「ふくらませるから、その間に水着に着替えてくれば?」「はーい」彼女は一旦家の中へと戻っていった。

「あちー…」太陽にさんさんと照らされながら、プールに空気を入れる。空気を入れる道具がないので、口でいれなかればならない。酸欠になりそうながらも、ふくらませ、水を入れる。玄関の前の水道から、ホースで水を取ってきているのだ。「じゃーん」とライアちゃんが戻ってきた。「似合います?」なんていうかクマだった。クマの絵が描いてあるスク水だった。「うん、似合うよ」すっっごく子どもっぽくに見えるため、やたらクマがマッチしていた。

「とおー」と、彼女はミニプールに飛び込む。ばしゃっ、とためていた水が飛び散る。「冷たい、でも気持ちいいですねー」ライアちゃんははしゃいでる。直径1メートル半ぐらいのミニプールだけど、ライアちゃんは楽しそうに遊んでいる。こんなことなら、無理してでも近くのプールに連れてってあげれば良かったかな?「てやー」ライアちゃんは僕に水をかける。「ちょっ…服が、ぶっ」顔に思いっきりかけられた。「ふふふふふ、油断大敵ですよ」彼女はなおも水をかけてくる。いいじゃないか…受けてたとう。僕は靴を脱いでミニプールに飛び込み、ホースを持ってライアちゃんに向ける。「きゃあー!卑怯で、ごぼっ」顔に狙いを定め、どばどばと水を出す。「むー!」彼女は下を向いて水を防ぎながら、水をかけてくる。「うらー!」「このー!」周りから見たら変な二人に見えたかもしれないけど、僕は最高に楽しかった。


「いやー、まいったまいった…」結局、あれから4時間ほど遊び、気がつくと結構寒くなっていた。「はっくしゅん!」濡れた体のまま、ミニプールを片付ける。ライアちゃんは一足先に、お風呂に入っている。「一緒に入りますか?」とか冗談っぽく残していった言葉が、頭から離れない。そんな言葉に、つい赤くなって反応してしまった僕も僕だが…。しかし夏とは言え、夕方近くなると結構寒くなるものだ。日が照っている時はいいけど、日が弱くなり、少しずつ風が吹いて来るようになるともうだめだ。「風邪ひかなきゃいいけど…」ミニプールの水を流し、空気を抜く。そしてまた、物置に戻す。「明日、またプールに行きたがるようなら連れて行ってあげるか…」正直、ミニプールは僕には狭かった。だから、普通のプールでライアちゃんと遊びたいと思った。まぁさすがに、水のかけっこってのはどうかと思うけどね…。

「しまった…僕どうすればいいんだ…?」片付け終わってから気づく。服は濡れたままだし、玄関にタオルはない。ライアちゃんは自分の分は持ってきてたらしく、拭いてお風呂に行ってしまった。ライアちゃんが出るまで、あと20分はあるだろう。「へっぷし!」ライアちゃんが来るまで、外で待つか…。


「十夜!?まだ外にいたの?」30分後ぐらいに、ライアちゃんが来た。「さすがに…寒い」体が震えた。「何やってるの…全く!」ライアちゃんは急いでタオルを持ってきてくれた。「濡れた服脱いで、早くタオルで拭いて」「いや、でも…」僕は濡れた服を脱ぐ、もちろん下半身はタオルで隠す。「やっぱり一緒に入っとけば良かった…」ライアちゃんはそう言いながら、濡れた服を洗濯機にいれにいく。「ほら、早くお風呂はいらないと!」僕も彼女について、お風呂に行った。洗濯機はもちろん洗面所にあり、もちろんお風呂場とつながっている。

お風呂場に入り、シャワーを出す。「ちゃんと暖まらないと、風邪ひくよ!」ドア越しから、ライアちゃんの声がする。「うん、ごめん」なんとなく、僕は謝った。「私、部屋に行ってるね。新しい洋服は洗面所に置いとくから」「待った!服は自分で出たらやるから…」「だめ!体冷やしちゃだめなんだからね!」「いや…そうなんだけど」タンスの中には色々入ってる。そりゃ思春期男子だから仕方のない事なんだけど…見られるのはなぁ…。なんて考えてる内に、ライアちゃんは洗面所を出て行ってしまった。「…これはまずいなぁ」まぁ今更焦っても間に合わないので、ゆっくりとシャワーを浴びる事にした。

「洋服、ここおいとくからねー」数分後、ライアちゃんの声が聞こえる。「あーうん、ありがとう」見られなかった…のか?いやそれはないな、だって結構浅い位置に置いてあるんだから…。母さんは部屋に入ってこなかったし、迂闊だったなぁ…。「部屋行くねー」特にライアちゃんの声に変化はなかった。「まぁいいか…って僕は何回自分を納得させてるんだかなぁ」体をよく流し、湯船に浸かる。「あー…癒される」年寄りみたいな事を言いながら、僕はゆったりとする。

十数分程浸かり、僕はお風呂場から出た。そこにはしっかりと、新しいタオルと着替えが用意されていた。「うーむ…」パンツも用意されてあるのは、少し複雑な気分だ。

着替えて、ドキドキしながら部屋に戻る。「いやー、さっぱりした」ライアちゃんは僕の布団の上に横になっていた。僕は平静を装い、ライアちゃんの隣に横になる。「風邪ひいたらさすがにまいるなぁ」「全くー、あれじゃ風邪ひかせてください、って言ってる様なものですよ!」「だねー、ごめんごめん。…ところで、タンス開けたよね?」さりげなく…でもないけど聞いてみる。「開けましたよー、衣服の他にエッ…」「わーわー!…やっぱり見た?」顔が赤くなると同時に、引きつる。「見ましたけど、十夜ぐらいの男の子なら普通じゃないですか?そんなに焦らなくてもー」あははー、とライアちゃんは笑う。なんていうか、こういう時は彼女が大人に見える。「まぁそうなんだけど…やっぱり見られるのは恥ずかしいというか…」「興味を持つのは、悪いことじゃないですよー。しかし十夜も結構マニアックですね、コスプ…」「わーわーわー!言わなくていいから!…っていうか読んだの?」「…少しだけ」少し顔を赤くして目をそらす彼女。死のう…というか死ぬ…。「気にしたらだめですよー」「ううー…」恥ずかしすぎる。「まぁそれはおいといて、ご飯にしましょー」「…だね、遊んだらお腹減ったし」何か釈然としないものをかかえ、部屋を出た。

そして相変わらずいつも通りおかずをチンしてご飯を食べて、後片付け。今ではライアちゃんと一緒にご飯を食べるのが当たり前になっていた。でもたまに、不安になるんだ。ライアちゃんは期間が終わったら、魔界に帰ってしまうだろう。まだ先は長い、でもすぐに終わってしまうだろう。いつかは来る別れが、すごく寂しかった。


僕らはご飯を食べ終えた後、食後の散歩に出た。いつもの散歩コースである。空にはきれいな星が輝き、虫たちは合唱するかの様に鳴いている。

歩きながら、僕はライアちゃんに聞く。「ライアちゃんは、二ヶ月以内に僕を殺せなかったら、どうするの?」「その時は諦めて、魔界に帰りますよ。卒業できないのは、ちょっと辛いですけどね」あはは、と笑う彼女。どうせ別れてしまうなら、彼女に殺されたほうが僕も彼女も良いと思った。だから、僕は言った。「ライアちゃんになら、殺されてもかまわないよ」もしかしたら、今すぐ殺されるかもしれなかったけど、僕は本心でそう思った。覚悟もそれなりにあった。「…どうしてそう思うの?」心なしか、ライアちゃんは悲しそうに言った。「ライアちゃんといるのが、すごく楽しいから、別れるぐらいなら、死んだほうがましだと思った。ライアちゃんも卒業できるしね」少しの間、彼女は黙っていた。「…ねぇ、ちょっとしゃがんで」「ん?こう?」僕は立ち止まってしゃがんだ、彼女の顔が横に並ぶ。バシンッ、と良い音が響いた。少しの間、何が起きたか分からなかった。気づいた時には、左の頬が痛かった。「えっ?」僕はそう呟くことしか出来なかった。やがて、ライアちゃんが口を開く。「十夜が死んだら、おばさまが悲しむよ!?…おばさまだけじゃない、みんなが悲しむ…」「母さんは分かるけど、みんなって…?」ライアちゃんは泣きながら言う。「友達が悲しむ、私も…悲しむよ」彼女は何を言っているのだろう?彼女は僕を殺しにきたはずなのに。「悲しむ友達なんていない…ライアちゃん、なんで君は僕を殺したら悲しむの?それが望みなんじゃないの?」「…」彼女は答えない。ああ、夏なのになんでこんなに寒いんだろうか?彼女にたたかれた頬は、こんなにも熱いのに…。「理由は…言えない。でも私は、十夜を殺したら泣くよ、だから殺さない。だって、本当は…」ライアちゃんは続きを言わなかった。理由はやっぱり言えないのだろう。胸が熱くなった。肌寒い中、胸は異常に熱を持った。ライアちゃんが、僕が死んだら悲しむと言ってくれた。その言葉だけで、僕が死ぬ理由なんて消し飛んでしまった。母さんには悪いけど、僕には彼女が一番なんだ…。いつの間に、こんなにライアちゃんを好きになったのだろう?「…ごめん、殺されてもいいなんて、もう言わない。だから…だから泣かないでほしい」僕はしゃがんだ状態からひざ立ちになり、彼女をきつく抱きしめた。「…」彼女は何も言わない。だから僕も何も言わずに、ただ抱きしめていた。


永遠に思える様な時間は、それでも永遠ではなく、時という魔力により押し流されていった。「散歩の続き、しようか」ライアちゃんのその一言で、僕らは動き出した。「うん」彼女の手をとり、ゆっくりと夜の道を歩いていく。なぜなのかは分からない、でもなんとなく、二人なら大丈夫だ、という気持ちがあった。


まぁなんだかんだで、家に着く。「今日も疲れましたよー、はやくねましょー」いつも通りのライアちゃんが、いつも通りそこにいた。それにしても、僕もだけど、ライアちゃんもかなり気持ちの切り替えはやいよなぁ…。「うん、じゃあおやすみ」「おやすみなさい」僕は布団にもぐる。彼女は電気を消して、彼女の布団にもぐる。今日も一日が終わる。

さてさて、ライアの理由とはなんの事なのでしょうね。当分出てきませんけどね…

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