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悪魔来  作者: 銀翠
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その4〜昼の憂鬱〜

「んー…今何時だ?」起き上がり、時計を見る。針は11時を指し示していた。「久しぶりに長く寝たような…ってあれ?」部屋にはライアちゃんの姿が見えない。いつもなら早く起こしてくれるのになぁ…。立ち上がり、一回体を伸ばしてから、僕は部屋を出る。

まずはキッチン、次にリビング、風呂場、トイレ、父の部屋、母の部屋と見て回るが、ライアちゃんがいる様子はない。「あれ?どこ行ったんだろう…」まさか…魔界に帰ってしまったのでは?なんて考えたが、彼女はまだ課題を終えてないので、帰ることはないと気づいた。「散歩でも行ってるのかな」玄関に行くと、ライアちゃんの靴…彼女が来てから次の日に出した、僕の小さいときの靴だ。彼女にはそれでも少し大きめだったが、彼女は気に入っていた。その靴がなかった。「散歩か…」少し前までは、朝起きたときに一人でも平気だった。けど、ライアちゃんが来てからは、朝はいつも二人だった。だから、少し寂しかった。

「ご飯食べるか」玄関から移動し、キッチンへ行く。いつも通り、おかずをチンしてご飯を食べる。なんていうか、味気ない、やっぱり一人で食べてもおいしいとは感じられない。

食べ終えて、後片付けも済ませ、部屋に戻る。

「ふー…暇だ」ライアちゃんが帰ってくるまで、一人でゲームでもやるか。てきとーにカセットを選び、やる。…少しやると、すぐに飽きた。元々、一人でこの部屋で遊ぶこと自体に飽きていたので、何をやっても長続きはしない。

「遅いなぁ…」時計を見る。まだ12時30分だ、思ったより時間は進んでいなかった。「仕方ない、ライアちゃんを探しに行くか…」パジャマから外着に着替え、部屋を出る。実際、昼間に外に出るのは久しぶりだった。「あっちー…」玄関から一歩出ただけで、真夏の太陽は僕を照りつける。母はもう仕事に行ってしまったので、しっかりと戸締りはする。「あっ、ライアちゃんが先に帰ってきちゃったらまずいなぁ…」うーん、どうするか…。まぁ仕方ないか。戸締りだけはしっかりとした。

「しっかし暑いなぁ…」太陽がやけにまぶしく感じられる。僕は夜に散歩している道を、歩くことにした。それ以外に、彼女がいそうな場所に見当がつかなかったからである。

「あっちー…」何回目かの言葉を漏らす。家の中でも、夜でも、暑いことには変わりはないけど、さすがにここまで暑いのは堪える。散歩ルートは、大体40分前後かかる。簡単に言えば、家を大回りで一周しているだけなんだけど、僕の家は田舎なので、結構(いやかなりか?)道が広いのだ。その間、熱せられた道路をただただ歩く。

「全然違って見えるなぁ…」毎晩通っている道が、全く別の道に感じられる。路傍には丈の低い草むらがあり、そこから先はたんぼが広がっている。空にはいつもの星たちはいない、鳴く虫の声も違っている。昼にこの道を歩いたのは、いつが最後だったかな?生きてきた15年に比べると、二、三ヶ月なんて短いものだけど、僕にはそれがかなり長く感じられた。二、三ヶ月の間に、僕と言う人間はこんなにも変わってしまったのだから…。

「なんて、何考えてんだろ、らしくないなぁ」暑い中、ただ歩くのは暇なので、あまりにも色々な事を考えすぎた。考える事はほとんど、自分を卑下するものばかりだ。ダメ人間な自分に、嫌気がさした。そんな事を考える自分に、嫌気がさした。考えたって何も変わらない、変えようとしなきゃ、何も変わらない。そんな事は分かっていたけど、僕は自分を蔑む事をやめれなかった。「死ねば…いいのにな」ついそんな事をつぶやいてしまう。太陽は辺りを明るく照らしているけど、僕の心の中は真っ暗だった。

「ライアちゃんに、早く会いたいな…」一人でいると、嫌な事ばかり考えてしまう。

歩いてから20分程だろうか、前から仲のよさそうな家族、父・母・小さい男の子が歩いてきて、僕とすれ違った。みんな手をつないでいて、楽しそうに笑っている。

なんとなく、胸が痛くなった。僕も小さいときは、あんな風に笑えていたのだろうか?父さんと母さんの間に挟まれ、あんなに笑顔で…。いつかあの男の子も、僕みたいになるのかな?最低のダメ人間に…。

「なんだか…なぁ」考えることは全て、ダメな事ばかり。不思議なことに、歩いててすれ違ったのはその家族だけだった。考えながらだったので、見落としはあったかもしれないけど、夏休みの昼にしては、人が少ない気がした。

家を出てから30分程たった、後少し歩いたら、家に着いてしまう。

「ライアちゃん、いないなぁ…」ただ単に、自分の気持ちを悪くするために、散歩をしたと思うのはさすがにしゃくである。

「あれ?」いつもの散歩ルート終盤で、僕は草原を発見する。その草原は、道路から少し外れたところにあった。「こんなとこに、草原なんてあったんだ」夜は暗いので、多分気づかなかったのだろう。むしろ、15年間ここに住んでて気づかなかった僕って…。まぁいいや。

なんとなく、僕は走ってみた。ひざ丈ぐらいまで草がある、草原を。なかなか走りにくい。

草原の真ん中ぐらいに、誰かが倒れているのに気づく。あれはまさか?僕はそれに走りよった。「ああ、やっぱり」仰向けになって倒れていたのは、ライアちゃんだった。「おーい、大丈夫か?」顔を覗き込む。これは倒れてるというよりも…、「ライアちゃん…なんで寝てんだ」すーすーと寝息をたてて、寝ている。「日射病になるって…ライアちゃん朝だよー!」僕は彼女の耳元で叫ぶ。「ひゃあっ!」ビクッとしてライアちゃんは起き上がる。「おはよう」彼女は少しだけ、寝ぼけ眼でぼーっとしてから、「おはようございます」と返してくれた。「って、いきなり何をするんですか!びっくりしたじゃないですかー!」あ、やっぱり怒るか。「ていうかさ、日射病になるって」このクソ暑い中、太陽を遮る物が何もない草原で寝ていたら、間違いなく干からびて死ぬと思う。「たまーには、日光浴も大事ですよー」「限度があるって…」まぁ確かに、気持ちよさそうだ。

僕も草原に仰向けに倒れて、横になる。草がクッション代わりになり、なかなか寝心地は良い。「なるほど、気持ちいいや」まぁちょっと、暑すぎるけどね。ライアちゃんも、僕の隣に横になる。「ついうとうとーってしちゃいますよね」「もしかして、散歩に出てからずっと寝てたの?」「はい、多分2時間ぐらいは…」2時間もここにいたら、僕は確実に干物になるだろうな。「暑くないの?」「暑いの好きですからー」「そっか、僕は暑いのだめだ」11月の中頃生まれなので、寒いほうが好きなんだ。誕生日は関係ないだろうけどね…。

太陽は、僕らを照らしている。暑いけど、隣にライアちゃんがいるので、嫌な気持ちにはならなかった。

「それにしても…」「ん?」「十夜がお昼に外に出るなんて、珍しいですね」「ああ、僕自身久しぶりだし。ライアちゃんが来てからも、昼間は一回も外に出てないからね」夜に比べれば、ダークな思考に偏りすぎだけど、彼女がいるなら、まぁそれも良いか。

「そういえば十夜、なんで私は君の布団の中にいたのかなー?」僕も彼女も空を見上げているので、ライアちゃんの表情は見えないが、多少からかう様な口調だ。「しかも十夜が、私の手を握ってたんだけどー?」「…たまには、いいだろ」なんとなく、本当のことは言えなかった。彼女が何に謝り、何に涙し、何に震えていたのかは気になるけど、聞くのをためらうから、僕は誤魔化した。「一人じゃ、少し寂しかっただけだよ」ライアちゃんは声をあげて笑う。「あっはっはー、十夜もかわいいとこあるじゃない」僕は赤くなる。「うっさい」そう呟くことしか出来なかった。

ライアちゃんは顔をこちらに向ける。だから僕も、自然とライアちゃんの方に顔を向けた。「ありがとう、十夜…」「ん、何が?」彼女は何も言わないで僕を見ている。僕も彼女を見ていた。ライアちゃんの顔は、すごく笑顔だった。太陽に照らされて笑っている彼女には、夜は似合わないと思った。

「十夜はさ、自分自身の事好き?」ライアちゃんは唐突に口を開く、こちらを見たままで。「んー…はっきり言って大嫌いかな、弱いし、引きこもりだし、取り柄もないし、逃げてばかりだし…」自分で言ってて、少し憂鬱になる。「ライアちゃんは、自分自身の事好き?」「そうだねー…私も自分が嫌いだよ」その返事は意外だった。「でも、自分が好きな人なんていないと思うよ。自己中心的と、自分が好きってのは全然違うしね」「難しい事言うね…」正直僕にはよく分からなかった。自分が好きだから、自己中心的になるんじゃないかなぁ、と思う。「それにしても、ライアちゃんは自分自身の事が好きなんだと思ってたよ」彼女はいつだって自信にあふれている。自分を好きじゃなければ、自分に自信を持てるわけがない。「そう見える?」ライアちゃんの顔は、なんだか寂しそうだ。僕は何も言えなかった。

「私だって、結構ひどい人間…悪魔だよ?自分の事は、自分が一番分かってる」「そんなこと…」ないなんて、僕には言えなかった。僕は彼女の全てを知っているわけではないから…彼女の全てを知らない僕が、それを否定しても説得力は全くない。でも…「でも、たとえひどい悪魔でも、僕はライアちゃんに何回も助けられてる。だから、感謝してる」「ん…ありがとう」ライアちゃんは今にも泣きそうな顔をしている。「だから、ライアちゃんも何かあったら、僕に頼ってほしいな」自分を好きになれない自分が、誰かを好きになり、守ることが出来るかなんて分からないけど、僕はライアちゃんを守りたかった。「私は十分、十夜に頼ってるよ」「そう?」「うん…」「そっか、なら良かった」「うん…」それから僕らは、何も話さなかった。話せなかったんじゃなくて、話さなかったんだ。沈黙がなんとなく、心地よかった。

太陽がゆっくりと傾いていく、夕方ぐらいになった頃、ライアちゃんは立ち上がった。「お腹空いちゃった、帰ろう十夜」「うん」僕も立ち上がる。「やっぱり、ご飯食べないと力でないよー」「帰ったら、いっぱい食べよう」僕は、ライアちゃんの手を握った。彼女も手を握り返してくれた。僕らは手をつないだまま、家に帰った。


「疲れたよー」まぁ、いつも通りなライアちゃん。さっきみたいに大人っぽくなる時もあるけど、いつもの彼女のほうが僕は好きだった。


ご飯を食べ、部屋に戻る。ライアちゃんは僕の布団に飛び込み、「疲れたよー、このまま寝ちゃいたいー」と言う。「ていうかさ…ライアちゃん昼寝してたんじゃ?しかもそこは僕の布団…」「疲れたときは寝るんですよ!疲れてなくても、眠かったら寝るんですよー!」うわっ、すごいダメ人間っぽい!「寝るんならそっちで…」「たまには、いいんでしょー?」「うっ…だからそれはたまに、の話で…」「私と寝るのがそんなに嫌なんですかー!?」「ちょっと…痛い!」枕が飛んでくる。「しかも、そんな勘違いを招きそうなこと叫ぶんじゃねー!」枕を投げ返す、顔に命中。「やりましたねー!」「うらー!」部屋でドタバタドタバタと、枕投げが始まる。

疲れ果てて終わる頃には、部屋がひどい有様になっていた。「片付けようか…」「そ、そうですね…」ああ、僕らは何をやってるんだかなぁ…。

まぁ仕方なく、というか実際は嬉しいんだけどさ…ライアちゃんが一緒の布団の中にいるわけで…。昨日はそんな雰囲気でもなかったから、変な気は起きなかったけど、今日はさすがにまずい気がした。「んじゃ、おやすみ」「おやすみですよー」電気を消す。

…やばい、寝付けない。ライアちゃんに手を握られているので、動けない状況だ。彼女はすーすーと寝息をたてているが、こっちはそれどころじゃない。

なんとか色々我慢し、僕の意識がとんだのは大分時間がたってからだった。

今日も一日が終わる。

一人でいると、つい嫌なことを考えしまいませんか?なんて、ここまで自分を卑下するのは、十夜と僕くらいのものだと思いますけどね。

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